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デジタル化で変わる 船のものづくり

  • 2022年06月16日

    「100年に1度の転換期」と言われている造船業。
    脱炭素の動きが加速する中、次世代のエネルギーで動く船の開発競争が激しくなっています。

    こうした中、広島県福山市に本社がある造船大手「常石造船」は、デジタル化で新たな船づくりに挑戦しています。

    (広島放送局福山支局記者 橋本奈穂)

    設計図の3D化で効率アップ

    常石造船は、ばら積み貨物船を中心に、コンテナ運搬船やタンカーなどを建造していて、その建造量は世界10位です。
    いま、船づくりの現場で取り組んでいるのが、設計図のデジタル化です。

    船の製造現場

    工場の現場を訪れてみると、作業員がタブレットに映し出される設計図を見ながら、配管の組み立て作業を行っていました。

    タブレットに映し出されている設計図は、船の機関室の一部。
    ここで使われる配管は、およそ4000本にのぼります。
    3Dで立体的に表示され、配管や部品ごとに色分けがされている上、部品の大きさも実際と同じ比率で表示されています。
    誰が見ても作業がしやすくなり、作業時間が大幅に短縮されました。

    (現場製造部門責任者)
    「パイプの太さもわかるし、どっちが長いのか短いのか、
    ぱっと見て直感的にわかりやすいです。
    この場所で作るものの情報だけが入っていて、作業員が完成形を予想しやすいです」

    これまでの設計図

    造船の現場では、これまでアナログの設計図に頼っていました。
    紙一面に黒い線が迷路のように何本も引かれています。
    大きさの違う配管も、すべて同じ太さの線で描かれています。
    このため、設計図の情報を正確に読みとれるようになるには経験が必要でした。

    設計図の共有がカギ!

    海外の設計拠点とのやりとり

    設計図のデジタル化の導入で、製造現場だけでなく、設計の仕事のやり方も大きく変わりました。
    完成する前の設計図をオンラインで共有できるようになったからです。

    1台の船の設計をフィリピンや中国など複数の海外拠点と、情報を共有しながら並行して行う「コンカレント」が可能に。
    さらに、オンラインで共有できるようになり、在宅勤務も可能になりました。

    また、設計図を描く部門と実際に船を製造する部門が、設計の途中段階でも情報のやりとりができるようになりました。これによって、製造現場で培われてきた知恵を設計に反映することができます。

    デジタル化の導入で、時間や人材を効率よく活用できるようになったことに加えて、
    新しいタイプの船を建造する際の不具合を、およそ8割も減らすことができたといいます。

    経営の柱は「デジタル化」と「新エネルギー」

    デジタル化の旗振り役は、去年就任した奥村幸生社長(62歳)です。

    常石造船 奥村幸生社長

    広島県尾道市出身の奥村社長。
    常石造船に入社後、20年以上にわたって製造現場でキャリアを重ねてきました。
    2011年からは、中国の子会社で工場長や現地法人のトップを歴任。
    4年前に帰国後は、設計本部長を経験しました。

    社長就任をきっかけに、会社の競争力を高めるため、デジタル化を推進。
    全社的なデータ活用を進めるため、部門ごとの連携の強化に取り組んできました。

    常石造船 奥村幸生社長
    「海外と日本、設計と工場との間だけではなく、
    社内の調達と営業などさまざまな部署どうしで連携を強化することで、
    仕事のやり方も変わるし、成果もリアルタイムに見えてきます。
    仕事の効率化を図り、競争力を高めていくためにも、デジタル化は必須です」

    中国・韓国との競争激化

    奥村社長がデジタル化を急ぐ背景には、日本の造船業が置かれている厳しい現状があります。
    世界の造船業では、中国や韓国が経営統合などをして規模を拡大しています。
    新造船建造量を大きく伸ばしていて、競争が激しくなっています。

    さらに、造船業界でも脱炭素の動きが加速。
    水素やLNG、アンモニアなど、新たなエネルギーで走る船のニーズの高まりで、
    「100年に1度の転換期」と言われています。
    造船会社は新技術を開発し、付加価値の高い船の建造にシフトしていくことが求められています。

    このため、この会社ではデジタル化で新たな時間を生み出し、技術開発を強化していきたいと考えています。

    奥村社長
    「大きく変化している時代なので、これに乗り遅れず、デジタル化で仕事を効率化し、
    余裕ができた人や時間を次世代のエネルギーや船の研究開発にまわしていきたいです」

    次世代船の開発で“先頭を走る”

    この会社では、2023年以降、次世代のエネルギーで走る船の建造に本格的に取り組んでいきたいと考えています。

    LNGを主燃料とした貨物船「KAMSARMAX GF」イメージ図

    LNG=液化天然ガスを主な燃料とする船の開発を進めているほか、ことし10月に子会社化予定の「三井E&S造船」のガス関連の技術を生かしながら、アンモニアなど次世代燃料で動く船の開発にも取り組みたいと考えています。

    常石造船 奥村幸生社長

    奥村社長
    「次世代エネルギーの船を開発していかないと、生き残っていけません。
    そうした研究開発の分野で、先頭を走りたいと考えています。
    持続可能な社会を構築していくための、わたしたちの貢献だと思っています

    造船業に迫る荒波を、船づくりのデジタル化で乗り越えていきたい。
    地方から世界への挑戦は続きます。

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