クローズアップ現代トップ > みんなでプラス > ジェンダーをこえて考えよう #BeyondGender > まだ「生理」を語れない だから、ドラマで描いてみた Vol.38
#Beyond Gender
2021年10月29日

まだ「生理」を語れない だから、ドラマで描いてみた Vol.38

「雨が降ると、死にたくなる時があるー」。

ちょうど季節の変わり目で生理痛がひどかった去年秋のある日、私はその一文を目にしました。あるインターネットのサイトにアメリカ人の女性がPMS(月経前症候群)に襲われたときの気持ちを綴った一言。強烈に見えますが、私はとても共感したのです。月に一度PMSに襲われ、もし雨が降れば低気圧も作用して まるで人が変わったように物事を悲観的に見てイライラしてしまう…。そんな状態に長年苦しんできたからです。

仕事や学校など社会の場で語りづらい生理を「何か」をきっかけに、周りの人たちと“自然に”語り合うことができたら、多くの人の心が癒やされるかもしれない。そんな場はもっと当たり前にこの日本の日常にあるべきだと思いました。

だから、言葉の陰に隠れた感情こそを描く「ドラマ」で、月経に伴い心身に生じる“生理現象”を抱えて生きる葛藤を描きたいと思いました。テレビを通じて生活の中に届くように。
そうして『雨の日』を制作しました。

ドラマ『雨の日』 総合テレビ 11月3日(水・祝) よる10時~

     

(ドラマ『雨の日』プロデューサー 家冨未央)


ふと、語り合った事から生まれた『雨の日』プロジェクト
イライラや不安感、お腹(なか)や乳房の張りや痛み…。
生理の前に体や心に表れる不調「PMS」は最近ようやく日本でも雑誌やテレビで語られるようになり、症状やそれをやわらげるピルや処方薬の情報を誰もが手にできるようになりました。

でも具体的にどんな痛みや苦しみがあり、その“感覚”が生理が来る前から来た時までどのように変化するかは本人それぞれによっても異なるため、周りの理解を得るのは依然とても難しいです。

そんな難しさについて数名の同僚ディレクター(生理の当事者)たちとお茶飲みトークで話し始めたら、それぞれから出るわ出るわ、生理の悩みと生理が語れないストレスの数々…。

会議中、生理で腹痛に襲われたが誰にも言えずに堪え続けて意識を失いかけた…
ロケ当日の朝、トイレに長時間行けなくなることを予想して血が漏れ出さないように子どものオムツをあてた…
など、人知れず乗り越えてきた闘いと悲しみの実話が飛び交いました。でも興味深かったのは みな一様に悲惨な事を共有しながらも、どこか癒やされているように見えたことです。

それから、語りづらい“生理現象“をみんなで自然と語り合える“きっかけ”を作るべく、“当事者”であるディレクター、脚本家、監督、スタッフが大集結。今日も人知れず生理と闘っている人たちや、その人に何と声をかけたらいいかわからない人たちに届く作品を作ろうと『雨の日』という名のドラマプロジェクトが立ち上がりました。

頑張りたい 幸せを感じたい、そんな時に生理…

「ピンチはチャンスと言うけれど、跳ね返せないピンチもある」
(写真:主人公・ヒカリ役/コムアイ)


“生理現象“のつらさを最も他人に言いづらいのはどんな場だろう…。
脚本家や監督と相談を繰り返す中で、グラビアモデルの皆さんの撮影現場に出会いました。

青少年向けの雑誌の巻頭は魅力的な水着姿の女性たちが飾ることが多いです。そこで男性読者の間でファンが増え、一部のモデルのみなさんは俳優やタレントへと転身をとげていくこともあります。

早速、あるグラビアモデルの方々に監督の酒井麻衣さんと一緒に取材してみると、撮影時にPMSや生理が重なって水着姿になることの不安や ボディラインがむくむことを気にしていることなど体験談をたくさん教えてくれました。

意気込んでいた撮影当日に生理が来て、慌てて駅のトイレで慣れない挿入の痛みを我慢しながらタンポンを入れたという方や、早い年齢から低用量ピルを飲んで生理周期をコントロールしようと努めてきた方もいました。

監督が取材の時、「もし あなたが撮影現場で生理になっていたら、スタッフは誰が知っている状態ですか?」と聞きました。

撮影する時は、モデルを取り囲むカメラマン、メイクやスタイリスト、制作のお手伝いをする人、そして雑誌編集者やマネージャーがいます。男性が多くを占める現場が多いようですが、もしモデルが生理になったら最初に知るのはスタイリスト。つまり、他のスタッフは知らないまま進行することも多く、血が漏れない対策をアレコレして乗り切る局面もあるそうです。他のスタッフは何も知らないまま撮影が進むことは少なくないといいます。

モデルの方々のお話を聞いていて印象的だったのは、それぞれみなさんが周りに迷惑をかけずに撮影をなんとか乗り切ろうとさまざまな工夫をしている様子でした。「生理だからつらい!」と言ってしまえたら楽だと思います。でも「それを言ったらチャンスが二度と巡ってこないのではないか…」と恐れる気持ちもあるのだろうと感じました。

これはグラビアモデルの皆さんに限らず、学生、会社員、アスリート、子育てや介護などに従事する人など、さまざまな人たちにも通じる感覚なのではないかと思います。


「私の成長は、ヒカリに撮ってもらう」
(写真:かつてのヒカリの友達・ミドリ役/成海璃子)


この物語は、何かの壁に立ち向かって意気揚々と乗り越えていくような話ではない。頑張りたいけれど頑張れない時もある。それでも かなえたい夢や幸せを感じたい心を捨てずに、人生を歩む話だと思いました。

葛藤を乗り越えながらも前に進み続ける方々にリスペクトの気持ちをこめたオリジナルの脚本ができあがりました。

生理は 辛い暗いだけじゃない、時にカラフルで “人生”そのもの

「私、ここから成長したいです。だから、今の私を覚えていてくださいね」
(写真:初めてのグラビア撮影に挑戦する あおい役/工藤遥)


『Singin’ in the Rain ― 雨に唄(うた)えば』というミュージカル映画があります。ジーン・ケリーがどしゃぶりの中でタップダンスをしながら口ずさむ唄。生理のドラマを考え続ける中で、なぜかずっと頭の片隅であの唄が鳴っていました。

特に日本ではPMSや生理は「重い、つらい、苦しい」というトーンで語られがちです。もちろん肉体的にも心理的にも負荷は相当ありますし、生理用品の購入など経済的負担も本当にバカになりません。

しかし見方をちょっと変えてみると生理は興味深いものです。そのつらさの種類は人それぞれで、生理何日目なのか、どういう日を過ごすのか(仕事か休みかなど)によっても感じ方がだいぶ変わります。1日の中でも感じ方が変化します。

だから、誰かがちょっと声をかけてくれることがとても優しく深く響くこともあります。そう考えると“生理現象“は人生そのもののような“浮き沈み”と“彩り”を持っているとも思えます。

監督はこの作品に できるだけ“色”をカラフルに織り込みたいと考えていました。キャストの衣装も小道具も できるだけ色味とデザインを多様に配置。

クライマックスの海辺のシーンの撮影場所は宝箱をひっくり返したような小道具に囲まれたロケ場所が選ばれました。写真にもあるレインボーカラーのビニール傘は、監督のこだわりの小道具です。

撮影部や照明部のスタッフは色が美しく映えるように、光を意識して映像を切り取ってくれました。ずっと雨を降らせながら撮る物語だったので(撮影はタフでしたが)、雨が冷たい雨だけではなく、時に暖かく見えるように撮れないか…といった話し合いも行われました。

色を意識して撮られた映像にみずみずしさを音楽が加えてくれています。写真にもある、ビニール傘を振って踊るように海辺を歩くシーン。

「小さなオーケストラ」というコンセプトを元に身近な楽器を使いながら優しい音が飛び跳ねるような楽曲が生まれました。心の中が灰色なときもあれば、急に暖色に満ちていくような感覚を引き立たせてくれています。

言葉、表情、空間、音…それぞれが色を持って重なる感覚を「ドラマ」の手法を使ったことで表現できたのではないかと思います。

余談ですがドラマの撮影初日、生理2日目のダルさで顔をしかめていた私は息子から「ママのお腹(なか)はどれぐらい痛いの?」と聞かれました。

その時「痛いというか、とてつもなく重いんだよ」と答えたら「えー、牛がいるぐらい?」と驚き、しばし牛がお腹の中にいる図を想像していた様子でした。

小学校低学年の男の子が考える生理の感覚が面白くて、「自分が低学年の時は男の子たちは生理を学校で学んでいたかしら?」と思い返しながら顔の歪みは一瞬なくなった気がしました。牛を想像しながら心配してくれた息子の優しさが身に染みました。

これからの日本は子供たちもが自然と“生理現象“について語れる、語りやすい社会になれたらすてきです。

画面の中に、さまざまな当事者が存在できるように

「知らなかった、こんなに種類があるなんて」
(写真:あおいのマネージャー・須藤役/後藤剛範、ロケバスの運転手・航役/成宮涼)


この写真(上)は撮影中に生理になってしまったあおいのためにドラッグストアに生理用ナプキンを買いにきたシーンです。手前の男性(あおいのマネージャー)はナプキンの種類のあまりの多さにどれを選べばいいのかわからず呆然としています。

実はこのシーン、ドラマの立ち上げメンバーの一人の男性プロデューサーが妻から「ナプキンを買ってきて」と言われて「おりものシート」を間違って買って帰ったというエピソードから生まれました。

生理がある人にとっては当たり前の売り場コーナーも、生理を経験したことのない人にとっては混迷を極める“ジャングル”なのだと作品づくりを通じて感じました。

撮影中、「ナプキンてどうやって体に張りつけるの?」と尋ねてきた男性スタッフがいました。私は「体につけないですよ。下着につけるんです。」と答えると「ずっと知らなかったー!恥ずかしい!」と声を上げました。

でもそれは決して恥ずかしいことではありません。わからないことをわからないと口に出して語り合えたことはとても貴重だったと思います。「炎上するから」「空気読めてない」と思われるから「わからない」と言えない世の中はとても窮屈だと感じます。

そして生理を語るのは決して女性だけではなく、男性もトランスジェンダーの方もいてしかるべきだと思います。

この作品を通じて出会ったトランスジェンダーの男性の方が、かつて生理が来て悩んだときのことを語ってくださったとき、「こういう人がいることを画面を通じて伝えられたら、昔の自分のような悩める人の気持ちをちょっとだけ救えるかもしれない」とおっしゃいました。

私たちはほぼ無意識に「この話題は女性向け」「この話題は男性向け」と分けているときがあると思います。しかし生理は自分、家族、友人、知人、誰もが向き合っていることなので、逆に話す相手を広げてみると凝り固まった自分の感覚が広がっていくのではないでしょうか。

作品をつくるために、キャストとスタッフととことん“生理現象“について会話した数か月はとても新鮮で、これまで「個人的なことだから我慢しなければ」「弱みを言ってはいけない」と暗黙のうちに抑えていた感覚が柔らかく多様に広がっていくような体験でした。

ドラマ制作を通じて思うこと
このドラマの制作は実はとても緊張感を伴う怖いものでした。

物語の中で何か劇的な事が勃発するわけではありません。むしろ できるだけ登場人物の五感…つまり個人の中でアップダウンする感覚を丁寧に描きたいと思いました。

そのためにチーム一同、とても繊細に各キャラクターを掘り下げる一方で、それぞれの性格や感情を一面的に“決めつけない”ように気をつけました。そして、ひとりひとり自分のパートナー、兄弟姉妹、親や子どものことを思いながら制作に取り組んでくれたと思います。

『雨の日』の英語タイトルは『Our Rainy Days』にしました。

“わたしたち”に向けたお話です。見てくださる方たちが雨の日を迎えるときにちょっとでも苦しいと思う気持ちを声にできたり、隣で苦しそうにしている人に優しく声をかけてみようと思えたりしたら、とても幸いです。

これが一つの作品という以上に、社会がちょっと優しくなるための「きっかけ」としてお届けできますように。

【放送予定】
特集ドラマ『雨の日』11月3日(水・祝) <総合>よる10時~
ドキュメンタリー『雨の日』11月3日(水・祝) <総合>よる10時55分~

あなたは生理やPMSの悩みについて身近な人と話したり相談したりしたことはありますか。どんな言葉や対応に癒やされますか。どうすれば生理について話しやすい環境が生まれると思いますか。みなさんのご意見や記事、ドラマ&トーク『雨の日』への感想を下の「コメントする」か、ご意見募集ページからお寄せください。


※コメントは編集部で内容を確認の上、掲載させていただきます。