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2021年1月8日

子どもに「普通の生活」をさせてあげたいのに


コロナ禍で、ひとり親家庭の生活が厳しさを増しています。
NHKと専門家が実施したアンケート調査では、新型コロナウイルスで雇用に影響を受けたシングルマザーのうち、「食費を切り詰めている」人は30.6%、「公共料金の未払いや滞納をしている」人も10.8%に上ることが明らかになりました。(NHK×JILPT共同調査 LINEリサーチにて実施 回答148人)
関西地方のある家族を取材すると、経済的な苦しさが母親としての自尊心まで奪っていくことや、子どもたちの未来にも暗い影を落とし始めている現実が見えてきました。さらに、国の支援策である緊急小口資金の課題も明らかになってきました。
ひとり親家庭にいま何が起きているのか。4人の娘と母親で暮らす家族の声を聞きました。(杉田さんの家族の状況については、2020年12月5日(土)に放送したNHKスペシャル「コロナ危機 女性にいま何が」でもお伝えしました)

(報道局 社会番組部 ディレクター 中村 幸代)


新型コロナで内定取り消し まさか自分が“貧困”に・・・


関西地方で暮らす、40代のシングルマザー、杉田彩子さん(仮名)は、高校生と中学生、幼稚園児2人のあわせて4人の娘を1人で育てています。「声を上げたくても上げられない人たちがいる。この声が少しでも国や社会に届けば」と取材に応じてくれました。

杉田さんは、2019年秋に離婚。元夫からは自宅を譲り受け、残りの住宅ローンを支払ってもらう代わりに、養育費は受け取っていません。離婚後、四女が幼稚園に入るまでは貯金を切り崩して生活し、2020年4月から食品加工会社で働くことが決まっていました。ところが、新型コロナの影響で会社の経営が悪化し、内定が取り消しとなったのです。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
普通に生活していけると思っていたのが、全て崩れた。こんなに生活が変わるなんて、思ってもない事態。これまで貧困世帯の話をテレビで見ていたら『かわいそうやな、何かできたらな』と思っていたのが、自分に切り替わった」

食費を切り詰めても赤字 一食でも多く子どもたちに


その後も仕事は見つからず、いまは児童手当や児童扶養手当など、合わせて月に約14万円の手当を頼りに、生計を立てています。どれだけ生活を切り詰めても、子どもたちの食費や教育費で、家計は毎月赤字が続いているといいます。

朝7時。子どもたちを起こし、台所で朝ごはんの準備をする杉田さん。勢いよくパンを食べる子どもたちの隣で、杉田さんは子どもたちのパンの“耳”だけを食べていました。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「一食分でもこの子たちに回ると思ったら、この子たちに回してあげたいから。野菜やお肉は見切り品を買っているし、食費はとにかく切り詰めているけど、それでもキツキツ。毎日お金どうしよう、明日は何食べさそうって、そればっかり考えている

仕事が見つからない コロナ禍とシングルマザーの“二重の壁”


杉田さんは、半年以上仕事探しを続け、これまで30件以上の求人に応募してきましたが、面接までたどり着けたのは、10数件程度だといいます。毎日の幼稚園の送り迎えがあるため、働けるのは朝9時~夕方5時までに限られます。街で求人票を見つけると、片っ端から電話をかけているという杉田さん。この日も、スーパーで「シフト要相談」と記された飲食店の求人票を見つけると、電話を2件かけました。しかし、時間帯の希望を伝えると、「夜8時までは働いてもらいたい」と、すぐに断られてしまいました。杉田さんは力なく電話を切り、肩を落としました。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「全滅かな…。こういうのが多い。面接まで行けても『お子さんが熱出したらどうしますか』って聞かれて、それも落ちる原因かもしれない。もうね、心が折れていく

杉田さんは、専門的な資格が不要で、シフトの融通も比較的利きやすいと、飲食・サービス業の求人を中心に探していますが、コロナ禍でこの業界の求人は、大幅に落ち込んでいます。

新規求人「宿泊・飲食サービス業」-34.7%(前年同月比)
(厚生労働省 一般職業紹介状況 令和2年11月分より)


NHKと専門家の調査では、2020年4月以降に職を失った女性全体のうち、2020年11月1日時点で4割近くが、「再就職していない」ことも明らかになりました。(NHK×JILPT 共同調査 LINEリサーチにて実施 回答552 人)

家計を支えるのは 高校生の長女


杉田さんの仕事が見つからない中、高校生の長女は少しでも家計の助けになるようにと、 夏ごろからアルバイトの掛け持ちを始めました。週4日働き、多いときには月に約5万円を家計にいれています。

いまの状況について、長女はどのような思いを抱いているのか。話を聞きました。

長女(高校生)
「一番動けるのは私ですし、高校もお金がかかっている分、頑張らなあかんなって。バイト疲れみたいなのはあるんですけど、それで弱音吐いてもいいことないので、家でも明るい方がいいかなと。家族が一番大切です。自分はなんかもう普通に生活できたらいいです

勉強にかける時間は以前より短くなり、友達の誘いも断らざるをえないときもあるといいますが、それでも「我慢は全然していない」と、長女は気丈に話しました。

進路の選択にも影響が・・・


高校受験を控える中学生の次女も、家計のことを気にかけた進路を考え始めていました。

次女(中学生)
「全日制の公立高校に行きたいけど、無理であれば、夜間の定時制高校か通信制高校にしようと思っています。夜間の授業やったらお昼働けるし、ちょっとは足しになるかなと思って」

高校進学に必要な、奨学金をもらうための応募作文には「妹が幼いので、なるべく早く就職してお給料をもらい、家庭を少しでも支えたい。就職につながりやすいように、高校では資格が取れる検定試験をたくさん受けたい」とつづっていました。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「いっぱい“就職”って言葉が書いてあるから…。普通だったら、楽しい学校生活を送りたいって思うところを、中学生から“仕事”のことを考えさせていることが申し訳ない」

“階層”をはい上がれない


杉田さん自身も、シングルマザーの家庭で兄と2人で育ちました。母親は、3つの仕事を掛け持ちして、朝から晩まで働いていたといいます。それでも家計は苦しく、高校に進学させてもらえたのは「男性」という理由から兄だけでした。人生の選択肢が狭まることでの苦労を知っている分、「子どもたちに自分と同じ思いはさせたくない」と杉田さんは考えています。しかしコロナ禍で、はい上がることは一層難しくなっているといいます。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「母親と“同じ道をたどってるな”と思うときがある。テレビとか見てたら『シングルマザーにも手厚く』とか『女性でも進出できるように』というけど、それが届いているのは、ほんまに上の一部の人やと思う。マンションで言ったら、“低層階”の人は、エレベーターのボタン押しても、上には上がれない。1個ずつでも“階層”を上げようと、ずっとボタン連打しても、どうにもなれへん状況」

「緊急小口資金」が借りられない


実は杉田さんは、去年5月から4回にわたり、新型コロナの影響で収入が減った人が、最大20万円を借りられる「緊急小口資金」の申請をしようと窓口に相談していました。新型コロナの影響で決まっていた仕事が取り消しになったため、貸付を受けられると思ったのです。ところが担当者からは、「感染拡大以前に働いていた実績がなく、“収入が減った”わけではない」と申請の対象外だと言われ続けました。

1人10万円の給付金や、ひとり親世帯向けの臨時特別給付金で赤字をなんとか補填してきたものの、それらも使い果たし、水道代の支払いが滞るまでに追い込まれる事態となっていました。
再び行政の窓口へ


杉田さんは生活保護には頼らず、自力で頑張りたいと思っています。去年11月、「これ以上子どもたちに負担はかけられない」と、一縷の望みを託して、再び「緊急小口資金」の申請窓口に向かいました。

厳しい生活状況を必死に訴えましたが、やはり返ってきたのは「収入が減っていないため、審査が通るのは難しい」という言葉でした。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「なんのための緊急小口資金なのか。最後の頼みの綱だと思って、藁をもすがる思いで来ているのに…」

子どもたちに迷惑をかけたくない


「おっきいプレゼント、ほしい」。
クリスマスが近づく中、5歳の三女が、無邪気におもちゃのキッチンセットをねだりました。「いい子にしていたらサンタさんが来るよ」と、子どもたちの前では明るく振舞っていた杉田さんでしたが、1人になると、子どもたちに対する思いを、涙ながらに声を震わせて語り始めました。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「もう、これ以上子どもたちに迷惑かけたくない。子どもに頼っているこの生活が、親として情けない。働きに行けて、普通に生活させてあげたいけど、思うようにいかへんのがすごくつらい…」

コロナ禍、杉田さんは母親としての“自尊心”までもが奪われていくと感じていました。

緊急小口資金 運用の課題


撮影が終わった後日、杉田さんから電話がかかってきました。「緊急小口資金」の窓口の担当者から、「娘さんの収入がコロナ前後で一時期的でも減っていれば、貸付が可能になる」と言われたといいます。制度として「世帯主以外であっても、同じ世帯の人の収入が新型コロナの影響で減少していれば、貸付の対象になる」ということでした。

杉田さんが窓口に問い合わせて5回目、ようやく貸付の審査が通りました。しかし、公的支援に対しての疑問は残ったままだと話します。

杉田彩子さん(仮名)(40代)
「最初に相談したときから、娘の収入が減ったことついて説明していたのに、そんな説明は受けず『該当しない』と言われ続けていた。なぜ最初から対応してくれなかったのか

なぜこのようなことが起きたのか、私は改めて厚生労働省に問い合わせました。厚生労働省の担当者からは、以下のとおり回答がありました。

厚生労働省 担当者
「放送の反響も大きく、今回の事態については真摯に受け止めている。1人1人の相談ケースにきめ細かく対応して支援が行き届くように、いま全国の相談窓口に向けて、どのようなケースの場合には、どのように対応をすればよいかをQ&A形式で記した問答集※を作り直している

※緊急小口資金等の運用に関する問答集。誰でも閲覧可能で、申請者自身もルールを確認することができます。

新型コロナによって生活が困窮する人たちを救うために設けられた「緊急小口資金」。感染拡大がさらに深刻化する今だからこそ、困っている人たちに、支援の手がきちんと行き届くためにどうしていくべきか、考え続ける必要があるのではないでしょうか。

子どもたちの“未来”が奪われないよう‥


去年12月、国はひとり親世帯への追加給付を決めました。杉田さんは、なんとか年を越すことはできたものの、春には次女が高校生、三女が小学生になり、入学のための準備で出費もかさみ不安な日々が続いています。NPO団体に、食料支援を求めるようにもなりました。

コロナによって奪われた“普通”の生活。子どもたちの“未来”が奪われないようにするために、どのような支援が求められるのか。これからも彼女たちの声に耳を傾け、取材を続けていきたいと思います。

<緊急小口資金に関する相談>
 ▼厚生労働省 生活支援特設ホームページ
 ※リンクをクリックするとNHKサイトを離れます。
 https://corona-support.mhlw.go.jp/
▼厚生労働省 緊急小口資金等の特例貸付の運用に関する問答集(令和2年12月28日時点)
※リンクをクリックするとNHKサイトを離れます。
生活者向けの支援に関する情報
https://minna-tunagaru.jp/mhlw/covid19/life/
→このページの「緊急小口資金 Q&A」をご覧ください
<関連番組>
 ▼2020年12月5日(土)放送 NHKスペシャル「コロナ危機 女性にいま何が」
 https://www.nhk.or.jp/special/plus/videos/20201211/index.html


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