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2023年11月27日(月)

桑子キャスターが行く“地球沸騰化”の世界 第1夜 急増“気候難民” 故郷追われた先に

桑子キャスターが行く“地球沸騰化”の世界 第1夜 急増“気候難民” 故郷追われた先に

いま世界で気候変動によって住み慣れた場所からの移住を余儀なくされる“気候難民”が急増。2050年までに2億人以上が“気候難民”になり、世界が不安定化するとの指摘も。しかし国際社会で明確な位置づけがなく、支援の手は届きにくい。番組では桑子キャスターが歴史的な干ばつに見舞われたアフリカ東部などを取材。私たちの暮らしがどんな影響を及ぼしているのか、日本など先進国の責任や役割とは―。現地から生中継。

出演者

  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

地球沸騰化の世界 新たな危機“気候難民”

私は今、アフリカ東部のケニアに来ています。時刻は午後1時半を回ったところです。私が立っているのはもともと川だった場所です。かつては2~3メートルほどの深さがあったということですが、ご覧のように今はほとんど水はなくなっています。

今ちょうど雨季に入って、この時間も先ほどから雨が降り始めましたが、過去40年で最悪といわれる干ばつに見舞われたここ、ケニアをはじめ、アフリカ諸国は気候変動の影響を最も強く受けているといわれています。

二酸化炭素の排出量は、1人当たりに換算するとアフリカは先進国と比べて極めて少ないにもかかわらず、人間の活動が引き起こす地球温暖化のしわ寄せが特に及んでいる地域です。

今週から国連の気候変動対策を話し合う会議「COP28」が始まります。異変はどこまで進んでしまったのか。そして、私たち日本も含めた国際社会は一刻の猶予もない危機にどう対処すべきなのか。今回から2日間にわたって最前線の現場をお伝えします。今回は人類が直面する新たな危機、気候難民の実態です。

世界で急増“気候難民” 新たな危機の実態

大西洋に浮かぶ木製の船。アフリカから来た数十人の人々でひしめき合っています。彼らが向かう先は、スペイン領・カナリア諸島。中には1週間以上かけてたどり着き、倒れ込む人の姿も。

島には彼らを受け入れる一時収容施設が建ち並んでいます。近年、アフリカからたどり着く人々が急増。多いときで月3,000人近くを受け入れることもあるといいます。

10月、この島にたどり着いた人は自分の故郷ではもう生活できないと語りました。

西アフリカから来た人
「農作物の種はあっても雨が降らないため何もできません。しかたがないので水を買いに行かなければなりませんが、それもできません。だからここへ来ました」

現地で何が起きているのか。桑子キャスターは、多くの人々がカナリア諸島へ向かう西アフリカのセネガルを訪ねました。

桑子 真帆キャスター
「セネガル北部にやってきました。このあたりは、アスファルトの舗装をしていない道がずっと先まで続いています」
桑子 真帆キャスター
「ダガ村に到着しました」

ここは人口およそ900人の小さな村です。

桑子 真帆キャスター
「ハロー。かわいい。笑い転げてくれる」

出迎えてくれたのは子どもたちの笑顔。一方で若者たちに話を聞くと、深刻な声が次々とあがりました。

若者
「雨は降らなくなりました。農業はほとんどできません。何もできないのはつらいです」
若者
「船があれば若者はヨーロッパに行きます」

村の若者に畑へ案内してもらいました。

これまでインゲン豆や落花生などを栽培し、生計を立ててきたこの村。しかし、今は大地が乾燥し、収穫量が激減しています。

若者
「これはほとんど砂です。この一帯ではほとんど作物が育ちません。土がよくないのです」
桑子 真帆キャスター
「土地自体が痩せてしまったということですか」
若者
「そのとおりです。今後、数年で(草が生える)場所はなくなります。雨がもっと降ったとしても(作物は)もう育ちません」
桑子 真帆キャスター
「カチカチ。ひびがここ入ってますね。ああ、ポロポロだ」

セネガルで進む砂漠化。以前この土地は水分を含んで黒みがかっていたといいます。

しかし、この70年、セネガルでは降水量が30%以上減少。森林伐採などの影響もあり、農地の6割以上が砂漠化しました。

桑子 真帆キャスター
「村の農業の状況はどうなんでしょうか」
ダガ村のリーダー
「農業は昔ほどうまくいっていません。以前ほどの収穫はもうありません。一番必要なものは水です。もしもここに井戸を掘り、水が出れば若者は畑に残っているでしょう。ここには仕事がなく収入もないので、私は出て行く人々を止めることはできません」

国外に向かった家族が命を落としたという人も。

ファトゥ・ニャングさんです。夫のラミーンさんを亡くしました。

桑子 真帆キャスター
「これは何の写真ですか」
ファトゥ・ニャングさん
「(8年前に)長女が生まれたころの写真です。私や子どもたちを大切にしてくれた、いい夫でした」

夫のラミーンさんは2023年の夏、村から姿を消しました。3人の子どもに加え、親戚も養っていたラミーンさん。作物が育たず、収入が5分の1に激減する中、次第に行き詰まっていったといいます。

ファトゥ・ニャングさん
「私が夫から聞いていたのは、農業がうまくいかず、収入が減ったのでやめるということだけです。すべては水不足が原因です。畑の様子をご覧になりましたか。このような状況でなければ、夫は村を離れなかったでしょう」

カナリア諸島へと向かったラミーンさん。乗り込んだ船の中で水や食料もなく衰弱死したといいます。

桑子 真帆キャスター
「この先、一番心配なことはどういうことですか」
ファトゥ・ニャングさん
「子どもたちをどうやって育てるかということです。最近は泣いてばかりです。子どもたちも泣きながら父親について聞いてきます。神や親族に頼るほかありません」

今、こうした気候難民が世界各地で増え続けています。海面上昇や豪雨の多発など、地域の環境を激変させている気候変動。インフラなどの整備が整わない発展途上国を中心に、住み慣れた土地を追われる人々が相次いでいるのです。

その数、国内で避難した人だけでも世界全体で3,200万人超え。

2050年には2億1千万人に上るともいわれ、そのうちアフリカだけでも1億人を超えるとされています。

難民の支援を続けてきたUNHCR=国連難民高等弁務官事務所のアンドリュー・ハーパーさんは、気候難民の増加は新たな危機を招くと警鐘を鳴らしています。

UNHCR気候変動特別顧問 アンドリュー・ハーパー氏
「私たちは土地や水などをめぐって、多くの紛争や暴力が起こっているのを目の当たりにしています。そして気候変動はそれを悪化させています。気候変動は人々の生きる力を低下させています。私たちがこの問題を無視し、必要なときに必要な行動を起こさなければ大変な結果をもたらすことになるでしょう」

その懸念は現実のものに。過去40年で最悪の干ばつに見舞われたケニアでは、各地で住民どうしの衝突が相次いでいます。

首都・ナイロビから北におよそ270キロ。故郷を追われて移住してきたドルカス・レカラムさんです。

2023年、隣の郡の武装グループによる襲撃で夫が命を落としました。

ドルカス・レカラムさん
「夫は働き者で、私たち家族を愛してくれました」

ドルカスさんの暮らした地域でも干ばつの影響で家畜が次々と餓死。残った家畜の奪い合いとなり、2023年に入って50人以上が死亡。夫も巻き込まれたのです。2,000人いた村人全員が村を離れ、コミュニティは崩壊。ドルカスさんと子どもたちも夫の母親のもとに身を寄せて暮らしています。

ドルカス・レカラムさん
「生活は本当に大変です。夫は一家の大黒柱だったのです。苦しいことばかりです。家畜を失い、畑もなく、子どもの学費も家もありません。干ばつがなければ家畜は死なず、夫が殺されることもありませんでした」

アフリカで顕在化する気候変動の影響。私たちは何をすべきなのか。現地で研究を続ける専門家は先進国が負うべき責任を指摘しました。

ストックホルム環境研究所アフリカ支部 フィリップ・オサノ 支部長
「気候変動に関してはすべての国が責任を負っていますが、その大きさは異なります。最も大きな責任を負うのは気候変動対策を支援する手段や資源を持つ、あなたたち日本のような先進国なのです」
桑子 真帆キャスター
「今回初めてアフリカに入って、こんなに大変な状況になっているんだ、切迫しているんだというのを実感できた。いま“気候難民”の問題に対して国際社会はその責任を果たせていると感じていますか?」
フィリップ・オサノ 支部長
「はい。しかし十分ではありません。干ばつや洪水で多くの人々が避難を余儀なくされています。彼らを新たな場所に移動させなければなりません。住居や食料を与え、医療を受けさせ、水を与えなければなりません。そこから彼らが長期的に適応し、回復できるようにする必要があるのです」

セネガルの現状と先進国の“支援する責任”

桑子 真帆キャスター(中継 ケニア):
私たちが日本で暮らしていて「気候変動の影響かな」と多くの人が感じる変化は、雨の降り方が激しくなって、集中豪雨ですとか、川の氾濫などが頻発するようになっていることだと思います。

ただ、アフリカに来てセネガルで取材をしますと皆さん口々に「水が足りない」と話します。日々の暮らし、農業、そして家畜を育てるのにも水は欠かせませんが、雨が降らないのです。降る所には降り過ぎる。降らないところには全く降らない。この偏りがますます極端になり、地球の異変を感じざるを得ません。

そして、アフリカで気候変動の影響を研究するオサノさんへのインタビューでは何度も「責任」という言葉が聞かれました。「あなたたちは何でも手に入っていると地球規模の問題に関心を持たないかもしれない。でも世界は密接につながっている。気候変動によって人々が住む場所を追われ、命が脅かされていることを分かってほしい。そして、そうした人たちを救う責任、“支援する責任”をあなたたちは持っていることを分かってほしい」と語っていました。

2050年には最悪の場合、世界で2億人を超えるとも予測される気候難民ですが、問題の解決には国際社会の結束が欠かせません。しかし、その糸口はいまだ見えていません。

“気候難民”に世界は どう対応するのか

1年前、エジプトで開催された国連の気候変動対策の会議「COP27」。災害からの復興や気候難民を含む問題について、途上国からは支援を求める声が相次ぎました。

パキスタン シャリフ首相
「洪水に見舞われた人々をさらなる不幸から守るために、われわれは何十億ドルも費やさなければならない」
エジプト シシ大統領
「途上国、特にアフリカにとって大切なのは負担を分かち合う原則に基づいて適切な支援や資金援助を受けていると私たちが感じられることだ」

新たな基金の創設が合意されたものの、さらなる経済的な負担を懸念する先進国との隔たりは埋まらず、具体的な内容は決まりませんでした。

各国政府が支援に足踏みをする中、気候難民の問題に取り組む民間の団体があります。

アフリカやアジアなどを中心に、年間およそ5,000人の難民を受け入れている国際NPOです。今、この団体が危惧しているのは国外に逃れた気候難民を待ち受ける厳しい現実です。

団体が1,400人を対象に行なった聞き取り調査です。「避難先で仕事を見つけても給料が正しく支払われなかった」「暴力を受けても、相談する場所が分からなかった」など、過酷な実態が浮かび上がったのです。

従来の難民条約は「人種や宗教、政治的な意見などを理由に迫害を受けるおそれのある人を保護の対象」としています。そのため、気候難民には支援が届きにくくなっているとNPOは訴えています。

10年以上にわたり難民を支援 オレリー・ラディソン氏
「現時点では“気候難民”に関する法的枠組みが全く存在していません。“気候難民”が尊重される受け入れ政策を国が打ち出せるのか、本当に心配しています」

この団体では、気候難民の人権を尊重すべきと国際社会に働きかけています。

この日は、COPでの政策立案に携わる国際機関などから50人以上を招き、厳しい状況を訴えました。

“気候難民”の調査 責任者 マリー・ロブジョワ氏
「(受け入れ先に)“気候難民”のニーズを満たす政策がないため、彼らは危険にさらされ、安全が脅かされています。安全で合法的な受け入れが不可欠です」

人々が合法的に避難できる仕組みや、社会的サービスにアクセスできる体制作りを求めています。

ペルー 人権団体
「“気候難民”が都市に流入した場合、私たちはどう対処すればいいのでしょうか」
マリー・ロブジョワ氏
「私たちにとって、その答えは人権に基づいて対処することです。私たちは“気候難民”の受け入れを否定的に捉えるべきではありません」

世界で増え続ける気候難民。この団体は先進国こそ、その受け入れのための準備を進めるべきだと考えています。

オレリー・ラディソン氏
「どんな壁も、どんな抑圧的な政策も、国を離れざるをえない人を止められません。“気候難民”が発生することへの準備が必要です。先進国に対して私たちが呼びかけているのは、難民の尊厳を守る受け入れ対策をとることです。彼らが受け入れ先で社会生活を営めるようにすることが大切なのです」

地球規模の異変 私たちの“責任”とは

桑子 真帆キャスター(中継 ケニア):
気候難民を巡る課題については、今週、ドバイで始まる「COP28」でも議論が交わされる予定ですが、誰がどのように資金を拠出するのかなど具体的な成果につながるかは不透明です。

地球規模の気候変動への対策は、途上国と先進国が問題を共有し、協力しあって取り組まなければなりません。しかし今、世界を見渡すとイスラエル・パレスチナ情勢、ウクライナでの戦争などを巡って国際社会の結束はむしろ揺らいでいます。

国連難民高等弁務官事務所=UNHCRの担当者は、気候難民への支援が速やかに行われなければ、世界の混迷はさらに深まっていくと強く警鐘を鳴らしています。

UNHCR気候変動特別顧問 アンドリュー・ハーパー氏
「“気候難民”の支援には数兆ドルが必要ですが、現実的ではないと言われます。しかし、イラク戦争やウクライナで起きていることにどれだけのお金が費やされたのでしょうか。私たちは戦争にはお金を出せるようですが、最も困っている人々には出せないようです。私たちは世界全体の責任として気候変動に対処すべきです。持てる者と持たざる者という構図を作りたくないからです。持たざる者はますますぜい弱になり、格差が大きくなるでしょう。それは世界的な不調和を生み出すことになるのです。目先の利益のために子どもの未来を犠牲にしているようなものです。排出量を減らさないのであれば、破滅への道を歩むことになるでしょう」

桑子:
国際社会は、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えることを目指すと約束しました。気候変動対策を行ううえで、より責任の重い先進国は温室効果ガスの排出削減に率先して取り組み、途上国に対しては資金や技術を提供する義務があるとされています。

しかし、果たして私たち日本を含め、どれほどの国、そして人が自分たちの責任として最善を尽くせているでしょうか。私たちは2023年、観測史上、最も暑い夏を経験し、異変が急速に進んでいることを実感しました。それを実感だけで終わらせず、どう具体的に行動に結び付けていけるか。まさに今、問われていると感じます。次回は世界各地で消えていく森林、そして気候変動との負の連鎖の実態をお伝えします。

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