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2021年9月8日(水)
目指せ!世界標準のバリアフリー 東京2020大会の先へ

目指せ!世界標準のバリアフリー
東京2020大会の先へ

東京2020パラリンピックに向けて、急ピッチで進んだ公共施設や交通機関のバリアフリー化。日本で最先端のバリアフリー施設とされる国立競技場では、従来の競技場ではあまり用意されなかった車いす用の席が500席設けられ、さまざまな障害に応じた用途別トイレも多数設置。世界標準の施設が誕生した背景には、障害のある人たちや高齢者、子育て支援の団体などが企画開発から議論に参加する“インクルーシブデザイン”のプロセスが取り入れられた。2013年に五輪誘致が決まって以降、日本社会に浸透していったバリアフリー化。しかし、街の中を見回すと課題は山積みだ。この数年、整備が進められたバリアフリー法で障害者が移動しやすいよう鉄道事業者に求められたのがエレベーターやスロープの設置。1日3000人以上が利用する駅の91.8%で整備された一方、エレベーターがないことで移動が困難なルートも多数残るなどの現状もある。事業者による設置の偏り、更に地域による格差など残された課題も多い。そうしたなか、IT技術を活用してバリアフリー化を推し進める取り組みが注目されている。パラリンピックのレガシーとして期待される共生社会。障害者だけでなく健常者も生きやすいバリアフリー社会の実現に向けて何が必要か考える。

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目指せ!世界標準のバリアフリー

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 髙橋儀平さん (東洋大学名誉教授)
  • 中嶋涼子さん (車いすインフルエンサー)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

生まれ変わった国立競技場 世界最高のバリアフリーを目指して

今回、バリアフリー最大のシンボルといわれる国立競技場。入り口から競技場内へと進む通路は、全く段差のないスムーズなアプローチ。車いす用の観客席は、日本最大規模を誇る500席を設置。

性的マイノリティーに配慮した、オールジェンダートイレ。

発達障害のある人のための特別な部屋など。

こうした多様なニーズに合わせた設備が生まれた背景には、画期的な取り組みがありました。

障害者などの当事者が設計段階から議論に参加し、多様な立場の意見を反映させる「インクルーシブデザイン」という試みです。国立競技場の建設の議論には、身体障害や知的障害、発達障害、高齢者、子育て支援など14の団体が参加しました。目指したのは、障害者も健常者もあらゆる人が利用しやすい「ユニバーサルデザイン」。3年半余りにわたって、意見を交換しました。

当事者として議論に参加した、障害者団体の佐藤さん。公共施設の基本設計から関わるのは、初めてのことでした。

障害者団体 事務局長 佐藤聡さん
「今まで日本にない、当事者の意見をちゃんと聞いて反映していく取り組みが始まるというので、とてもうれしかった。なんとしても、世界の基準をオリンピック・パラリンピックの時に実現したい。日本中の障害者が喜んでくれるものを作りたいなと」

佐藤さんが関わったのは、500席設置された車いす用の観客席のデザインです。特に大事にしたのは、車いすから競技を見る視線「サイトラインの確保」でした。

前の人が立ち上がっても見えるように高低差をつけ、手すりも体に向かって斜めに角度をつけました。視界を広くし、競技場内のフィールド全体がよく見えるように計算したのです。

佐藤聡さん
「例えば得点が入ったり、コンサートだと一番盛り上がるときは、みんな立つ。立つのは悪くないけど、前の人が立ったら車いす席は何も見えなくて、本当に疎外感を感じる、さみしくて。自分たちは受け入れられていないんだという気持ちをすごく持って。設計で高低差をつけたら、そういう問題はなくなるので」

ほかにも、さまざまな当事者たちの意見がデザインに生かされています。トイレは実物大のサンプルをつくり、実際に中に入ってみながら改善点を検討しました。

ワークショップ参加者
「水洗ボタンが水平の連なりになっている。視覚障害者が間違ってボタンを押してしまう可能性が強い」

議論の結果、利用者のニーズに合わせたさまざまなバリアフリートイレがつくられることになりました。手すりをつけるトイレでは、右半身が使える人、左半身が使える人、どちらにも対応できるようにそれぞれ個室を設置しました。

NHK 竹内哲哉解説委員
「僕の場合だと体の筋肉が左側についていないので、ふんばれるのは右なんです。なので、右を使って乗り移る」

当事者だけでなく、介助者にとって使いやすいトイレもつくられました。発達障害の子の親がトイレを使うときに、カーテンを隔てて子どもが待つスペースもあります。

子どもが親を待つスペースの壁にあるのは、数字のサイン。これを数えながら、気持ちを落ち着かせて待つことができるという工夫です。

国立競技場の設計責任者の川野久雄さん。多様な当事者たちとの議論は、設計者として気付きの連続だったといいます。

大成建設 設計本部 川野久雄さん
「数字を印字しておくだけで『10回数えておいてね』と言うと待っていられるとか、そういうことは私たちにとってみれば全然知らなかったこと。私にとっては発見で、対話によって生まれることがすごく大切だなと」

発達障害の当事者の要望を受けて、国内ではまだ珍しいカームダウン・クールダウン室もつくられました。大観衆の大きな音が苦手で、気持ちが高ぶってしまったときに音が遮断された部屋でゆっくり気持ちを落ち着かせることができます。

ワークショップ参加者 発達障害の子どもの母親 橋口亜希子さん
「見た目には分からない障害の人たちに優しい、カームダウン・クールダウンや、男女共用トイレ、案内板を見たときは本当に胸がいっぱいになりました。これまでは行けないと思っていた所が、新国立競技場だったら行けるかもしれない、行けると思える人たちが多くいると思う」

14の団体の意見が集約され、最先端のユニバーサルデザインが完成。2019年のオープニングのイベントにはデザインに関わった当事者たちも招待され、新しい競技場が披露されました。

佐藤聡さん
「よくできてるなと思いました。すばらしくよく見えるなって。今までにない景色でした。すごく車いすの人がいた、いっぱい。日本でも席がたくさんあると分かれば、みんな来るんだなと思った。自分だけじゃなくて、いろいろな人があちこちにいるのが見られるのが、すばらしいなと思いましたね。今回だけで終わらせるのではなくて、いろいろな当事者を呼んで意見を聞いて、反映させることが定着していってほしい」

世界標準のバリアフリー 国立競技場 当事者の声を実現

保里:今回お伝えするのは、「東京2020大会が残した知られざるレガシー」。そして、「鉄道も!アプリも!バリアフリー最前線」です。
スタジオには、車いすユーザーの視点からSNSなどでさまざまな発信をされています、車いすインフルエンサーの中嶋涼子さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。中嶋さん、多様な当事者の意見がたくさん取り入れられた国立競技場の設備、どのように見ましたか。

中嶋涼子さん (車いすインフルエンサー)

中嶋さん:実は私、パラリンピック閉会式に出させていただきまして、まだ興奮していてちょっと今抜け殻なんですけども。必死に太鼓をたたいて手が青あざだらけなんですけど、思い出しちゃって泣きそうなのですが。
私はパフォーマンス側の所にいたので客席側のことはあんまり知らなかったので、今初めて知ったことがいっぱいありまして。客席に車いすの設置が500席もあるのを知って、車いす席のスペースと健常者の方が座れるスペースが交互にいっぱいあるのを知ってすごくいいなと思います。
私もよくライブとかを見に行くときに、障害者の方って同じところにひとくくりにされちゃうんですよ。友達と見に行っても私が前にいて友達が後ろにいて、興奮を隣でかみしめられないのがつらかったんですけど、あの席なら隣どうしで、しかもいろんな場所にあるから選択肢が増えることによって、自分の中でどこでも見られるという多様性が感じられていいなとすごく感じましたね。

保里:選択肢という意味では観客もそうですし、トイレもそうでしたね。

中嶋さん:私は下半身まひで足が動かないだけなんですけど、さきほどの半身まひの方だったり、あとオストメイトのトイレだったり、ほかの障害の方の大変さも分かるきっかけになって、障害者といってもみんなそれぞれ障害が違うので、障害者にとってもいろんな障害の人たちが話し合うことで、お互い知っていくことがいちばん大事なのかなと感じました。

井上:そして国立競技場のユニバーサルデザインに中心的に関わった、東洋大学名誉教授の髙橋儀平さんです。よろしくお願いします。
今回、インクルーシブデザインという画期的なプロセスに意義があったということなんですが、ゆくゆくはどのような形で私たちの実社会につながっていくといいと思いますか。

髙橋儀平さん (東洋大学 名誉教授)

髙橋さん:まず最初にお伝えしたいのは、やはりこれだけの規模で全国からの14団体の障害者団体が集まりまして、21回にわたるワークショップをやったというのは恐らく世界でも初めてではないかと思いますね。なのでこの経験をぜひ、全国各地のさまざまな公共施設に伝えていく。これが私たちの使命ではないかと思っています。
実は今、広島市での新サッカースタジアムの計画に関わっているんですが、そこでもこのユニバーサルデザインワークショップをうまく継承していこうという試みを進めているところです。

井上:みんなの話し合いというのが1つのポイントなわけですが、当事者の意見が反映されたもう一つの物をお持ちしました。

点字ブロックですね。右側が、国立競技場のために特別に作られた点字ブロックです。通常の点字ブロックを見てみますと凹凸の高さが5ミリなんですが、競技場の中は床がフラットなので2.5ミリでも大丈夫ということでさわっても凹凸が滑らかです。中嶋さん、車いすの方にとってこれは違いますか。

中嶋さん:そうなんです。5ミリといえど、やはり車いすにとっては車輪がとられてしまって、雨の日なんかはすごい勢いで点字ブロックの上を行くと滑ってしまって転んでしまったことがあってちょっと怖いというときがあるんですけれども。でも、それは視覚障害の方にとっては必要なものじゃないですか。だから、お互いに何が大変で何がしてほしいかと話し合ってできた2.5ミリだと思うんですよね。それって今回すごいことだと思っていて、今後もこういう話し合い、障害者どうしの話し合いによってこういう新しいものができたらいいなって思います。お互いにとってすごく便利になっていくんじゃないかと感じますよね。

髙橋さん:実は、この2.5ミリというのは視覚障害者団体から提案されたんですね。そこで、みんなで一緒に議論しながら車いすの人たちも納得して合意をしたという、そういう経緯があります。

井上:数ミリの違いでもやっぱりあるんですね。

保里:伝えて、知ってということが本当に大事ですよね。この東京パラリンピックをきっかけにして、私たちの暮らしに身近な部分でもバリアフリー化が急速に進んでいます。中でも、特に大きく変わりつつあるのが「鉄道」です。

鉄道のバリアフリー化 整備が進む一方で課題が…

近年、バリアフリー化を急ピッチで進めてきた鉄道会社。国は10年前、1日に3,000人以上が利用する駅で2020年度までにバリアフリールートを整備する目標を掲げました。

バリアフリールートとは、駅の入り口からホームまで、エレベーターやスロープなどで段差なくスムーズに移動できるルートのこと。2019年度末で整備率は91.8%に達しました。

しかし、規模の大きな駅でも、いまだにバリアフリールートが少ないと感じる利用者もいます。

車いすの利用者
「普通に歩ける方の行くルートより、エレベーターを探して進んでいかないといけない。やっぱり時間がかかる」

ベビーカーの利用者
「どこにエレベーターがあるのか分からないので、迷う。だっこしてベビーカーを折りたたんで、階段上り下りというのは大変。それがつらい」

これまでは駅の入り口が多数あっても、各ホームにたどりつくバリアフリールートは1本あればよいとされてきました。そのため、近くにエレベーターのない入り口からでは、遠回りを強いられることが多くあったのです。

そこで国は3年前に、大規模な駅ではバリアフリールートの複数化が望ましいとガイドラインを改正しました。

1日47万人以上が利用する、JR新宿駅。去年7月、山手線ホームなどに15年ぶりにエレベーターを増設。バリアフリールートを複数確保しました。以前は、新宿駅の西改札方面から山手線ホームに車いすで行くには、う回をしなければなりませんでした。今回時間を計ったところ、2台のエレベーターを乗り継ぎ、健常者が歩くルートに比べて5倍以上の時間がかかりました。

新しく増設されたエレベーターを試したところ、移動の距離と時間が4分の1以下になりました。

障害者団体 事務局長 佐藤聡さん
「改札のすぐそばで分かりやすい。簡単に見つけられる。すごく広くて乗りやすい。ベビーカーの人と一緒でも乗れる」

一方、駅の構造上の課題と向き合いながら、バリアフリールートの確保に工夫を重ねている事業者もいます。

東京メトロ・永田町駅。ことし7月、ちょっと珍しい形の新しいエレベーターが登場しました。階段に沿って斜めに移動する、斜行エレベーター。首都圏の鉄道では初めて設置されました。

以前、ここを車いすで通るには、駅員に操作してもらう昇降機を使うしかありませんでした。

垂直型のエレベーターの設置を検討しましたが、大規模な掘削を伴う工事が必要となります。

そこで、階段のある斜めの空間に沿って設置できる斜行エレベーターが採用されました。

東京メトロ バリアフリー担当 熊倉始さん
「掘削がまるっきり無くなっているので、その分の工費は安価になる。新しい技術をどんどん取り入れて、斜行エレベーターも検討していけたら」

駅のバリアフリー化では、乗客の転落を防ぎ、安全を確保するためのホームドアの整備も進められています。ホームからの転落の件数は、全国で2,887件。そのうち、視覚障害者の転落は61件起きています。

視覚障害の男性
「歩いていて、ちょっと体が触れてホーム側によろけて。そのとき後ろにいた体格のいい男性にリュックをつかまれて落ちるのを防げたのですが、そういうのもホームドアがあればなくなりますし、何人亡くなったらつけてくれるのかなというのが正直なところ」

国は、2020年度までに1日10万人以上が利用する駅には原則ホームドアを整備するとしていましたが、整備率は54%にとどまっています。

その背景の1つが、コストの問題です。ホームドアは非常に重く、設置には基礎の補強工事が必要な場合もあり、1つの駅で十数億円かかることもあります。

JR東日本 設備計画担当 鈴木秀彦さん
「ホームから線路に転落するのは防がなければいけない。ただ当社の場合はどうしても駅の数が多いので、投資額、施工面でも人が無尽蔵にいるわけではないので、いろいろな工夫をしながら鉄道会社としても努力をしていきたい」

そこで去年から導入が始まったのが、大幅に軽量化されたホームドア。工事の期間を4割、ドアの費用は5割ほど削減できるといいます。

こうした工夫を重ねながら、11年後の2032年度をめどに、東京周辺の主要駅すべてにホームドアを整備する予定です。

鉄道のバリアフリー化 整備が進む一方で課題が…

保里:中嶋さんは車いすを使っていて、街なかのバリアフリー、進化したなと思うところと、まだまだだなと思うところ、どんなところでしょうか。

中嶋さん:私は25年前から車いすに乗って生活をしているんですけど、車いすになって初めて街なかに行ったのが新宿駅だったんです。当時はエレベーターもなく、階段しかなかったので一緒に行った人とどうしようと思って駅員さんに言ったら、30分後に来てくれて手伝ってくれたんですけど、帰りは自分たちで帰っちゃおうと思って。適当に人に声をかけて行ったら駅員さんに、危ないからちゃんと言ってくださいって怒られちゃって。初めて車いすで外に出たときに本当に大変で、歩けていたときには当たり前に出れたのにこんなに大変なんだと思って。そこからちょっとひきこもりみたいになっちゃったんです。
でも今って、どこにでもエレベーターがあるじゃないですか。それだけでもすごく心が楽で1人で動けるってうれしいんですけど、一方で通勤中とかによく感じていたことがあって、朝ってみんな急いでいるので、エレベーターに健常者の方が走ってわあって乗って、行ってしまうんです。私は車いすなのでちょっと遅く行ったらみんなが乗って、ちょうどエレベーターが行ってしまう瞬間で。エレベーターって結構スローなので、5分ぐらいかかっちゃうんです。それでちょっと遅くなっちゃったりとか、ロスがすごくかかってしまって。私たちは歩けないからエスカレーターも階段も上れなくて、選択肢がエレベーターしかないということを知ってもらえたら、もうちょっとみんなが先に優先してくれたらいいなみたいな気持ちはちょっとありますよね。

保里:率直な気持ちを知ることができたら思いやり、ちょっとした想像力で変わってくるかなと思いますね。

中嶋さん:一緒に行動したら分かるのかなというのは感じますよね。

井上:気持ちへの負荷があるわけですね。

中嶋さん:そうですね。

井上:アメリカにも留学されてますけど、その辺は違いますか。

中嶋さん:だいぶ違うと思います。心のバリアフリーをすごく感じて、25年前に車いすになって日本で初めてバスに乗ったときに、ドライバーさんが慣れていなくて、スロープを出すのに時間がかかってたら乗っていた人が早くしてって怒ってきたときにそれも怖くて、それからまたバスに乗れなくなっちゃったんですけど。アメリカで初めて乗ってみたら、周りにいる人が車いすの子が来たよみたいに言ってくれて、ドライバーさんが手伝ってくれて、そしたら周りの人も車いすを押したりスロープを出すのを手伝ってくれて、チームプレーみたいだったんですよ。「何この国、最高」と思って、この国に住もうと思って、それぐらいよかったんですけど日本でもそうなったらすごくいいと思って。それは障害者が街にもっと出ていけば、みんなも慣れてチームプレーができていくのかなと思うので、私たちがどんどん出ていくことが大事なのかなというのを感じますね。

井上:本当にそういう社会になっていけばいいというところで、このバリアフリーの整備の課題、どういうところに注目されていますか。

髙橋さん:都市部もまだいろいろな課題があって完全ではないんですけれども、やはりこれから重視しなければいけないのは地方都市ですね。例えば、地方都市の無人駅の問題なんかも非常に大きいと思います。私、個人的にはむしろ無人駅こそ自由に動けるような完全バリアフリー化を本当は進めるべきではないかと思うんです。そのためにも大事なのは、地域でのバリアフリー計画。国ではバリアフリー基本構想というんですけれども、ここをなんとか全国各地の市町村が全体的な長期的な計画を立てていく。そして優先順位に基づきながら順次に進めていって、高齢者も乳幼児連れの人たちもみんなが一緒に楽しめるようなまちづくりをなんとか進めていくような、そういうふうにシフトしていく必要がとても重要ではないかと思っています。

保里:そうしたハード面に加えて今、アプリなどのITの技術でバリアフリーを推し進めようという動きも出てきています。

スマホが目的地まで道案内 ITで暮らしやすい社会に

都内にある地下鉄の駅です。点字ブロックの中に、QRコードが貼ってあります。専用アプリが入ったスマートフォンをかざすと…。

「右3メートル。手すりがあるので、注意して進んでください」

「直進5メートル」

ことし、東京メトロの一部の駅で導入されたサービス。点字ブロックを頼りに歩く視覚障害者たちに、音声で進行方向を案内します。

「直進4メートル。その先、改札です」

このアプリを日常的に使っているという、中山利恵子さん。使い始めてから、安心して1人で電車に乗れるようになったといいます。

「目的地に到着しました。前方は、和光市方面行き電車の8号車」

改札や乗降口など、設定した目的地にたどりつくまで音声案内が続く仕組みです。

中山利恵子さん
「点字ブロックの上を歩いていても、ここを歩いていると目的地だよというのはブロックからは伝わってこない情報なので、下手をすると同じところをぐるぐる回って、目的地に着かないね、みたいなことは実はよくあるので。今進んでいる方向は『目的地でいい』、『間違っている』という情報だけでもありがたい。今後例えば最寄りの駅から大きなイベント会場まで点字ブロックが敷設されているようなところであれば、そこまでこのシステムが利用できると、ひとりでコンサートに行ったり、野球やサッカーの観戦に行くことができたり、本当に楽しみが増える。ひとりで歩くことの喜びも増えてくる」

このアプリを開発した小西祐一さんは、既存のバリアフリー設備とIT技術を結び付け、当事者の利便性をより高めるのがねらいだといいます。

アプリ開発者 小西祐一さん
「いわゆる点字ブロックは、これまで情報というものがなかった。さまざまな情報を入れると、それぞれのポイントで情報が得られる。手に持った携帯が地面を向いているので、床面に貼ったコードを読み取れば、方向も分かるし正しい情報がとれる」

実証実験を重ねたのち、ことし都内9つの駅でサービスを開始。今後、さらに導入を拡大していきたいと考えています。

バリアフリー社会のこれから 求められる"心のバリアフリー"

井上:サービスの詳細は関連記事からご覧ください。

こうしたアプリを使ったバリアフリーの取り組み、ほかにもさまざまなものが始まっています。例えば、商店街や公共施設での使用を目指して開発されているんですが、このアプリの特徴は利用者の方がどんな支援をしてほしいかを事前に記入しまして、お店に送ることができるという点です。

例えば、中嶋さんが洋服を買いに行きたいとします。そのときに例えば、高い位置の商品を取ってくださいとか、物を落としたら拾ってくださいとか、いろんなニーズがあると思うんですけど、この「手助け依頼」と同時に送ることができます。

すると例えば「手助け依頼」を押しますと、こうした要望がお店側に届くんです。店員さんがこのように確認します。さきほど出たニーズが出てくるんですね。

こういう細かいサービスを提供することが可能になるんですが、中嶋さん、これどうでしょうか。

中嶋さん:これ、ちょっとやってみたいなと思って。私もよくコンビニとかスーパーに行くときに、届かないものが多くて。大体トクホ(特定保健用食品)のお茶とか、ゆで卵は絶対上なんですよ。ダイエット中なので絶対食べるものなんですけど、全部届かなくて。どれを取ってもらうか決めてから声をかけるんですけど、店員さんも結構シャイな方はびっくりしてちょっと気まずくなるときがあるんですよ。

井上:分からないんですね。

中嶋さん:また欲しいものがあって、また言わなきゃいけないときは恥ずかしくて諦めたりするんですけど、これで事前に言っておけば多分店員さんも心構えができてコミュニケーションしやすいなと思うので、どんどんトクホ(特定保健用食品)を取れるし、いいなと思って。

井上:一歩出やすいですよね。

中嶋さん:お互いに一歩踏み出しやすいんじゃないかなと思うので、すごくいい機会だなと思いました。

髙橋さん:私も実はシャイなので、ああいうアプリがあるとやっぱりすごく助かりますね。やはりハードだけでは改善し切れませんから、さまざまなソフト的な手段を使うのが絶対いいですね。これからはもう本当にそういう時代に入っていくというふうに思います。

保里:髙橋さん、法律もことし改正されましたけれども、心のバリアを取り払っていくことが本当に大事ですね。

髙橋さん:そうですね。ことしの5月に差別解消法が改正されて、合理的な配慮が義務化される、一人一人みんな違いますから、そういう方に対して対応していかなければいけないということになってきますね。そのためにもやはり重要なのは、教育環境でしょうかね。学校教育の場で本当に幼稚園、保育園のときから障害を持っている人と持っていない人が一緒に学ぶ環境、そのことによって時代が変わる、社会が変わっていくというふうに確信しています。

井上:中嶋さん、どうでしょう。

中嶋さん:私、本当に心のバリアフリーが本当に大事だと思っていて、ハード面はもちろん大事なんですけど、ハード面だけがどんどん整っていって、障害者が1人で生きていけるようになったら逆に心のバリアフリーがなくなっちゃうんじゃないかなという心配もあって。私としては階段だらけのレストランでも、行ったときに店員さんが「手伝うからいつでも来て」って言ってくれたところにもっと行きたいと思います。

井上:ありがとうございました。