クローズアップ現代

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2020年1月23日(木)
データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態

データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態

多くの被害者が泣き寝入りしてきた痴漢。埋もれてきた声をすくい上げようと開発されたアプリ「痴漢レーダー」はボタン一つで被害の場所や内容を登録できる。半年に寄せられた2000件超の情報を分析すると、多発している場所は「明るく人目が多い所」や「逃げやすい経路がある所」。また「すれ違いざまを狙う」「自転車を使う」など卑劣な手口も見えてきた。社会の意識を変えようと動き始めた取り組みを通して、痴漢をなくすために何ができるか考える。

出演者

  • 斉藤章佳さん (精神保健福祉士・社会福祉士)
  • 牧野雅子さん (龍谷大学犯罪学研究センター博士研究員)
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

2300件が全国各地で…電車の中 駅の構内のどこで?

アプリのサービスが始まって半年。
いたずらと思われる登録は削除される仕組みの中、被害報告は2300件を超えています。
公開されているデータを使って、私たちは詳細な分析を行いました。とりわけ、東京が全体の半分を占めていました。中でも、ターミナル駅である新宿駅、池袋駅、渋谷駅。そして、東京駅で多くの被害が報告されました。さらに、高校や大学が集中する駒沢大学駅、高田馬場駅などでも被害の報告が相次ぎました。

詳しい被害の状況が報告されたデータを分析すると、電車内での被害が66%、駅構内が22%、路上が6%、映画館やコンビニなど、その他が6%という結果が出ました。

では、電車内での被害はどうなっているのか。
実は立っているときばかりではなく、座っているとき、さらに乗り降りするときも被害に遭っていました。駅構内では、ホームや改札で体を触られた、エスカレーターや階段で盗撮されたなどの報告がありました。

意外な場所でも 何かに気を取られていると…

電車以外の被害の報告は235件。
それらを分析すると、被害に遭いやすい状況が見えてきました。

“ロッカーで荷物の出し入れをしていたところを後ろから盗撮された。被害時は全く気がつかず、(そば屋)の店員さんが後から教えてくれて知った。”

現場の前の、そば屋を訪ねると。

目撃者
「あのときね、朝だったんですよ。10時半ぐらい。」

取材班
「朝だったんですか。」

目撃者
「その時も人通りが結構あったんですけどね。」

被害に遭ったのは20代と見られる女性。コインロッカーで荷物を出し入れしている間、男が後ろからスマホで女性の下半身を撮影していたといいます。

目撃者
「(男性は)携帯をこうやって見てますよ、みたいな感じ。」

取材班
「撮っている画面は見えたんですか?」

目撃者
「後ろから、ちょうど見えていた。」

コインロッカーの支払いに気を取られているさなかに、被害に遭っていました。

目撃者
「お金を出したり引っ込めたりしよったんかな。ゴソゴソしよった。」

「音も気付かへんやろうしね。結構ガヤガヤしているから。」


“何かに気を取られている人は狙いやすい。”
そう語るのは、かつて痴漢で6回逮捕されたことがある男性です。犯した罪への償いとして、社会の役に立つのであればと取材に応じました。
男性は、スマホを操作する女性2人に目をとめました。

男性
「隙のある状態に見えますね。」

取材班
「完全に画面見っぱなしですもんね。」

男性
「いま男性が隣に座りましたけど、隣に男性が座ったことすら気がつかない感じなので。」

飲食店やデパートなどで商品選びに夢中になっている人ほど、痴漢をしやすかったと言います。

男性
「常にチャンスをうかがっている。成功したケースがあって、何回も繰り返しているうちに、相手が身動きできない状況の判断がつくようになってきている。」

アプリで報告された被害の中にも、同じようなケースが少なくとも15件ありました。
店で商品棚を見ているとき。
コインパーキングで料金を支払っていたとき。
友人と話していたときも。

“見て見ぬふり”が痴漢を生む

さらに、データからは痴漢被害がなくならない日本社会の現実も浮き彫りになってきました。
先月報告された痴漢現場の目撃情報です。

“車内で女性が男性からでん部を撫でられ続ける被害に遭ったようで、男性がやっていないと怒鳴っていた。周りの乗客は見て見ぬ振り”

アプリに情報を寄せた30代の女性です。目撃したのは通勤中の電車でした。

目撃した女性
「男の人が『触っていない』の一点張りで、どなっていて。女の子はうつむきながら一生懸命、相手のカバンをぎゅっとつかんで離さない状況を見て。」

すぐに声をかけた女性。
しかし、周りの乗客たちは誰も反応しませんでした。

目撃した女性
「絶対にみんなに聞こえる、見える場所だったんですが、そっちを見もせずに普通にただ降りて乗って。誰も声をかけない状況が異常だなと思いました。迷惑なトラブルが起こって、面倒くさそうな空気を感じました。」

目撃した女性
「泣かなくていい。すごい気持ちわかります。」

証拠を残したほうがいいと考え、スマホで撮影しながら駅員室へ同行した女性。実は彼女自身も、これまで繰り返し痴漢被害に悩まされていました。

目撃した女性
「私も電車とかで嫌な目にあって、周りの人が誰も助けてくれないのが一番つらかったから。」

被害に遭った女性
「一緒にいていただいて、すごい心強いです。」

見て見ぬふりをする人がいる限り、痴漢はなくならない。女性は乗客たちの様子を詳細に残したのです。

目撃した女性
「周りの冷たさも含めて、これがいまの日本の現状。きょう、この時間に現実に起きたことだということを残したいと思いました。」

人目が多い場所でなぜ?ある集団心理が…

今回のデータ、私たちが驚いた場所で被害が報告されていました。
去年9月、午前10時半に報告された新橋駅前の広場です。多くの人の目があるこの場所で、なぜ起きたのか。
犯罪学の専門家、小宮信夫さんです。こうした場所では、ある集団心理が働くといいます。

立正大学 小宮信夫教授
「“傍観者効果”と呼ばれています。みんなが傍観者になっちゃうので誰も手を出さないんですね。これだけの人数ですから、『あれ何か後ろにいる男、変だよ』と思っても、たくさん人がいるから自分が注意しなくても誰かが注意するだろうとか、交番もあるんだから、おまわりさんが行けばいいんじゃないのとか。『自分が言わなくては』という責任感がわきにくい。」


警察庁の調査によると、痴漢を目撃したとき「どのような行動もとらなかった」と答えたのは、およそ45%に上ります。

“被害を可視化”して世の中を動かす

痴漢を黙認する社会を変えることはできないか。
アプリを開発したのが、ITベンチャーを立ち上げた2人の女性です。

これまで埋もれてきた痴漢被害をビッグデータにすることで、人々の意識を変えたいと考えています。

キュカ 片山玲文さん
「この問題を解決に向かわせるためには、まず被害実態がどれくらいあるのかが示されてこないと、なかなか世の中が動きづらいと思うので。いまは被害の可視化。」

キュカ ウ・ナリさん
「実際のデータがあると(警察や鉄道会社なども)対策せざるを得ないとか、やらざるを得ない。そういうところで役に立てればと思っています。」

開発されたアプリによって、被害者たちはようやく声を上げることができるようになりました。

“電車内での痴漢 ドアの脇に立っていたらサラリーマンが下半身を突き出し ももの外側に股間を押しつけてきました”

去年10月、この被害を報告したゆいさんです。

ゆいさん
「降りてからもずっと、ももに感触がしばらく残っていて。まだ残っているな、気持ち悪いなってなりました。屈辱的です。人間扱いされていないんだなと思います。『モノ』だなって思います。」

これまで被害の声を上げられなかったゆいさん。このとき、初めて行動を起こすことができました。

ゆいさん
「その人(加害者)を捕まえられなかったけど、逃げてしまったけど、その人に対して私が初めてのアクションを起こせた。」

アプリに被害を打ち込むことは、ゆいさんにとっては大きな一歩でした。ゆいさんが痴漢に悩まされるようになったのは、電車通学を始めた中学生のとき。下着の中に指を入れられることもありました。しかし、周りの大人に相談しても誰も取り合ってくれません。尊厳が踏みにじられ、生きる力も失われていったと言います。

ゆいさん
「学校好きで、勉強も好きで、お友達もいて、いじめもなくて。何も行かない理由なんてないんですけど、どうしても朝、制服を着て、カバンを持って家を出ることができなくなって。自分のことも自分の体も嫌いになりました。」

10年近く苦しみ続けてきたゆいさん。思い切ってアプリに被害を打ち込むと、思いがけない心境の変化があったといいます。

ゆいさん
「立ち向かえたような感じがします。自分もそういうふうにできたんだと自信がついて。ひとつのデータになって残り続けるということが、(痴漢被害が)なかったことにならない。」

2300件のデータから浮かび上がる痴漢被害の実態。
スタジオでさらに深掘りします。

いつ?どこで?どんな被害が?

武田:本当に許せない、大きな憤りを感じます。この報告、曜日別には土曜、日曜も上がっています。また、時間帯をご覧ください。朝夕のラッシュ時間帯以外も報告が上がっているんです。痴漢被害、いつでも起きているんです。

合原:では、どこでどんな被害が起きているのか見ていきます。
もっとも被害の報告が多い電車内では、立っているときだけではなくて座っているときも。そして、ドア付近での乗り降りの際に触られたという報告が目立ちました。さらに駅構内、改札ですれ違いざまに。ホームで電車を待っているときに触られたという報告がありました。

武田:精神保健福祉士・社会福祉士として、これまで800例以上の痴漢加害者を見てこられた斉藤さん。こういった状況から、どんな心理が見えてくるんでしょうか。

ゲスト 斉藤章佳さん(精神保健福祉士・社会福祉士)

斉藤さん:冒頭で、痴漢がどこでどんな被害があるか説明がいくつかありましたけれども、彼らは非常に冷静に、その被害者や状況、場所、時間帯を選んで行動化しています。

武田:改札口とかドア付近とか。

斉藤さん:そうですね。よく、むらむらしてやったとか、性欲がコントロールできなかったというふうに言い訳する人はいますけども、彼らは交番の前では絶対にやりませんので、その背景には性的な問題も含めて、支配欲や達成感、優越感が背景にあるというふうに考えてます。

合原:さらに路上では、アイドルのポスターをスマホで撮影しているときですとか、コインパーキングで料金を支払っているとき。店舗では、スーパーの総菜売り場、書店で本を立ち読みしているときにも被害が報告されています。いずれも共通しているのは、“何かに気を取られているとき”でした。

武田:被害者の様子もよく見ていると思いますけど、周りの状況もよく見ているということですよね。

斉藤さん:そうですね。非常に周りの状況をしっかり観察していますし、行動化するときに、そのときの靴や服装、例えば景色に同化するような服装や逃げやすい靴、このあたりも考えて行動化するので、よく痴漢は「透明人間である」、「景色に溶け込んでいる」というふうな言い方をします。

埋もれてきた“被害者の声”

武田:そこまで考えているんですね。
こうした被害の声、これまで表に出ることなく埋もれていました。警察庁の調べでは、被害に遭った89%の人が「通報・相談できない」というふうに答えています。また、被害を目撃したことがある人のうち、45%が「何も行動しなかった」というふうに答えているんですね。“傍観者効果”が被害を埋もれさせていることがうかがえます。
痴漢被害に関する研究を行っている牧野さん。牧野さんも被害に実際に遭われたことがあるということですけれども、こういった状況をどういうふうに捉えていらっしゃいますか。

ゲスト 牧野雅子さん(龍谷大学犯罪学研究センター博士研究員)

牧野さん:私自身も経験がありますけども、まず声を上げることが非常に難しい。それから、可視化するといっても、例えば警察に相談をするとか、届け出をする。そういうことがないとなかなか可視化できなかったんですね。ところが被害者にとっては、それが非常にハードルが高く、負担をかける方法だったんですけれども、このアプリは被害者に対する負担が非常に少なく、そして、このデータが可視化されるということに非常に意義がある。もう一つ、目撃者もここに書き込むことができるということが非常に大きなポイントだと思うんですけれども。傍観者にならない仕組みとしても、これはとても有効だと思います。

合原:アプリで寄せられた痴漢被害。実は、こんな場所でも被害が報告されていました。

まさかコンビニで…自転車にも注意!

“コンビニで偶然を装い すれ違いざまに複数回 尻に触られた”
“大学生くらいの男 コンビニに入ってもついてくる”
“コンビニの雑誌コーナーで 中年男が手を大きく振り わざとお尻を触ってきた”

身近にあるコンビニや、その近くで被害の訴えが寄せられています。
去年8月、店の前で腰を触られたという被害が報告された渋谷区の現場です。
小宮さんが指摘した1つが、コンビニの明るさ。

立正大学 小宮信夫教授
「明るいということは、女性の容姿が確認できるという条件。ターゲットが確認できますし、自分の逃げ道も確認できる。外からも中が見えるので、コンビニの駐車場で車止めて、そこで物色することもありますから。ガラス張りのところで雑誌コーナーで読んでいたら、もう完璧に正面から顔がわかる。」

合原:明るくて人通りが多くて安心しきっていたけれど、全く違う。ひとつアンテナが加わると、全然見え方が変わるなと思って。

もう1つ小宮さんが挙げるのが、“まさかコンビニで”という油断があること。

立正大学 小宮信夫教授
「結構、油断してないですか?コンビニ。」

合原:家の近くですし。コンビニに行くまではすごい緊張してて、入ったら、ものすごくリラックスして。明るいから、ほっとして。

立正大学 小宮信夫教授
「その油断が一番怖いんです。」


夜、自宅への帰り道も被害が相次いでいます。特徴的なのは、自転車に乗っていた人物からの被害。全国で15件報告されています。

“自転車に乗った男性が 通り過ぎざまに お尻を触ってダッシュで逃げた”
“自転車に乗った男に 後ろから追い抜きざまに体を触られた”

その1つ、去年9月に被害があった埼玉県の現場です。
深夜営業の店舗の近くの路上で、午前1時に被害が報告されています。

取材班
「このように道が分かれています。これですと、すぐに逃げられる場所だという印象です。」

こちらは先月、被害が報告された福岡市内の団地です。

取材班
「一棟一棟の間にある道は、とても入り組んでいて迷路のようです。この地形を熟知している人からすると、すごく逃げやすいように思われます。」

報告された各地の現場を見てみると、複数の逃げ道があるという共通点も見えてきました。

“見て見ぬふりをしない”痴漢なき社会へ

今回寄せられた2300件のデータ。
加害者の特徴についての情報も寄せられています。多いのが、スーツ姿の男性。中には女性や中高生と見られる報告も複数ありました。

“女性専用車両のなかで盗撮している女性がいた”
“バスに座っていたら 面識のない男子高校生が 太ももで胸を横からさすってきた”


初めて明らかになってきた痴漢被害の実態。アプリを開発した会社では、痴漢を目撃したら行動を起こしてほしいと呼びかけ始めています。
先週土曜日、大学入試センター試験の日。遅刻できないために声を上げづらい受験生を守ろうとパトロールを呼びかけたのです。

キュカ 片山玲文さん
「ちょっとずつ横に(被害の情報を)広げていただければ。最終的には1年中、痴漢のない世の中を目指せればと思って。」

教育現場でも、新たな動きが起きています。

警察官
「自分に性犯罪、関係あると思っている人。私たち男と女性の意識は全然違います。」

現役の警察官が、痴漢を目撃したら行動を起こしてほしいと伝えます。

警察官
「見て見ぬふり、無関心でいるのではなくて、一番大切なのは、そういったことがあったら、ちょっと勇気を出して助けてあげる、という気持ちが必要だと思います。」

愛知県警察本部 生活安全部 墨修明警部
「多感な時期の高校生に知ってもらって、その子たちが社会に出てから、そういった気持ちを周囲に波及させてもらえれば、少しずつですが間違っていない正しい考え方が広まっていくと期待しています。」

痴漢被害をなくすために、私たちに何ができるのか。
具体的に考えます。

意外な場所で こんな手口も

武田:コンビニ以外で、家具店や家電量販店でも被害の報告が寄せられています。明るく、人目のある場所でも痴漢の被害が起きているんです。

合原:そうなんですね。さらに、“触らない痴漢”も起きていることがデータから見えてきました。「スマホでわいせつな動画を見せる」。本当に驚いたのですが、「髪の毛のにおいをかぐ」という被害。例えば去年11月、池袋駅では、男性が前にいる女性の後頭部に異常に近寄り、鼻を埋めてにやにやしていた。髪を口にくわえていたり、頭をなめていたというものもあります。

痴漢なき社会 どうすれば?

武田:本当にあきれるばかりなんですけども、こうした痴漢の被害をどうなくしていけばいいのか。斉藤さんが注目しているデータがこちらです。
「初めての問題行動から専門治療につながるまで平均8年」もかかっているという。この数字から見えてくる対策はどういうことでしょうか。

斉藤さん:これは榎本クリニックでのデータになるんですけども、まず前提として確認しておきたいことなんですが、痴漢問題は性犯罪であるという前提と、人権侵害行為であるということが重要です。もう一つ、99%の痴漢は男性がやっております。つまり男性問題であると。ここを前提に痴漢撲滅のために、私から3つの提案をしたいと思います。
1つ目は1次予防です。これは予防教育、性教育や啓発活動。啓発活動は今回、センター試験に合わせて「#withyellow」の取り組みがありました。ああいう黄色という分かりやすい色を使って啓発していく。そして、周りを巻き込んでいくという活動。
2つ目は2次予防です。これは早期発見、早期治療です。これだけ8年もかかって治療につながっているわけですから、その間に膨大な被害者がいます。このあたりは初犯の段階で治療命令が出るような制度設計が必要だと思います。
3つめは3次予防です。これは、今われわれが10年以上取り組んでいる再発防止のための専門治療です。この3つにしっかりと取り組んでいくことで、成果が出てくるというふうに考えています。

武田:今後も被害が出ると、アプリを通して報告が上がってくると思うんですけれども、牧野さんはこうした報告をどういうふうに生かしていくべきだとお考えですか。

牧野さん:まず警察や鉄道会社のような公的機関を動かす可能性といいますか、効果的な取り締まりや対策につながる可能性があるということが1つですね。それから痴漢は、少数の加害者や被害者が気をつければいいという問題ではなくて、社会の問題。先ほど人権問題という話が出ましたけれども、人権の問題なので、私たち1人1人がこの社会を変えていかなければいけないという気持ちを持って、このデータに向き合わなければいけないということだと思います。

武田:まず社会側が、これは犯罪であり、決して軽視できないんだということをしっかり認識するということですよね。