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2019年12月19日(木)

“突然相続”ある日あなたにも!?

“突然相続”ある日あなたにも!?

ある日突然、身に覚えの無い相続に巻き込まれる“突然相続”が増えている。「幼いころ離婚して縁が切れたはずの実の親」や「疎遠な叔父・叔母」などほとんど関わりがないと思っていた親族の死後、血縁関係を根拠に相続権が巡り、資産価値の無い住居や覚えの無い借金の始末を求められる事態が相次いでいるのだ。場合によっては家屋の解体費用などで100万円単位の出費を迫られることも…。巻き込まれると厄介な“突然相続”の現場に迫る。

出演者

  • 杉谷範子さん (司法書士)
  • 小谷みどりさん (元第一生命経済研究所主席研究員)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

恐怖!“おじの借金1億円”なぜ私が…

神奈川県に住む50代の男性です。
4か月前、突然相続のトラブルに巻き込まれました。
自宅に届いたのは、住んだこともない自治体からの通知。滞納した税の支払いを求めるものでした。

50代男性
「本当に青天のへきれき。請求がなぜ私のところに来るのか。全く想像していない金額と事態なので、本当に困惑しました。」

その額を見せてもらうと…。

栗原:1775万円、すごい額じゃないですか!

文面には、かすかに見覚えのある名前が。
亡くなったと聞いていた、おじのものでした。

10年以上も連絡をとっておらず、葬儀にも参列していませんでした。
なぜ自分のところにきたのか。
訳も分からず、母親からおじの家族の電話番号を聞き出し、かけてみましたが、すでに使用されていませんでした。
そうこうするうちに、今度は、おじが銀行にしていた借金も明らかになりました。その額は、なんと1億円。

50代男性
「一生働いても返せない金額。もう絶望しかないです。」

怖くなった男性は司法書士のもとに駆け込み、何が起きているのか調べてもらいました。そして、ようやく、自分が相続人になった訳が明らかになりました。

事業が傾き、多額の借金を抱えていたおじ。その相続人になるのは、まず配偶者である妻、そして、子どもです。しかし、妻はすでに亡くなっていて、3人の子どもは相続を放棄しました。次に相続人になるのは両親ですが、こちらもすでに他界していました。すると、今度はきょうだいへ。きょうだいが亡くなっていた場合は、その子どもである、おい・めいにまで引き継がれます。こうして、この男性は相続人の1人になったのです。

50代男性
「想像できない。交通事故に遭ったような、本当に夜も寝つけず、食事ものどを通らず、精神的に追い詰められた。」

結局、男性は司法書士に10万円を支払い、相続を放棄する手続きをとってもらいました。

おじの“負動産”で想定外の出費

突然相続で降りかかってくるのは、借金だけではありません。
特にトラブルになりやすいのが、資産価値のない土地や家屋など、いわゆる“負動産”です。

50代男性
「毎回、雨が降るたびに水にぬれている状況です。危ないです。冗談抜きで。」

富山市に住む、この男性。
疎遠なおじが所有していた築50年の家を引き受けることになりました。

50代男性
「最初はえーっと思いましたけど。」

おじは、7人きょうだいの長男でした。そのおじが7年前、不慮の事故で他界。息子が相続放棄したため、相続はきょうだいと、その子どもに移りました。しかし、きょうだいたちは家の管理を拒否。一番近くに住む男性と母親が、仕方なく引き受けることになったのです。

年2万円ほどの固定資産税を支払い、この家を管理するはめになった男性。
家は放置できる状況ではありませんでした。

50代男性
「不審者が入ったり、火をつけられたりしたときに、『訴えられたらどうするんだ』って。それも困るな。」

今年、男性は150万円をかけて、この家を解体。
しかし、不動産業者からは土地の買い手はつかないだろうと言われています。

50代男性
「住んだこともない家にお金をかけるっていうのは、捨てるようなものなので、お金を。運が悪いなと思いました、正直な話。(この家を)持ってしまったことが。」

知らないと大変!“3か月ルール”

あるルールを知らなかったため、突然相続に苦しんでいる女性がいます。
新潟市に住む、長沼ますみさんです。
相続したのは、30年前から絶縁状態だった父親の家。

長沼さんが知らなかった重要なルール、それは“3か月ルール”です。
相続人であると知ってから3か月が過ぎると、自動的に相続を受け入れたとみなされるというものです。

長沼ますみさん
「そんな縛りがあるっていうのが全然わからなかったので、率先して動くっていうのは頭になかったです。」

30年前、両親の離婚を機に母親と家を出た長沼さん。
その後、父親は再婚相手と、この家で暮らしていました。
去年7月。父親が他界。
長沼さんは、再婚相手が住み続けるものだと考えていました。
しかし、実際には長沼さんが知らないうちに、再婚相手は相続を放棄。すでに家を出ていたのです。

自分も相続放棄したいと弁護士事務所に駆け込んだ長沼さん。
ここで初めて、3か月ルールによって、もはや放棄できないと知らされました。

長沼ますみさん
「(相続が)わかったときは、もう本当にびっくり。驚き。『どうしよう…』というので。法律はそうなのかもしれないけど、納得はいっていない。気持ちの中では。」

かつては、長沼さんも暮らしていた、この家。

長沼ますみさん
「ここは私が使っていた部屋。家を出て初めて入ります、この部屋は。」

居間の仏壇を開けると…。
もう2度と顔を見ることもないと思っていた父親の遺影が。

相続したことで、思い出したくない過去と向き合わざるをえなくなりました。

長沼ますみさん
「私にとって、この家は本当にあまり近づきたくない家。用がなければ、正直、来たくないなっていう思いしかない。本当にここ、いらないです。本当にいらない。」

突然相続から身を守るために、知っておくべきこととは?

相続は誰から?どんなもの?

武田:私も相続が気になる年代になってきましたから、ひと事じゃないなと思いながら見ました。
この突然相続。親族の間の、どの範囲まで及ぶものなんでしょうか?

栗原:法律では、相続の権利についてどこまで範囲が及ぶのか定められています。まずは、配偶者です。法律では、常に相続人とされています。その上で、第1順位が子どもです。子どもがいない場合は、第2順位、親です。親が亡くなっている場合は、亡くなった方のきょうだいに移ります。こちらが、第3順位です。ここで注意が必要なのは、きょうだいが亡くなってしまっている場合です。その場合は、おいや、めいにまで及んでしまうと。かなり遠いところまで。

武田:そうですね。相続トラブルを数多く扱ってこられた、司法書士の杉谷さん。VTRでは、税の滞納もいわゆる負の遺産として引き継ぐっていう事例がありましたけれども、税なんかも、やっぱり相続しなきゃいけない?

ゲスト 杉谷範子さん(司法書士)

杉谷さん:そうなんです。特に見落とされがちなのが社会保険料。保険料を払わなくてもいいと、医療機関を受けていないから保険料払わなくていいと思って滞納していても、それが、どんどんたまって、そして、相続人がそれを引き継がなくてはいけない。

武田:社会保険料というと、健康保険とかそういうものですか?

杉谷さん:そうなんです。あと、お庭とか持っている方は庭石とか庭の木。結構あれも処分、お金かかるんですよね。それから、誰もいないおうちに入っていったらペットが走り回ってたとか、猫ちゃんが走り回ってて、どうしようとか。そういうのも聞いたことがあります。

知らないと損!相続ルール

武田:栗原さん、こういった事態を防ぐために相続放棄ということができるわけですよね。ただ、3か月以内に手続きを取らないといけない。詳しくどういうことなんでしょうか?

栗原:3か月ルール。いつからか、ということなんですけれども、一般的には亡くなったときからというふうに考えがちですけれども、実はそうではないんです。正しくは、相続人であることを知ったタイミングから、3か月以内に相続放棄の手続きをしなければならないということなんですね。ただし、裁判所に申請すれば延長もできるという仕組みなんですね。

武田:杉谷さん、これ何もしないと、どうなるんですか。

杉谷さん:何もしないと、自分が相続人に確定します。

武田:相続しますって言わなくても?

杉谷さん:言わなくても自動的に相続になってしまいます。

武田:それから、延長できるとありますけれども、これは、どういうことなんでしょうか。

杉谷さん:要は、普通に相続をするか、相続放棄するか、そういう手段を考える時間をくださいと裁判所に申し立てをする。やはり遺産の調査しなくてはいけないので、プラスが多いのか、マイナスが多いのか分からないですよね。なので、まず3か月延ばして、次に、まだ分からなければ、あと3か月よろしいですかと申し立てをしてみる。ただ、必ずそれがいいですよと言われるとは限りませんが、とにかく延ばす申し立てをしてみるということは大事です。

なぜ起きる?“突然相続”

武田:相続など家族の問題に詳しい小谷さん。なぜ、今このような突然相続の問題が出てきているんでしょうか。

ゲスト 小谷みどりさん(元第一生命経済研究所主席研究員)

小谷さん:最近は、家族とか親族関係が複雑化してきたり、変化してきてるってことが一番大きいと思うんですね。特殊な事例じゃなくても、例えば、いま核家族化が進んでいますから、親がまだ生きてる間は、きょうだいがお盆とかお正月になると帰省するってことはありますけど、親が亡くなったら、その家は空き家になりますから、きょうだいも会わなくなる。そうすると、だんだん疎遠になってくるわけですね、いとこ同士も。一方で、離婚とか再婚する方なんかが増えてきますと、前の結婚の子どもと、今の結婚の子どもがすごく密な交流があるかっていうと、ないわけですよね。結婚の形、家族の形が複雑化してきてるってことが、こういう問題になるんだと思いますね。

武田:社会、家族というものが現代社会の中でバラバラになってきているってことが、こういった問題を生んでいると。

小谷さん:一方で、相続というのは血、血縁ですね。血縁を重視しているので、例えば子連れの再婚の場合には、相続人なのか、そうじゃないのかいろんな複雑な問題があるわけですよね。今の家族の形と、相続が血縁を重んじてるっていうのがミスマッチになってきてるということがあると思います。

得と思いきや…予期せぬ損に

あなたに相続がやってきて、一見、得だと思える場合でも、慎重に判断してください。
川崎市に住む女性。
これまで3度しか会ったことのないおじから遺産を受けとりました。

40代女性
「あまり会ったことがない(おじ)だったんですけど、血縁というだけでもらえるんだなって。」

相続したのは現金。そして、土地付き一戸建て。物件の住所しか分かりませんでしたが、とりあえず受け取ることにしました。

40代女性
「建物を使わないようにしても、売却できるようなものなので、“プラスになる”と思っていた。」

ところが、その思惑は裏切られました。
車で2時間以上かけ、ようやくたどり着くと、そこは驚くほど荒れ果てた状態でした。部屋の中は、至る所にゴミが散乱。水道も使えず、とても暮らせるような状態ではありませんでした。

40代女性
「これはかなり衝撃的で、この状態は正直怖かった。」

後悔しても、時すでに遅し。
いったん相続すると、覆すことはできないのです。

負の遺産から逃れられないことを知った女性が最も心配したのは、家族のことでした。おじから受け取ってしまったこの家。もし、自分に万が一のことがあれば、今度は夫と子どもが相続人に。本来相続が及ぶはずのなかった家族にまで降りかかるリスクが出てきたのです。

40代女性
「やっぱり気持ちが沈んでしまう。私に何かあった場合、娘に相続の権利が発生してしまうので。本当に、のこしたくない。何とかしないといけないと思いました。」

女性は、リフォーム費用を自分が負担するからと不動産業者と交渉し、ようやく手放すことができたといいます。

トラブル防ぐ 相続放棄のススメ

突然相続のトラブルを防ぐために、相談の現場ではどう対応しているのでしょうか。
この問題に数多く対処してきた、大阪の司法書士事務所です。1件5万円から15万円で相続放棄の手続きを代行しています。

この日、娘に付き添われてやってきた女性。
亡くなったおばの空き家の相続人になっていることが、2週間前に発覚しました。

司法書士法人ABC 椎葉基史さん
「現地はご存じですか?」

相談者
「いや、知りません。全然、全く何もわからない。」

まず取り組むのが、家系図をつくること。
誰からどういう経緯で相続が巡ってきたのかによって、必要な手続きや集めるべき書類が変わってくるからです。
さらに、家系図をつくることにはもう1つメリットがあるといいます。親族関係を正しく把握すれば、誰が相続人なのか明らかになります。自分が相続放棄することを伝え、その人たちにも判断を促すことができれば、親族間のトラブルを生まずに済むというのです。

司法書士法人ABC 椎葉基史さん
「わかる範囲は、こちらで調べさせてもらって、お手紙を送って、ご説明することは全然問題なくできます。」

相談者の女性も、年賀状などを頼りに可能な限り連絡することにしました。

司法書士法人ABC 椎葉基史さん
「それぞれの相続人が放棄すれば、放棄自体は成立しますので、(親族に)迷惑がかからないようにちゃんと教えてあげて、手続きを案内してあげてほしい方に限って、こちらで調べて、手紙を送ったりして案内をしていく。」

あなたができる対策は?

杉谷さん:椎葉先生がしっかり相続人を調べて一覧表にして、どうなさいますか、ほかの方に連絡してはいかがですか、連絡できる人いますかっていうふうに、ちゃんとフォローなさってることは、とても大事だと思います。務めというか…。やはり、親戚ですものね。

武田:焦って、この3か月の間に急いでやらなきゃっていうんじゃなくて、延長できるということも踏まえて考えると。

杉谷さん:弁護士や司法書士にお願いするか、最近は市役所などで法律相談とかも充実しています。そこに弁護士や司法書士が相談で来てるので、そういったものを利用なさってみてはいかがですかね。あと、裁判所のホームページにもいろいろ書き方が載ってますので、ホームページを参考に、ご自分で申し立てすることもできます。ダウンロードして、自分で書いてみて、裁判所に持ち込んで相談するとかっていうことも可能です。

武田:じゃあ、全部相続するか、あるいは、もう全部放棄するか…。

杉谷さん:もしくは、その中間的な限定承認という方法もあります。


限定承認とは、負債があることは分かっているものの、その額がいくらなのか分からないような場合に使われます。
例えば、プラスの財産として不動産と現金、合わせて600万円を相続するとします。後日、借金が300万円だったことが分かった場合、差し引き、300万円を受け取ることができます。

一方、借金が1000万円だった場合は、返済の責任はプラスの財産である600万円に限定され、残りの400万円の責任を負う必要はなくなります。
ただし、すべての相続人の同意が必要など、条件が厳しく手続きが煩雑だとして、利用する人は極めて少ないといいます。


武田:仮に、すべての相続人が相続放棄をしますということになると、いわゆる負の不動産のようなものっていうのは、そこに残ってしまいますよね。それはどうなってしまうんでしょう。

杉谷さん:実は、国庫に行くんじゃないんですかと、結構、皆さん気軽に考えてるんですが、すぐに国庫には行かずに、相続人がいない不動産ということで、また放置されてしまうんです。空き家は、空き家のまま。草もボーボーになってしまって。それこそ、地域がどんどん低下していく、荒廃していくきっかけになってしまうので、安易な相続放棄を勧めるのも、私はちょっと気がとがめるんですけれども。だからといって、その方、個人の負債が増える、背負うものが増えていくことを止められないというかですね、それは予防しなくてはいけない。そういう中で、非常にジレンマを感じますね。

武田:杉谷さん、突然相続を受けてしまわないために、それで困ったことにならないために、どういうふうに備えたらいいんでしょうか。

杉谷さん:やはりですねこちらですね。放置禁止。ローン会社とか銀行とか金融機関とか、そういった出どころのしっかりしたところからお手紙が来た場合は、放置禁止ですね。

武田:しっかり確認して。

杉谷さん:放棄するのであれば3か月以内。でも、どうなるか分からないのであれば、まずは延長してみる。相続をするかしないかを、ちょっと考えさせてくださいという期間を置くとか。とにかく3か月という期間が非常に短いので、放置しない。

武田:小谷さんは、例えば、今のは突然相続を受ける側ですけれども、自分が死んだときに、誰かに突然相続が飛んでいってしまうってこともありますよね。そこにも備えなきゃいけないような気もするんですけれども、いかがですか。

小谷さん:まず、多くの方が、自分が亡くなったときに誰が相続人なのか、考えたこともない方のほうが多いと思うんですね。そのうえで、自分の財産がどれだけあるのか。相続財産の棚卸しをまずしてみるってことがすごく大事なんじゃないかなと思うんですね。そのうえで私は、遺言書をみんな書くべきだと思うんですね。

自分が残すもの、マイナスもプラスも含めて、使い切れなかったもの、借金として残してしまうものを、この後どうしてもらいたいのか。だから、借金として残すものだったらごめんなさいって。借金、実はありましたと、ざんげするんですね。遺言で、ざんげ。

武田:遺言で、ざんげ。なるほど。

小谷さん:遺言書がないから、突然相続になるわけです。
財産が少ない人ほど、遺言書って書くべきだと私は思うんですよ。というのは、ほとんどの方が物で残すので、物は分けられないし、物ってもらう人にとっていらない物もいっぱいあるわけじゃないですか。現金はみんなほしいわけです。物で残すから大変なんですよ。例えば、不動産で残す方が多いわけですけど、自分はそこに住んでいるのでマイナスの動産だと思ってないんですけど、もらうほうからすれば、自分はそこに住まないわけだからいらないわけですよね。じゃあ、子孫に迷惑かけないためには、生きてる間に、その不動産をどうしたらいいのかって考えることも終活の1つなんじゃないかなと思うんですね。

武田:自分が生きてる間に処分をしておくとか。

小谷さん:そうですね。

武田:「クローズアップ現代+」、年内は今日で最後なんですけれども、私も年末年始、親族、家族とちょっと話してみたいなというふうに思います。ありがとうございました。

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