クローズアップ現代

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2019年2月18日(月)
問題の核心は!?徹底検証・統計不正

問題の核心は!?徹底検証・統計不正

景気動向や経済政策の指標となる重要な統計が歪められていた厚生労働省の統計不正問題。なぜ長年にわたって不正は続けられたのか?延べおよそ2000万人にのぼる、雇用保険などの過少給付の実態は?そして、国会での論戦の行方は―。取材班は、当時の厚生労働省の関係者などを徹底取材。問題の核心に迫る。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

厚労省関係者が告白!組織の内幕

明らかになった統計不正問題。現場にいた厚生労働省の担当者が、私たちの取材に初めて応じました。

厚生労働省 元統計担当
「とりあえず先輩に言われたことを引き継ぎ事項に従ってやって。自分も担当の係で、ここどうなんだろうと思うことはあった。当時は出世したいという思いがあったので、ミスは許されない。」

さらに担当者は、統計の重要性についての認識が甘かったと明かしました。

厚生労働省 元統計担当
「保険の給付の額にはねる(影響する)というのは、実際、報道を見て初めて知ったので、そこまではねる(影響する)ようなものだと正直思っていなかった。軽視はしていないけど、経済を左右するものだっていうことで自負を持って慎重にやっていましたけど、あそこまで政策にはねる(影響する)ものだとは正直思わなかったので、びっくり。」

なぜ不正は始まり、長年にわたり放置されてきたのか。私たちは、厚生労働省の現役職員やOBなど、関係者150人以上に取材を試みてきました。注目したのは、問題が発覚するまでの歴代の担当課長の対応です。

不正が始まったのは平成16年。毎月勤労統計調査は、本来従業員500人以上の事業所すべてが対象でした。しかし、東京都では、ルールに反しておよそ3分の1を抽出する手法で調査が行われるようになりました。さらに、必要な統計処理もされなかったため、ゆがんだデータが公表され続けたのです。
不正を始めた理由について、当時の担当者は、調査を担う都道府県からの「負担を減らしてほしい」という要望に配慮する必要があったと説明しています。当時の課長は、ルールに反して抽出調査に変更したいという部下からの提案を決裁していました。ところが課長には、重大な決裁だという覚えはなく、後任の課長にも引き継いでいなかったことが取材で分かりました。その後、5人目の課長までは不正を認識することがなかったといいます。

元課長の取材メモ
「本当に驚いた。報道されたときフェイクニュースかと思ったぐらいだ。本来は大事な情報は上げてもらって情報共有して、ということでなくてはいけない。まさに、そこは私に監督責任がある。」

調査が不自然なことに初めて気づいたのは、6人目の課長でした。この課長は専門知識を持っていたため、データを確認した結果、不正に気づいたのです。しかし、課長が行ったのは隠蔽とも取れる行動でした。毎月勤労統計のマニュアルから「抽出調査をしている」という内容を削除。

さらに、外部の有識者が集まる会議でも、「全数調査を行っている」という、うその説明をしていたのです。不正が止まることはありませんでした。NHKの取材に対してこの課長は「特別監察委員会の調査を受けているので話せることはない」と答えました。

さらに関係者の取材を進めると、続く7人目の課長が不正にどう対応したのか、その詳細も浮かび上がってきました。課長は、前任者からの引き継ぎで、統計の不正について知らされていました。そこで考えたのが、ルールを実態に合わせることでした。総務省に提出する計画にある全数調査という表現に「原則として」を加え、抽出の調査も認められるよう打診します。しかし、総務省とのやり取りの中でこれまでの不正が発覚するのを恐れ、断念しました。

当時の担当者は、特別監察委員会の調査などに対して、こう話しているといいます。

当時の担当者の取材メモ
「総務省側から『何か変えるんですか』と聞かれた。それ以上主張すると『じゃあ今までどうやっていたのか』と聞かれるでしょう。そこでまたウソの上塗りをするわけにはいかない。諦めざるを得なかった。」

その後、調査の制度改正のタイミングで、課長はデータのゆがみを補正する指示を出します。そのことを公表することはなく、上司にも報告していませんでした。
一連の取材で明らかになったのは、不正を止めることができない機能不全に陥った組織の姿でした。

当時 担当課に在籍していた職員の取材メモ
「統計のゆがみが雇用保険などに影響することは知識としてはあったが、受給している国民の顔は思い浮かばなかった。」

元幹部の取材メモ
「厚生労働省の職員として本当に恥ずかしく、申し訳ないとしか言えない。『隠蔽体質』だと言われても仕方ない。」

厚生労働省 元統計担当
「(不正を)忖度(そんたく)して言わないという方、前任、前々任に被害が及ぶじゃないですけど、そっちまで迷惑をかけると考える人もいましたので、それで言わない可能性も確かにありますね。組織的不関与、いろんな人がしっかり見て組織に関与していれば、こんなことはなかった。」

過少給付 のべ2,000万人 影響どこまで

統計の調査結果をもとに支払われる、雇用保険や労災保険。それが不正によってゆがめられたことで、10年以上にわたって本来より少なく支給されていました。総額は530億円余り。対象は延べおよそ2,000万人とされ、その半数はいまだに特定されていません。

厚生労働省内に設けられた電話相談窓口です。連日、職員たちが対応に追われています。

職員
「大変ご迷惑おかけしまして、わざわざお電話ありがとうございました。」

怒りの声や問い合わせは、この1か月で8万件余りに上っています。

支給の対象となる人たちからは、批判の声が上がっています。
労災の遺族年金を受け取っている、寺西笑子さんです。23年前に夫を過労自殺で亡くしました。遺族年金だけでは生活が厳しく、自らも働き、2人の息子を育ててきた寺西さん。厚生労働省に問い合わせ、支給額が本来より少なかった事実を知りました。

寺西笑子さん
「本当に遺族として許せないし、怒りがわいてきています。国から支給されたものは間違いがないと思って受け取っていますから、それが間違いだったということは、本当にあってはならない。」

労災保険の年金を受け取る人への追加支給額は、1人当たり平均9万円になると国は説明しています。

一方、雇用保険や労災保険の保険料を納めてきた企業の間にも、不満が広がっています。埼玉県にある、従業員70人の半導体加工を行うメーカーです。経営環境が厳しい中、毎年300万円近くの保険料を納付してきました。その制度がずさんな調査に基づいて運営されてきたのです。

さらに国の追加支給にかかる経費、およそ200億円までもが保険料で賄われることに怒りを覚えるといいます。

半導体加工メーカー 総務担当者
「憤りを感じるというのが実際の話なんですけど、国はちゃんと、もう少しやることはやっていただいて、間違いがないような形でうまくやってもらえればと思います。」

本来より少なかった分の追加支給は、いつ始まるのか。厚生労働省は、現在受給している人については雇用保険は来月(3月)から、労災保険は5月から支給されるとしています。過去に受給していた人については、雇用保険は11月ごろから、労災保険は9月ごろからになるとしています。ただ、特定されていない1,000万人については、さらに時間がかかることもあるとしています。

重要な経済指標をめぐる今回の不正。専門家からは、国そのものへの信頼が損なわれかねないという声が上がっています。都内のシンクタンクに勤める小林俊介さん。不正発覚前、統計に疑問を抱き、厚生労働省に問い合わせていました。

大和総研 エコノミスト 小林俊介さん
「海外投資家、海外の事業活動を日本で考えている方々にとっても、その事業活動、投資を行ううえでの根拠のない状況になってしまう。根拠となる統計がないような国で事業をするよりは、統計が整っている国でやろうというふうに考えるのが普通になってきてしまう。国にとっても民間にとっても、事業計画を練るうえで大きな損害が出てしまう。」

厚労省関係者が告白!組織の内幕

武田:景気の動向を把握することや経済政策の指標ともなる、その重要な統計が、根幹から揺らいでいる。しかも海外からの信用も失いかねない事態となっている。まさにあきれるばかりだと思うんですけれども、厚生労働省を取材してきた社会部の松尾さん、取材してどんなことが見えてきましたか?

松尾恵輔記者(社会部):今回の取材から見えてきたのは、「前例踏襲」と「事なかれ主義」です。統計担当という重要な責任を担う立場でありながら、ルールを軽視して、それを漫然と引き継いできました。
まず今回の問題では、1人目から5人目までの課長は、問題として把握すらせずに、不正を放置していました。また、6人目の課長は初めて不正に気づきましたが、それを正すことはせず、マニュアルから調査の記述を削除するなどしていました。このとき、上司にも相談せず、独断で削除を決めていたんです。また、7人目の課長は、虚偽の報告をしていたほか、データをひそかに補正するなどしていました。この課長は不正を認識しながらも、「そうしてもあまり以前と変わらないだろうと思った」と説明していて、不正に気づいても正せない組織の体質が浮き彫りになったんです。

焦点 “隠蔽”はあったのか?

武田:こうして経緯を見てみますと、まさに長年の不正の隠蔽ではないかという疑問を抱かざるをえないんですけれども?

松尾記者:先月(1月)公表された、厚生労働省の特別監察委員会の報告書では、今回の経緯について、隠蔽の意図までは認められなかったとしています。しかし職員の一部は、不正に調査が行われていたことに気づいていました。そして今回の調査で、取材に応じた厚生労働省の元幹部の1人は、「隠蔽と言われても仕方がない」と話しています。特別監察委員会による再調査は、今まさに進められているのですが、こうした経緯を「隠蔽」と認定するかどうかというのが、まさに問題となっています。

揺らぐ信頼 政府の対応は?

武田:政治部の広内さん、この問題、政府はどう捉えているのでしょうか?

広内仁記者(政治部):政府は、統計への信頼を損なう事態を招いたとして重く受け止めています。一方で野党側は、厚生労働省だけの責任ではなく、安倍総理や根本厚生労働大臣にも責任があると追及しています。そして野党内には、根本大臣の辞任を求める意見もあるんです。安倍総理は、長年にわたって見抜けなかった責任はある。国民におわび申し上げると、繰り返し陳謝しています。そして、責任は再発の防止に全力を挙げることで果たしたいとしているんです。

武田:ここまでは、厚生労働省の内部で不正が止められなかった実態を見てきましたけれども、今、焦点となっているのはこちらです。調査方法の変更をめぐる経緯が、国会で論戦になっているんです。

田中:毎月勤労統計。これまでは2、3年に1度、すべての対象を入れ替える方法を取っていました。それを去年(2018年)から毎年、一部を入れ替える方法となりました。

以前の方法で行われた4年前の調査では、過去にさかのぼって下方修正され、賃金の伸びが低い結果となりました。これに対して総理大臣秘書官から、問題意識が厚生労働省に伝えられました。その後、調査方法が変えられました。この変更が行われた30年の調査では、賃金の伸び率が毎月プラスになりました。

野党側は、調査変更は官邸の圧力による「アベノミクス偽装」だと追及。政府は不適切な方法を取らせる意図はなかったと否定していて、今日(18日)の国会でも激しい論戦となりました。

統計調査方法めぐり野党追及 政府は

国民民主党 玉木代表
「自分たちに都合のいい統計手法に変更していく流れが作られているのではないか。まさにアベノミクスの成功を演出するための、統計改革という名を借りた恣意的な統計の操作を、官邸主導でやったのではないか。」

安倍首相
「今回の統計不正と、毎月勤労統計調査のサンプリングのやり方の変更は別の問題であるとはっきりさせておかないと。もちろん意図的に混同させようとしているのではないだろうが。(平成27年に)賃金について国会で質問を受けたので、答弁を準備する際に、その年の6月の賃金の伸びについて調査対象事業所の入れ替えの影響があった旨の説明を(秘書官から)受けたが、私からは何ら指示をしていない。」

国民民主党 玉木代表
「総理の明示的な指示がなくても、いわゆる官邸官僚や経済財政諮問会議などが決めた目標、期限に霞が関は必死で合わそうとしている。そこの自覚がないことがいろんな問題を生じさせている。そうしないと修正できない。」

安倍首相
「我々が統計をいじって(賃金を)多く見せようと考えているというのは全く違う。そういう間違った認識は与えないでもらいたい。それは全く事実と異なる。それをはっきりと申し上げておきたい。」

野党側は、4年前、当時の総理大臣秘書官が調査方法に関する「問題意識」を伝えていたことも追及。

立憲民主党 逢坂政調会長
「この用語がどうも私はわからない。『問題意識を伝える』、どういう意味か。」

中江前首相秘書官
「経済の実態を適切にタイムリーに表すための、改善の可能性について考えるべきではないかと。私はそういう問題意識を持った。」

立憲民主党 逢坂政調会長
「自分の考えを表明したということか。政府の方は、この問題の答弁で口をそろえて言葉を合わせたように『問題意識を伝えた』と。官房長官も『問題意識を伝えた』と言っている。示し合わせた答弁のように思えてならない。なかなかふだん使わない言葉だ。」

中江前首相秘書官
「秘書官である私個人の考えということで、問題意識を厚生労働省の方に申し上げた。官房長官の答弁は、別に言葉を示し合わせたとか、そういうことはない。最近お話しておりません。」

立憲民主党 逢坂政調会長
「厚生労働省、『問題意識』が伝えられて何をしたのか。何もしなければ総理秘書官の問題意識の伝達を無視したことになるし、検討会の設置につながるのであれば、問題意識を受け止めて具体的に動き出したということになる。どちらか。」

厚生労働省 藤澤政策統括官
「従前から改善策を検討する必要性を認識していたことや、問題を指摘する有識者の声などもあったので、それを踏まえて、統計の専門家の意見を聞くために改善に関する検討会を開催し、毎月勤労統計調査に関わるさまざまな課題について、国民にとってわかりやすく信頼性の高い統計を作成する観点から、検討がなされたものと承知をしております。」

前の秘書官の「問題意識」について、安倍総理大臣は…。

安倍首相
「(秘書官から)そのことについては報告を受けていないし知らなかったが、(調査対象を)3年に1度変えると大きなブレが出てくることと、全部変える。今まで毎月毎月統計を示してきたことに対して、分析していく意味が一挙になくなってしまうのは意味がないのではないかという問題意識を伝えるのは、当たり前のことではないか。」

野党・政府“平行線” 今後どうなる?

武田:この調査方法の変更をめぐる論戦、野党側の追及と政府の主張は平行線をたどっているわけですけれども、今後どうなるでしょうか?

広内記者:この今日の論戦後も、野党側は「総理大臣官邸の主導で統計の操作が進められたという疑念は払拭されなかった」としているんです。野党内では、「総理大臣秘書官が関与していて、加計学園の問題と同じ構図だ」という声もあり、さらなる参考人の招致や、集中審議の開催などを求めて、引き続き追及する方針です。
これに対し政府は、調査方法の変更は、調査対象を3年ごとに全て入れ替えるたび、数値が大きく変わるという問題を是正するために行われたものだとしているんです。そして、秘書官が問題意識を伝える以前から、専門家の間でも指摘されていたことで、圧力などはないと否定しています。与党内では、統計問題以外も議論すべきだという声が国民から上がっていて、どこかで区切りをつけなければならないという意見もありまして、新年度予算案の審議を着実に進め、年度内の成立を目指す方針です。

武田:この調査方法の変更問題、厚生労働省内からはどんな声が上がっているのでしょうか?

松尾記者:厚生労働省の当時の担当者はNHKの取材に対して、「圧力とは感じなかった。ただ、変更自体は必要なもので、なんとかしなければならないという思いはあった」と説明しています。一方で、秘書官が厚生労働省に問題意識を伝えてから2年後には、調査方法を変更することが決まっていて、変更の経緯については、引き続き検証が必要だと思います。
さらに解明しなければならないのが、実質賃金の問題です。調査方法の変更に伴って、専門家や野党側からは、実質賃金の数値の伸びが低くなっているのではないかという指摘があり、厚生労働省に改めて比較できるものを公表するように求めています。しかし、この数値を厚生労働省は公表していません。今後、厚生労働省は数値を示すかどうか、有識者による検討会で議論するとしていますが、問題の先送りだと指摘する声も出ているんです。

信頼回復のために何が必要?

武田:この統計への信頼回復は急務だと思うんですけれども、何が求められているのか、どう感じていますか?

広内記者:今回の不正をきっかけに、7つの省庁の23の基幹統計で問題が見つかりました。統計への信頼が揺らいでいるのは間違いありません。NHKの世論調査でも、政府が発表している統計を「信用できる」と答えた人は5%です。「信用できない」と答えた人が52%に上っています。

政府は総務省の統計委員会の部会で、明日(19日)から検証を始めるなど、再発防止や、統計の品質向上に向けて、総合的な対策を講じるとしています。与党内では統計調査に詳しい人材の育成を求める意見もあり、今後、検討が本格化する見通しです。

松尾記者:今回の問題をめぐって、厚生労働省は第三者委員会として特別監察委員会を立ち上げたのですが、当初、僅か1週間で原因についての調査を終わらせました。この問題発覚後の対応にも、疑問の声が上がっていたんです。信頼を回復するというのであれば、まずは徹底的に問題を解明するという姿勢が求められると思います。
またこの2年間、厚生労働省では、働き方改革や障害者雇用をめぐるデータに誤りや不備が見つかったほか、法務省でも外国人材をめぐる資料の誤りが発覚していました。統計は国民の生活に直結する重要なデータであって、今回はまさにそれが長年にわたってゆがめられていたという事態なんです。統計への信頼の回復というのはもちろんですが、まずは行政そのものへの信頼をどう回復していくか、そこに取り組んでいくべきだと思います。

武田:私たちの暮らしや社会の状態を測る大事なデータが統計です。それをないがしろにする今回の問題、行政が本当に国民の側に向いているのかと、疑問を抱かざるをえません。一刻も早い真相の解明を求めたいと思います。