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2018年11月20日(火)
日産ゴーン会長 逮捕の衝撃 ~独自取材 不正の手口~

日産ゴーン会長 逮捕の衝撃 ~独自取材 不正の手口~

金融商品取引法違反の疑いで逮捕された日産自動車のカルロス・ゴーン会長。「コストカッター」とも呼ばれ、日産自動車の業績のV字回復を実現してきた。有価証券報告書に、みずからの報酬を実際よりも50億円あまり少なく記載していたとして逮捕されたが、他にも正当な理由がないのにブラジルやレバノンなど世界4か国で会社側から住宅の提供を受けていたことがわかっている。住宅を保有する関係会社には、これまでに数十億円が支払われているという。不正はどのようにして行われたのか?不透明な資金の流れの実態は?独自取材で最新情報を伝える。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

独自取材!驚きの不正手口 住宅提供 巨額報酬で何が?

初めて取材に応じた、日産の元幹部です。逮捕されたゴーン会長に権力が集中していた実態について、証言しました。

日産 元幹部
「ゴーンさんの言っていることを守っていればいい。何でもゴーンさんに頼る。リーダーシップの度合いは強くなっていく。徐々に方向がずれていったことは十分想像できる。」

古山彰子記者(ヨーロッパ支局)
「パリの高級住宅街です。ゴーン会長が会社側から提供を受けたとされる住宅がこちらになります。」

354万ユーロ。日本円にして、およそ4億5,000万円の高級物件です。

住民
「ここはゴージャスな住宅です。広さは最低でも100平米ですよ。大臣とか多くの人が訪ねて来ていましたよ。」

ほかにも、リオデジャネイロやベイルート、アムステルダム。業務上の正当な理由がないのにも関わらず、世界中に住宅を提供させていたことが分かりました。こうした不透明な取り引きは、どのように行われていたのか。関係者への取材からは、その手口の一端が見えてきました。
日産が設立した海外の子会社。この子会社には、日産から多額の資金が投じられていました。そして、住宅の購入や改装の費用を支出させ、ゴーン氏に提供していたのです。この事実について、有価証券報告書には記載されていませんでした。専門家は、こうした不正の背景には、ゴーン氏の日本に対する甘い見方があったと指摘します。

自動車評論家 国沢光宏さん
「フランスでは一発でつかまるが、日本なら、うまくごまかせるのではないか。いろんな数字を動かして、自分が何もやっていないかのようにできる。見抜かれないという気持ちはあった。自分で、ばれないような体制ができていたと判断したのでは。」

平成11年、日産の最高執行責任者に就任したゴーン氏。当時出演したクローズアップ現代では、経営トップとしての姿勢について、次のように語っていました。

カルロス・ゴーン氏(クローズアップ現代 平成11年10月28日放送)
「いまのような状況に対応するには、断固とした姿勢が必要。妥協してはいけません。究極の目標について妥協はできません。究極の目的は企業の再生です。利益を生むように、市場シェアを増やし、負債を大幅に減らすことです。」

主力工場の閉鎖や、会社グループ全体で2万1,000人の人員を削減するなど、徹底したコストカットを断行。その結果、就任時には1兆3,000億円に上っていた自動車部門の負債をゼロにし、業績のV字回復を実現しました。「コストカッター」の異名を取るゴーン氏の厳しい姿勢について、当時を知る元幹部が取材に応じました。

電話:日産 元幹部
「ビジネスには潔癖。(経費での)弁当はだめ、物をもらってはだめ、社内では年賀状もだめ、非常にびっくりした。お歳暮も関連会社からのものは禁止。」

平成17年には、ルノーの経営トップを兼任したゴーン氏。一昨年(2016年)には、三菱自動車も事実上の傘下に収めて会長に就任し、大企業グループを築き上げました。

自動車アナリスト 中西孝樹さん
「危機の日産を立て直し、ルノー・日産という巨大なアライアンス(提携)を形成し、ああいったタイプの経営者でなければ、できない力技。それはそれで非常に成果はあった。でも逆に影の部分もあって、企業が巨大化していく中で権力が集中してきた。そういった部分の中で少し甘えというか、チェックが効かなかった問題点がやはり出ているのではないかと思う。」

強いリーダーシップを発揮し、自らの権限を拡大していったゴーン氏。注目されたのが、高額の報酬です。毎年公開されているゴーン氏の役員報酬です。

年々増加し、平成26年度には初めて10億円を突破。平成28年度には、過去最高となる10億9,800万円に達しました。日本企業の中では、破格の金額。株主総会では…。

株主
「すごいね、もうびっくり。ちょっとやりすぎ。」

カルロス・ゴーン氏(当時)
「日本企業と比較すれば例外的と思うかもしれないが、グローバルな基準と比較すれば、決して法外な額ではない事実。すべてにおいて平均を下回っている。」

高額報酬を受け取っていたゴーン氏。その一方で、数千万円に上る家族旅行の代金を日産側に負担させていたのです。ゴーン氏は、総額50億円に上る役員報酬を、有価証券報告書に記載していなかったとして逮捕されました。その構図についても、新たな事実が明らかになってきました。公表されていなかった巨額の報酬を、ゴーン氏はどのようにして手にしていたのか。日産が株主総会で承認を得ていた、役員報酬の総額の推移です。

毎年、総額はおよそ30億円に上るとしていました。しかし取材を進めると、実際に役員に支払われた報酬は、毎年10億円程度少なかったことが明らかになりました。平成22年、上場企業に義務づけられた1億円以上の役員報酬の開示。多額の報酬への批判が相次ぐ中、不正は行われました。実際には、ほかの役員に支払われなかった報酬。その一部が、ゴーン氏の手に渡っていた疑いが浮かび上がってきたのです。関係者によると、ゴーン氏は、全ての役員への報酬の決定権限を事実上握っていて、どのように分配したかについては、報告する義務がなかったといいます。日産の元役員が、その実態を証言しました。

日産 元役員
“報酬の総額は、株主総会の決定事項だが、分配についてはゴーンに権限があった。特異なものだという気はしていたが、そういうものだと思い込んでしまった。”

自動車アナリスト 中西孝樹さん
「結果重視で引っ張るゴーンさんの強さと、ガバナンスを監視していく甘さと、この微妙なひずみ。外部からのチェックをきちんと受けていくというところが欠けていたのが日産の弱点。」

田中:これまでの関係者への取材で明らかになった不正の構図。社会部の橋本記者とお伝えします。
ゴーン会長は、役員報酬を5年間で合わせて50億円あまり少なく記載していた疑いが持たれていますが、一体どのような形で捻出されていたんでしょうか?

橋本佳名美記者(社会部):特捜部は、具体的な手口については明らかにしていませんが、注目されるポイントの一つは、株主総会で承認された取締役への報酬の総額と、実際に支払われた額の差額です。その額は毎年10億円ほど。どのように配分するかは、事実上、ゴーン会長に決定する権限がありました。ほかの取締役に支払われなかった報酬の一部が、ゴーン会長に流れていた疑いも指摘されています。

田中:正当な理由がないのに、世界の4か国で、会社側に高級住宅を提供させていたという指摘もありますよね。

橋本記者:日産は自動車の先端技術に投資する名目で、海外に関係会社を設立し、これまでにおよそ60億円を出資しています。このうち20億円あまりは、リオデジャネイロの高級マンションや、ベイルートの住宅の購入や、改築の費用として支出されていたということです。このほか、数千万円の家族旅行の代金を、日産の子会社に負担させるなど、不透明な資金の流れが次々と明らかになっています。

武田:日産の立て直しのために、厳しいリストラを強いたゴーン会長。そのゴーン会長に、ほかの取締役の報酬の一部が流れた疑いが出ています。
日産を取材している経済部の小坂記者、こうした報酬の配分、組織的に気付かないものなのでしょうか?

小坂隆治記者(経済部):会社には、内部監査というチェック機能もありますので、常識的には不正は見抜けるはずです。ただ、ゴーン会長は、それぞれの取締役の報酬について、その配分を自ら決めていたということが明らかになっていまして、強大な権力を持っていました。その全容はまだ分からないんですけれども、社内がそうした状況では、チェック機能が健全に行われていたのかどうかは、疑問を持たざるをえません。

武田:それにしても、ほかの経営陣や、あるいは法人としての日産、これは罪には問われないんでしょうか?

橋本記者:特捜部は、今回の不正行為には、ゴーン会長の部下の執行役員らが関わっていたと見ています。しかし今回、ゴーン会長の側近の一人で、住宅の提供にもかかわったと見られている外国人の執行役員は、特捜部との間で司法取引が成立しています。この執行役員は、ゴーン会長と交わしたメールなど、さまざまな証拠を提供するなど、積極的に捜査に協力していると見られています。こうした協力の見返りに、検察が起訴を見送ったり、処分を軽くしたりする可能性もあります。また、日産側も特捜部の捜査に全面的に協力していると説明しています。ゴーン会長の不正行為を明らかにする姿勢を見せることで、会社が受けるダメージを少しでも抑えようとする狙いがあるものと見られています。

田中:日産の西川社長は、今回の事件について「ゴーン会長の長年にわたる統治の負の側面」と語りました。こちらは、ゴーン会長が日産にやってきてからの出来事です。

ゴーン会長が日本に来たのはバブル崩壊後、日産が深刻な危機に陥っていた平成11年。日産リバイバル・プランを掲げ、大胆なコストカットやリストラを断行。そして、V字回復を遂げました。その後も、強いリーダーシップで経営拡大にまい進。同時に、権限も集中していったのです。

独自証言!社内で何が? 権力集中 驚きの実態

ゴーン会長は、どのように権力を集中させていったのか。私たちは、複数の元社員や経営幹部から証言を得ました。

管理職だった元社員
「権力というか、どんどん拡大するだけで進んできてしまったのかなと。」

元経営幹部
「実績を出していくにしたがって、ゴーンさんに対する信頼度が格段に高まっていく。依存度が高くなって、なんでもゴーンさんに頼る。」

ゴーン会長が日産の最高執行責任者に就任したのは、平成11年。当時の日本経済は、バブル崩壊後の景気停滞に苦しんでいました。深刻な経営危機に陥っていた日産に乗り込んだゴーン会長は、徹底した合理化を進めます。

カルロス・ゴーン氏(当時)
「どれだけ多くの努力や痛み、犠牲が必要となるか、私にも痛いほどわかっています。でも信じてください。ほかに選択肢はありません。」

“日産リバイバル・プラン”を掲げ、主力の村山工場などを閉鎖し、グループ全体で人員削減を進めました。村山工場の閉鎖で配置転換になった男性です。

今回の事件を聞き、当時の合理化は何のためだったのかと感じています。

村山工場から配置転換になった男性
「悔しいというか、そういう感じが強かった。大合理化があって働いていた人たちが大変苦しい思いをした。その陰でゴーン会長が膨大な収入を得ていた。憤りを感じる。」

徹底した合理化により、V字回復を実現したゴーン会長。社内の求心力が一気に高まったといいます。

管理職だった元社員
「(業績が)急激に確かに上がっているということで、ゴーンさんに頼る。ゴーンさんの言うことを聞いて、同じ方向に頑張ろうと。」

平成17年、ゴーン会長と日産との関係は大きく変わります。ゴーン会長がルノーの経営トップも兼任することになったのです。当時のゴーン会長のスピーチの様子が残されていました。

カルロス・ゴーン氏(当時)
「日産は常に高い目標を掲げ、トップを目指さなくてはいけません。休みはありません。休みはないのです。休む時は、私も皆さんもここを去る時です。」

元経営幹部は、ゴーン会長はルノーのトップを兼任するようになって変わってきたといいます。

元経営幹部
「ルノー、日産の両方の会社を1人でみるようになったのがターニングポイント。彼自身の夢、こういうことを成し遂げたい、夢の大きさが変わった。」

平成20年、リーマンショック。経営改革を軌道に乗せた日産は、新たな危機に襲われます。ピーク時には、8,500億円を超えていた営業利益は一気に減少。ゴーン会長の就任後、初めて赤字に転落しました。

日本の株式市場も、平成21年3月、バブル崩壊後の最安値を記録しました。このリーマンショックの危機でも、社長、会長、CEOを兼務していたゴーン会長は、強力なリーダーシップを発揮。世界で合わせて2万人を削減する従業員のリストラを発表する一方、中国を中心とする新興国で販売拡大を図りました。その結果、リーマンショックの翌年度の営業利益は3,000億円余りの黒字に回復。再び日産を危機から救いました。

たび重なる危機を乗り越え、世界を代表する経営者となったゴーン会長。その後、他社との提携も主導します。一昨年、燃費データの不正が発覚した三菱自動車を、事実上の傘下に収め、自ら会長に就任。グループ全体の販売台数は、去年(2017年)トヨタ自動車を抜いて、世界第2位になりました。およそ20年にわたって日産に君臨してきたゴーン会長。今回取材した元社員や経営幹部は、ゴーン会長を信頼し過ぎたことが、不正を見過ごすことにつながったと語りました。

元経営幹部
「信頼されて、みんなが信頼し切って、彼が言っていることは間違いない。そこですれ違いが起きていたことが想像できる。過度な信頼になると、間違ったことを言っても『イエス』という人が増える。その意味で徐々に方向がずれていったことは想像できる。」

権力集中 社内で何が? 働かなかったチェック体制

武田:それにしても、なぜチェック機能が働かなかったのか。やはりゴーン会長の存在が大きくなり過ぎたということなんでしょうか?

小坂記者:ひと言でいえば、ゴーン会長に権限が集中した弊害です。会社の経営、特に経営危機のときに、そこから立ち直るという局面では、強力なリーダーシップというのは必要です。その後、経営がよくなってからも、それが長年続くことで、さまざまな経営判断の権限がゴーン会長に集中していきました。そこで逆らえない雰囲気とか不満というものが、社内にまん延したという証言も集まっています。例えば、現役の社員や元社員は、その取材に対しまして、「権力が集中し過ぎて、意志決定のプロセスに問題があった」とか「ゴーン会長の決定は絶対という文化が生まれた」。あとは「存在が大きくなりすぎてしまった」、こうした証言をしています。

武田:こうした声が出るくらい、カリスマ的な経営者だったわけですね。
そのゴーン会長が不在になるということで、日産、そしてゴーン氏がトップを務めるルノー、三菱自動車のグループ各社の、今後の経営への影響はどうなんでしょうか?

小坂記者:3つの自動車メーカーを微妙なバランスで保ってきた今のグループが、そのまま維持できなくなれば、経営上の最大のリスクとなります。フランス政府が筆頭株主のルノーは、日産の40%余りの株式を保有しています。日産の利益が配当などの形で入りまして、それは今、ルノーの利益の半分を占めています。ルノーが利益をさらに求めて、日産への支配力をさらに強めようとすれば、それに対して、日産が対抗するという、いわば対抗軸というものがグループ内に今あるんですけれども、ゴーン会長がその間に立つことで微妙なバランスというのを保ってきたんです。

武田:日産対ルノーのバランス、これがどうなるかっていうことがまず焦点ですね。
一方で、三菱自動車との関係もありますね。

小坂記者:経営危機に見舞われた三菱自動車が再建した背景には、経営トップとゴーン会長の信頼関係というものがありました。保守的といわれていた三菱を、ゴーン会長が強力なリーダーシップの下で改革というのを大胆に進めてきたんです。それで先ほどのルノーとの緊張感を保った関係と、今の三菱とのトップどうしの関係、それがその3つの全ての要になっていたというのがゴーン会長でした。そのゴーン会長が不在になれば、3社の微妙な提携関係にどんな影響が出てくるのか、これが今後の焦点になります。

武田:社会部の橋本記者、今後の捜査はどう進むんでしょうか?

橋本記者:ただでさえ巨額の報酬を得ていたゴーン会長が、なぜ不正行為をしてまで、さらなる報酬を得ようとしていたのか、その動機の解明が焦点になります。検察幹部の1人は、“日産をV字回復させたことがおごりになり、巨額の報酬をもらっても当然だと考えていたのではないか。日本国内では、海外に比べて、経営者への多額の報酬を批判する投資家も多いため、投資家を欺く意図もあったのではないか”と話しています。自らの報酬を隠しただけではなく、不正に資金を流用して、会社に損害を与えた疑いが強まれば、経営者として刑事責任がさらに問われる可能性もあります。今後、特捜部の捜査がどこまで進むかも焦点になります。

武田:衝撃的な事件ですけれども、なぜ誰も止められなかったのか、会社のガバナンスに問題はなかったのか、世界を代表するグローバル企業となった日産の在り方も問われています。