クローズアップ現代

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2018年10月17日(水)
世界が注目!アートの力  健康・長寿・社会が変わる

世界が注目!アートの力  健康・長寿・社会が変わる

いま、アートの力で医療や介護を変えようという取り組みが世界中で始まっている。英国の病院では、入院日数短縮、鎮痛剤使用量の減少、認知症の症状改善などの効果が確認され始め、医療費や病院の運営経費の大幅な節減にもつながっているという。さらに日本でも、アートの力で病院内の課題解決や地域の人との新たなつながりを育む、さまざまな試みが始まっている。私たちの健康や人生を豊かに変えるアートの可能性を探る。

出演者

  • 大村智さん (北里大学特別栄誉教授 ノーベル医学・生理学賞受賞)
  • 栗栖良依さん (NPO法人スローレーベル 東京2020総合チーム クリエイティブ・ディレクター)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

アートの力で健康長寿 効果実証!世界も注目

まるで美術館のような、この場所。実は、病院です。今、アートの力で医療や介護を変えようという取り組みが世界中で始まっています。アート作品であふれるこの病院では、患者の入院日数が短くなったり、鎮痛剤の使用量が4割近く減少したり。さらに、認知症の症状が改善されるというデータも出ています。医療費や病院の運営経費の大幅な節減にもつながっているといいます。

研究者
「アートはさまざまな病気からの回復を助け、確実に健康で長寿にしてくれます。」

今夜はあなたの健康や人生を変えるアートの力に迫ります。

世界が注目! アートの力が病院を変える

香川県善通寺市。ここに、世界から注目を集めている病院があります。病院へ一歩足を踏み入れると…。

実はこれ、からくり時計です。退屈な待ち時間。子どもたちを楽しませるアートです。
入院病棟の壁には、あちこちに小さな扉があります。

「あっ!なんか入っとる!」

中を開けると、なんとプレゼントとメッセージカードが。小さなサプライズが、つらい入院生活を励ましてくれます。

患者
「『開けてみてね』とか言って小さな扉に書いてあるから、大人やけど開けてみようかなと思って。」

患者
「私も開けました。」

患者
「なんかこう、ふと心をやわらげてくれるような、治療の進み具合の不安なんかもやわらげてくれるような感じ。」

この病院がアートを取り入れたのは、精神科の小児病棟で起きたある問題がきっかけでした。入院生活のストレスなどから、壁や扉を壊す行為が後を絶たなかったのです。子どもたちの心を癒やしたいと考えたアイデアが、子どもと一緒に壁画を描くことでした。出来上がったのは、鳥たちが集まる大きなくすのき。

それから壁を壊す行為はピタリとやみました。

四国こどもとおとなの医療センター 中川義信院長
「ある意味ひとつの成功体験というか、そういうことを経験しまして、これをなんとか生かしたままで、新しい病院を作り上げたいというのがあって、いろいろな人のアイデアを聞きながら、この病院を作り上げた。」

アートの力で課題を解決していく。アート専門のディレクターが中心になって、次々と新しい試みが始まりました。
家族にとって、つらい別れの場所となる霊安室。和紙を使い、柔らかい光の空間にしました。

そして、霊安室から駐車場に続く殺風景なコンクリートの通路には、病院のスタッフみんなが集まり、星のように浮かぶ青い花を描きました。「最期のお見送りの場所をもっと心のこもった空間にしたい」。看護師の切実な声から生まれたアートです。

迷う人が多かったエレベーターの案内は、線路で誘導するデザインに変更。病院スタッフが案内に追われることがなくなり、仕事に専念できるようになりました。

ホスピタルアートディレクター 森合音さん
「それまで医療者が諦めていた部分、『これはちょっと問題だな』と思っているけど、言ってもなかなか解決されないから、自分の胸の内にしまっていたようなものが、1つ解決することによって、バッといろんなところから出てくるようになって。装飾として(のアート)だけではなくて、一緒に問題解決をしていくようなスタイル。“ものづくりのプロセス”を『ホスピタルアート』と当院では呼んでいる。」

世界が注目!アートの力 症状が改善 医療費も削減

田中:ロンドン市内にある病院です。こちらでは、アートが取り入れられているだけではなくて、実際に、それが患者さんなどにもたらす効果についても調査を行っているということなんです。早速行ってみましょう。

25年前の開業から、さまざまな場所にアートを取り入れている公立病院です。その一つ、小児救急エリアです。

CW+寄付財団 アートディレクター トリスタン・ホーキンズさん
「ここにはいくつもの工夫があります。第1に考えているのは、心を落ち着かせる環境をつくることです。」

ベッドの真上には、気球のイラスト。壁には、子どもが大好きな動物たち。つらい治療から気を紛らわす仕掛けです。

CW+寄付財団 アートディレクター トリスタン・ホーキンズさん
「『気を紛らわす』という課題で試行錯誤し、この作品が生まれました。『動物園』と呼んでいます。予備調査では、87%の患者が、痛みが軽減したと感じています。最も重要な結果は、採決時間の短縮です。通常7分かかっていました。適切な血管を見つけ注射針を刺す。非常に痛くて嫌な時間です。それが3分以下になったのです。」

さらに、認知症の患者が多い病棟でもさまざまなアートを取り入れています。この日、行われたのはダンスのワークショップ。プロのダンサーがリードして、昔はやったダンスを楽しみます。

この他にも、音楽やガーデニングなどが行われ、多くの患者に認知症の症状の改善が見られているといいます。また、病室やベッドは患者が迷わないように、色やイラストを変える工夫がされています。こうしたアートの導入は、病院経営にも大きな効果を上げているといいます。

CW+寄付財団 アートディレクター トリスタン・ホーキンズさん
「入院病棟では鎮痛薬の使用量が減り、回復が早くなっています。これは大変重要です。12日間の入院予定が9日に短縮したこともあります。1日に約15万円かかりますから、3日分はかなりの経費節減です。」

世界が注目! アートが変える終末期医療

また、アートは完治が難しい終末期の患者の支えにもなっています。イギリスで一番古い歴史を持つホスピスを訪ねました。

ここでは、アート専門のセラピストやアーティストが、毎日のように患者の希望に添った創作活動をサポートしています。作品を作る中で、患者の不安や孤独も自然とほぐれていくといいます。

田中:アート活動のどこが好きですか?

患者
「時間がとても早く過ぎることです。病気のことを考えず、他のことに集中できるのがうれしい。創作することは本当に楽しく、いい時間が過ごせます。」

アートセラピスト ミック・サンズさん
「ある患者は『ここでの創作活動は1瓶分の薬みたいだ』と言いました。『薬瓶に詰めて飲むぐらい、アートには価値がある』という意味です。」

世界が注目!アートの力 症状が改善 医療費も削減

こうした医療や介護へのアートの導入を国家政策として進めようという議論も始まっています。

超党派議員芸術健康福祉グループ レベッカ・ゴードン=ネスビット博士
「もちろんアートは特効薬ではありませんが、健康維持を助ける強い効果があります。さまざまな病気からの回復を助け、確実に健康で長寿にしてくれます。私たちの生活の質を高めてくれるのです。」

田中:今回、私が取材に行ったイギリスは、日本と同じように高齢化が進んでいて、医療費の削減が急務になっています。その方策の一つとしてアートが注目されているんです。病院だけではなくて、介護施設やリハビリ施設でも導入されていまして、その効果を具体的に実証する調査そして研究が進んでいます。

世界が注目!アートの力 医療・介護の現場に革命

ゲスト 大村智さん(北里大学特別栄誉教授 ノーベル医学・生理学賞受賞)
ゲスト 栗栖良依さん(NPO法人スローレーベル 東京2020総合チーム クリエイティブ・ディレクター)

武田:3年前ノーベル医学・生理学賞を受賞された大村智さん。
大村さんも膨大な絵画を収集され、大学の病院にギャラリーのように絵画を展示されているそうですけれども、患者さんの回復にはどんな影響があるんでしょうか?

大村さん:そういった具体的な例はいっぱいありますけれども、患者さんだけでなくて、実は子どもが病気になって病院に来られて、その奥さんはある絵を見まして、その画家に会わせてくれというんですね。それで会って話を聞いたところ、自分はもうこの子どもを連れて道連れに…というふうに落ち込んでいたのが、その絵を見て、これではいけないと頑張って子どもを育てていこうと、そういうことを聞いた時には、私たちもいいことができたなっていうのは思いましたね。

武田:病院に絵があった意味があったということですね。
先生ご自身も絵に育てられたご経験があるそうですね。

大村さん:母親が、私の勉強部屋とか、あるいは寝室にいつも絵を飾ってくれていまして、もちろん切り抜きとかなんかですけれども。それが今度は自分でやるようになりまして、そしてさらには、実物、本物も買うようになっていったんですけれどもね。ただ、私もその中で私自身が随分助かっている面があるんですね。それは、どういうことかといいますと、ある絵は、私が一番最初買った絵なんですけれども、眠れない時とか、いろいろ悩んでいる時にその絵の前にかけまして、そうやってずうっと絵を見ていますと、気持ちが落ち着いてくるんですね。そういうことが自分自身があったから、病院にも絵を掛けようということになっていったんです。

武田:東京オリンピックパラリンピックの開会式などの演出チームの一員を務める、栗栖良依さん。
VTRでご紹介した病院では、アートで患者と医療者が一緒に問題を解決していくと言ってましたけれども、アートにはそういう力もあるんですね。

栗栖さん:そうですね。アートって、どうしても出来上がった作品を見るだけというようなイメージのある方も多いかもしれないんですけれども、やっぱりアートをつくり上げる過程で、いろいろないいことが含まれていると思うんですね。

武田:栗栖さんもですか?

栗栖さん:はい。私たちがやっているのは、サーカスアーティストと一緒にアートを使ったリハビリテーションですね。サーカスの中に含まれるいろんなバランス感覚だったりとか創作性とか、あとは協調性とか、誰か他の人とコミュニケーションをとるといったようなことが結果的に創作の過程で育まれて社会に出やすくなっていくというような活動で、海外でも非常に取り入れられてる活動になっています。

武田:そうしたアートの力が変えていること、それは患者や医療スタッフだけではありません。

世界が注目!アートの力 地域のつながりを育む

アートを生かした病院づくりは地域とのつながりまで生み出しています。

この病院では現在、10代から90代まで140人以上がボランティアに登録。患者を励ますプレゼント作りや花壇の手入れなど、特技を生かしてアートづくりに参加しています。この日、フラワーアレンジメントを担当していた、長尾麻由さんです。

2年ほど前、この病院の精神科に入院していた時にボランティアに参加し、退院後も続けています。当時は人と関わることがとても苦手だったといいます。

ホスピタルアートディレクター 森合音さん
「全然、目を合わさなくてね。」

ボランティア 長尾麻由さん
「そう、いちばん最初来た時、もうね、人と目を合わせることが出来なくて。全然変わったよね。すごく変わったよ。もうヤバイ。ここに来るのが楽しみ、毎週。ここに来るために、頑張っているよね。」

ホスピタルアートディレクター 森合音さん
「頑張ってる、頑張ってる。」

ボランティアの中には、麻由さんのように患者だった人や、ここで家族を見送ったという人も少なくありません。病院の中に、励まし励まされる新たな地域のつながりが育っています。

さらに、年に一度3日間だけ、美術館に大変身する病院が金沢市にあります。この日、一般外来が終了すると、待合室の椅子が次々と運び出されました。

みるみるうちに、病院が巨大な展示会場に変わっていきます。そこに集まったのは近くにある金沢美術工芸大学の学生たち。そして、病院のスタッフたち。展示するのは、患者や市民からの公募で集まった作品。今年(2018年)は、156点が集まりました。

「なんか、違う違う。」

「はい終了。もう触らなーい。」

今年で7回目を迎えた、このホスピタル・ギャラリー。年々評判を呼び、今年は雨にもかかわらず1,300人近い人が訪れました。

患者
「こんな器用な人になれたらな。」

高田院長
「負けんように作ってみたら?」

金沢市立病院 高田重男院長
「こういうことをやることで連携とかですね、患者さんとのつながり、住民とのつながりが深まるのではないかなというのが思いです。」

世界が注目!アートの力 健康・長寿・地域を変える

田中:VTRで紹介した香川の病院では、他にも地域の多くの人たちがアートの活動に参加しています。かつて病院で子どもの最期をみとった女性が行うバイオリン演奏ですとか、この病院で一命を取り留めた男性による歌のコンサート。そして、地元の中学生たちが学校の部活動として行う屋上庭園の手入れ。また、この病院に隣接する学校の生徒たちによる壁画の制作など、こうした活動を通して、地域の人たちが新たな生きがいや居場所を見つけているんです。

武田:栗栖さんが取り組んでいらっしゃる、障害のある人、アーティスト、それから地域の人たちをつなぐという活動、これはどんな意味があるとお考えなんでしょうか?

栗栖さん:アーティストの力を、私たちはすごく借りているんですけれども、アーティストはいわゆる常識にとらわれない自由な発想を持つ人たちなので、いわゆる多くの人がそれぞれのコミュニティーに属していて、そのコミュニティーの中で使っている文化だったりとか価値観だったり、みんなそれぞれ違うものを持っていますよね。その間にある垣根をアーティストが壊していってくれる。そういったアーティストの力を借りて創作活動しながら、そういったものを壊し、また地域が一体になっていくっていうような現場をつくっています。

武田:大村さんもふるさとの山梨で美術館をつくられて、アートを身近に感じられるような取り組みもされているそうですね。

大村さん:まず最初に始めましたのは、市内の小中学校に本物の絵を見ていただきたいというので、貸し出して展示を始めました。その後だんだんそういった活動が進展しまして、今は「まちなか美術館」と称しまして、一般の商店などにも貸し出して、そうして絵を楽しんでいただく。

武田:一般の方は変わってきましたか?

大村さん:例えば買い物客でなくても行って絵を見ながら会話が弾みますよね。そして、コミュニケーションが非常によくなるとか、そういう楽しみ方をされている方も多くなっておりますし、そういうことじゃないかと思うんですけどね。

武田:地域が変わってきたということですね。
大村さんご自身は、科学技術で人類に多大な貢献をされてこられた方ですけれども、アートの力というのはどういうふうに捉えられていらっしゃるんですか?

大村さん:20世紀はものすごく科学技術が進歩して、ところが、いろんな問題を見ますと、心の問題が取り残されてると。これではいけないっていうんで、私は先ほどの病院の話じゃないんですけれども、絵画を飾ることを始めたんですけどね。そういうことによって、何とかこの科学技術のひずみを、アートの力でまともなものに持っていきたいというのが、私の活動の中心ですね。

武田:アートの力で人々の心が変われば社会も変わっていく。

大村さん:そうですね。やっぱり心を大事にしなければ。それにはアートが非常に大事であろうと、こういうことだと思うんですけどね。

武田:栗栖さんは、2年後の東京オリンピックパラリンピックに向けて、アートの力をもっと大きなものにしていくためには何が必要だとお考えですか?

栗栖さん:2020年ってゴールではなくて、やっぱりスタート、始まりの年だと思うんですね。これから日本は高齢化社会にどんどん突入していきますし、こういった地域でさまざまなアートの担い手っていう人たちが増えることによって、どんどんどんどんこういったアートを活用した社会的な課題を解決する取り組みが広まっていくと思いますので、そのためにもアートを担う森さんのような人材が是非増えてくるといいなと思います。

武田:アーティストだけじゃなくて、そのつなぎ役のような…。

栗栖さん:そうですね。コーディネーターの力はすごく大きいと思います。

武田:そういう人たちがどんどん増えていけば、アートの力がますます増えていくということですね。

田中:実は私、今回、イギリスだけではなくて、もう一つ、ノルウェーも取材で訪ねたんですが、そこでは当たり前のように、街の至る所にアートが溶け込んでいました。

世界が注目!アートの力 駅や刑務所 至る所に

公的な建物は、建築費の0.5〜1.5%をアートに充てる規定がある。誰もが空気のようにアートを享受できる。
国境を越えて、流れる川。不摂生への警鐘。それぞれの作品にメッセージが込められている。

田中:これ?

パブリック・アート・ノルウェー 前アート局長 ノラ・セシリエドッテ・ネルドゥラムさん
「これです。」

田中:芝生かと思いました。

芝生に見えたのは、無数の市民の像。

パブリック・アート・ノルウェー 前アート局長 ノラ・セシリエドッテ・ネルドゥラムさん
「(これは)私たちのような草の根の人々です。偉人の銅像を好む習慣を批判した作品です。『Nothing about us,without us(私たちのことを、私たち抜きでは決めるな)』の言葉を完全に表現しています。これは民主主義の本質であり、ノルウェー人にとって非常に重要なことです。」

田中:人が社会を支えてる、という意味も感じられるんですね。

世界がいま、アートの力に注目している。