クローズアップ現代

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2017年5月23日(火)
金塊 闇の“錬金術”~私たちの税金が奪われる~

金塊 闇の“錬金術”~私たちの税金が奪われる~

いま、“金”を巡る不可解な事件が福岡で相次いでいる。先月20日、天神のど真ん中で、白昼、会社員が持ち歩いていた3億8千万円あまりが何者かに強奪された。その現金は、金塊を買いつけるための資金だった。去年7月には、転売目的で福岡に持ち込まれた160キロ、7.5億円相当もの金塊が博多駅前で盗まれた。さらに、空港や港では、近年、金塊の密輸の摘発が急増している。なぜ福岡で巨額の金塊取引が行われようとしていたのか?事件の多発は何を意味しているのか?国際的な金塊取り引きの謎や密輸ルートを徹底追跡!金塊を巡って何が起きているのか、実態に迫る。

出演者

  • 溝口敦さん (ノンフィクション作家)
  • 仲井道 (NHK記者)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

金塊の闇取引 私たちの税金が…

こちら、2,500万円相当の本物の金塊です。実は今、金の密輸が急増しています。そして、その陰で私たちの税金が不法にかすめとられている実態が分かってきました。

足の裏に隠されていた、およそ500万円の金塊。
女性の下着の中からは、重さ30キロ1億4,500万円相当の金塊が。
今、金塊を体に忍ばせ日本に持ち込む、密輸の摘発が過去最多となっています。
摘発数は3年前から突如増加。
年間300件近くに上ります。
なぜ今、密輸が相次いでいるのか。
私たちは、金の密輸でばく大な利益を得ていた組織に接触。

「どのくらいもうかるかというと、やるだけもうかりますよ。難しいこと何もないです。」

取材から浮かび上がったのは日本・韓国・香港をまたいで私たちの税金をかすめとる、闇の錬金術でした。

韓国の密輸組織 元幹部
「組織は日本の税金を狙っている。(日本は)処罰がなまぬるいので密輸天国だ。」

金塊を巡る闇の取り引き。
衝撃の実態を追跡しました。

金塊をめぐる事件の謎

繁華街を猛スピードで逃走するワゴン車。
3億8,000万円余りの現金を強奪した犯人たちだ。

先月(4月)20日、福岡市のど真ん中で起きた事件。
被害に遭った男性は、この日ひとりで銀行から現金を引き出していた。
大金が入ったスーツケースを手に駐車場に向かい、車に積み込もうとしたその瞬間、2人組の男に催涙スプレーのようなものをかけられ、スーツケースごと奪われた。
警察に対して男性は、奪われたカネは金塊を買い付けるためのものだったと話している。
相次ぐ金塊を巡る事件。
背景に何があるのか。
私たちは、貴金属店の経営者など80人を取材。
すると多くの人が、事件は近年急増している金の密輸と関係しているのではないかと指摘した。
長年、貴金属店を経営している男性。
3億8,000万円が奪われた事件について、こう推測した。

貴金属店経営者
「場所が福岡であるということ。密輸が結構増えている。(出元をたどると)密輸した金塊じゃないかと、一つの可能性として考えられますよね。」

摘発が過去最多となっている金の密輸。
福岡も例外ではない。
足の裏や股の間に隠されていた金塊。
今年(2017年)3月には、2人の男が合わせて2,600万円相当の金塊を密輸しようとして逮捕された。

福岡空港での摘発は1年間で23件。
危機感を抱いた税関は、ポスターを作成するなど対策に乗り出している。

追跡!密輸ルート 金塊 闇の“錬金術”

なぜ今、金の密輸が増えているのか?
密輸される金の多くは韓国から運ばれてくる。
3,000軒の店がひしめくソウルの貴金属店街で取材を進めた。
そして、金の密輸を行う組織とつながりがあるという男性に会うことができた。

密輸素意識をよく知る男性
「6~7の密輸組織があります。それぞれが別々に密輸をしています。」

男性は、去年(2016年)まで密輸組織の幹部だった人物を知っているという。
今は組織を抜け、身を潜めているという元幹部に取材を申し込んだ。

「インタビューをお願いしたい。」

交渉の末、電話で話を聞くことができた。
元幹部は、金の密輸には、まさにぬれ手にあわのからくりが存在すると明かした。

密輸組織の元幹部
“組織は日本の税金を狙っている。日本に密輸をすると8%の利益を得られる。ばく大なカネが手に入るんだ。”

一体どういうことなのか。
まず組織のメンバーが向かうのは香港。
世界中から金が集まるアジアの貿易拠点だ。
ここで大量の金を買い付ける。
金塊を持って韓国に戻った組織のメンバー。
空港で入国審査を受けず、乗り換えエリアに向かう。
観光客を装った運び役と落ち合うためだ。
金塊は、トイレなど人目につかない場所で手渡す。
福岡など、日本への観光客が急速に増えているため、運び役を紛れ込ませるのは簡単だという。

そして、金塊を隠し持った運び役が日本に到着。
本来、日本の法律では1億円の金塊を持ち込む場合、税関に申告し、消費税8%分、800万円を支払わなければならない。
ところが運び役は手荷物などに金を隠し、消費税の支払いを免れて日本に入国。
この金を貴金属店などに持ち込むと、消費税を上乗せした金額、1億800万円で買い取ってもらえる。
密輸するだけで800万円が転がり込む仕組みだ。
日本の税制度を悪用した錬金術。
組織が日本を狙う理由は、もし摘発されたとしても比較的処罰が軽いからだという。
1億円の金塊の密輸が摘発された場合、韓国では金塊は必ず没収され、最大1億円の罰金が科されることもある。
一方、日本では金塊が没収されるとはかぎらず、罰金も最大で1,000万円にとどまる。

密輸組織の元幹部
“そもそも日本の税関は観光客だと思い込んでいるのでチェックが甘い。もし見つかったとしても金塊はあとあと取り返せる。日本は処罰がなまぬるいんだ。”

さらに取材を進めると、一般市民が気軽に金の運び役を買って出ている実態も分かってきた。
プサンで金の密輸を捜査している刑事。
捜査に支障が出ないよう、匿名を条件に取材に応じた。

密輸を捜査する刑事
「われわれが確認できたのは、ポータルサイトの掲示板でした。」

これは、組織が金の運び役を募集するインターネットの掲示板。
「日本を観光するついでに荷物を運んでほしい。旅費は負担する」と書かれている。

興味を持った人が組織に問い合わせたときのやり取りの記録を入手した。

“危ない仕事じゃないですよね?”

組織
“大丈夫です、みんなやっていますよ。”

“バイト代はもらえるんですか?”

組織
“30万ウォン(約3万円)差し上げます。”

事前に伝えられるのは報酬だけ。
金を運ぶということは空港で初めて知らされる。
覚醒剤などと違い、金は所持しているだけでは罪にならない。
そのため多くの人が軽い気持ちで運び役を引き受けてしまうのではないかと、刑事は見ている。

密輸を捜査する刑事
「普通の主婦や大学生も運び役をしています。旅費も負担してもらえるし、学生は好奇心もあるので簡単につられてしまうんです。」

一般市民を隠れみのにして大量の金塊を日本に密輸し、税金をかすめ取っている実態。
さまざまな手口で摘発を逃れ、1つの組織だけでも年間20億円を荒稼ぎしているという。

密輸組織の元幹部
“金がある限り密輸はなくならない。処罰されることもないだろうし、組織にとって日本は密輸天国だ。”

なぜ横行? 金塊の闇取引

ゲスト溝口敦さん(ノンフィクション作家)
仲井道(NHK記者)

田中:そもそも日本の税制度では、金に限らず、物を輸入した場合、国内で販売することを見越して、あらかじめ消費税を納めなければならないというルールがあります。金の密輸は、この制度をすり抜けて、消費税分をかすめとろうというものだったのです。
こちらは金の密輸の摘発件数です。

平成26年度以降に急増していることが分かります。実はこの年、消費税が5%から8%に引き上げられました。密輸急増の背景には、この消費税増税があると見られています。
また、金の価格の上昇も影響しています。

こちらにある金の今日(23日)の価格は1キロ491万円。2000年の価格と比較すると、5倍近く値上がりしているんです。つまり同じ量を運んでも、その分、利ざやが大幅に拡大することになります。これも密輸増加の一因だと見られています。

こうした密輸を行っているのは、どんな組織?

仲井記者:密輸を行っているのは、韓国の組織だけではないんですね。取材を進めた結果、日本にも同様の手口で組織的に密輸を行っている組織があることが分かっています。こちらは、金の密輸をして摘発された人の国籍別の内訳です。

半分は日本人が占めています。日本の組織も、日本人の旅行者などを使って、組織的な密輸を繰り返していると見られます。

関わっている人物は何者?

溝口さん:「半グレ集団」が中心だと思いますね。半グレ集団というのは、暴力団には籍は置いてない、しかし、一般人以上に違法なことに手を染めることをためらわない人たちとも言えるんじゃないでしょうかね。
(そうした彼らが、この金の密輸に手を染めるねらいとは?)
やはり、確実にあら利ですが8%の利益が見込める、こういう堅い商売は、あまり今の時代にないということですよね。
(罰則の軽さについても彼らは何か考えている?)
半グレ集団というのは、もともと重い刑というのを非常に忌避するといいますか、避ける傾向があるんですね。そういう中で、金の密輸というのは経済犯罪ということでしょうから、それほど重い刑はないということで、わりと気軽に手を染める、彼らが誘いかける人たちも一般人が多いわけですが、そういう人たちも小遣いになるといったような誘いかけに安易に応じてしまうというところがあります。

運び屋として旅行客を使うということだが、「半グレ集団」は自分の手は汚さない?

溝口さん:小規模な場合は、自分でも運ぶ場合があります。しかしながら、運び屋を使わないと量を運べないですからね。そういう意味では、小規模でも4~5人を使うと。

金の密輸、空港などの水際での対策は?

仲井記者:日本から出国するときは、全員が手荷物の検査を受けると思うんですけれども、入国するときには必ずしも全員が検査を受けるわけではありません。そうしたことに加え、密輸の手口自体も巧妙になっています。こちらの写真なんですが。

(パソコンをひっくり返したところ?)
そうですね、こちらは約3キログラムの金塊を、パソコンのバッテリーに見せかけて密輸しようとしたケースなんです。そしてこちらは、レントゲン写真です。

これ、写真の中で指をさしている白い部分があるかと思うんですけれども、こちらの部分が金塊です。このように金を飲み込んでまで隠して、密輸しようとするケースもあるんです。取り締まる側の税関もこうした状況に危機感を抱いていて、入国時の金属探知機などでの検査を強化したり、水際での対策を強化しています。それで金を見つけたときには、より厳しく取り締まると、密輸を見つけたときは、より厳しく取り締まっていくという方針を示しています。

金の密輸を行っている日本の組織を取材していくと、私たちの税金を雪だるま式にむさぼる、さらに巧妙な錬金術を編み出していることが分かってきました。

金塊 闇の“錬金術” わたしたちの税金が…

私たちが接触したのは、日本で金の密輸に関わっていた組織の一つ。
待ち合わせ場所には2人の男が現れた。

「これは売却の時の伝票なんです。」

密輸した金塊を現金にするため、貴金属店に売ったときの明細書だ。
9,800万円、1億400万円。
1億円近い金塊を繰り返し売却していたという。

「(1年で)合計どのくらいの量?」

「何トンもいきます。こんなビジネスがあるんだったら他に教えてほしいぐらい。」

(※1トン=約50億円)

ばく大な金を密輸し、消費税分の利ざやを得ていた男たち。
もうけを際限なく増やす手口があると明かした。
香港で買い付けた1億円の金塊。
日本に密輸し貴金属店に売ると、もうけは消費税分の800万円になる。
しかし、錬金術にはまだ続きがあった。
実はこの金は、貴金属店との暗黙の了解で香港に輸出されることが決まっているという。
金を輸出するときには、輸入するときとは逆に、国から消費税分の800万円が還付される仕組みになっている。
香港に輸出した金は、驚くことに再び日本に密輸される。
もう一度貴金属店に売れば国から還付された800万円がさらに男たちの懐に入る。
同じ金を1周させるたびに800万円。
それを何度も繰り返すだけで、利益が雪だるま式に積み上がっていく手口だ。

「日本の(消費税)8%が食われているだけ。だから同じ金が実はグルグル回っているだけ。簡単なんですよ。ただ淡々と同じことを繰り返すだけですから。誰が損害を受けるのかというと、国に大きな損害を与えるわけです。」

なぜ横行? 金塊 闇の“錬金術”

田中:消費税を繰り返しかすめとる、より巧妙な錬金術。これは組織と一部の貴金属店が暗黙の協力関係にあることで成り立っていると見られます。貴金属店は、金を取り引きすればするほど、手数料収入を増やすことができます。こうしたうまみがあるため、結果的に闇の取り引きの一端を担う構図になっているんです。

なぜ、こんなことがまかり通っている?

仲井記者:実は、買い取る側の貴金属店にとっては、正規の取り引きをしているという形になっているんですね。
日本では200万円以上の金を売却するにあたりましては、不正な取り引きを防ぐために、法人であれば法人登記、個人であれば本人確認のできる書類を提示することが求められています。しかし密輸組織は、密輸した金の売買に実態のない法人を介在させています。こうした法人を取り引きに介在させることで、密輸した金であることを分からなくしているんです。

金の闇ビジネス、犯罪組織だけではなく一部の貴金属店といった企業、あるいはその運び屋役をやる一般の人まで取り込む形で広がっている。これは私たちの社会に、どんなことを突きつけている?

溝口さん:金市場そのものが一般向けの市場であるということ、それを犯罪組織も利用しているから、これについて禁止するとか、そういうことは不可能ですよね。
(麻薬の市場のように、市場そのものをなくすということはできない?)
できない。それが舞台になっているということですよね。ですから、やはり水際で食い止めるしかない、そういう犯罪だと思いますね。

半グレ集団というのは、暴力団やマフィアのような、いわゆる裏社会の人たちばかりではない。私たちの側の社会の闇にむしばまれているという状況?

溝口さん:お金に色がついていないと、どういう稼ぎ方でもお金はお金であるという、そういう考え方の人が増えていると思うんです。そういう人たちを運び人などに募集して、韓国同様、気軽に応じるところがあるわけですよね、そういう人たちは。そして、それが消費税の還付、ごまかしという新たな犯罪の片棒を担ぐ役割をしているということですよね。

今、社会では例えばワーキングプアと呼ばれる人たちが増えるといった状況もある。 そうした若者や職がない人、そういったさまざまな人が社会に大きな不満を持つというような状況もあるわけだが、そうしたことも背景として考えられる?

溝口さん:十分考えられますね。というのは、正規労働者になること自体が非常に難しい、低賃金、ブラック企業、あらゆる形でお金を供給するというところには抵抗力が弱くなってますからね。お金になるのなら、なんでもやりますということですよね。

私たちの税金を奪う、この闇ビジネス。これを根絶するためには、一刻も早い対策が必要では?

仲井記者:税関は、密輸が繰り返されている現状について、税金が失われるということは、被害者は国民であり重大な問題だとして、取締りを強化する考えを示しています。一方で、密輸グループは次々と新たな手口を編み出して密輸を行っています。それに対応していくには、税関や警察など関係する機関が緊密に連携を取っていくことが不可欠だと思います。また、日本は金を密輸しても没収されるケースが少なく、密輸のリスクが低いと見られていて、制度上の問題を指摘する声もあるんです。取締りだけではなく、ルールを厳しくするなど、制度の見直しも含めた検討が求められると思います。

金を巡る不可解な事件が最近多発している中で、今回の報告では、私たちも知らず知らずのうちに、被害者となっているということが浮かび上がってきました。どんな犯罪組織が密輸に関わっているのか、そして、制度に果たして不満はないのか。一刻も早い真相の究明と対策が求められています。