前代未聞の大工事 JR福島駅で何が!?
- 2023年06月26日
暮らしに身近な疑問を徹底取材する「しらべてmeet!」。今回はみんな大好き(?)な新幹線の話題です。
私は半年ほど前から福島市に住んでいますが、JR福島駅の近くでとてつもなく大がかりな工事をしていることが気になっていました。どうやら「山形新幹線の新しい線路を造っている」そうで、休日に近くで工事のようすを眺めてみました。いくつもの線路に挟まれた小さなスペースで、巨大な鉄道の施設が造られていましたが、調べてみると実は新幹線では前例のない難しい工事だということが分かってきました。現場に立ち入ることが特別に許可され、カメラとともに取材へ向かいました。
(福島局・浦壁周平)
新幹線が分離・合流する特殊構造
JR福島駅は山形新幹線と東北新幹線の2つの路線が通っていて、それらが分岐・合流する起点となっています。東京方面に向かう上りの東北新幹線が仙台方向からホームに入ってきて、そのあとに到着した山形新幹線と連結して東京へと向かっていくのは、ふだん福島駅を使う人にはおなじみの光景かもしれません。実は、このおなじみの分岐・合流の構造こそがいま行われている工事の要因なんです。まずは図を使ってその理由をひもといていきます。
新幹線が線路を「またぐ」
福島駅を上から表した図です。
山形新幹線は、図の1番上にある14番線を上りと下りの列車が「共有」して運行されています。そのため、山形新幹線と連結する上りの東北新幹線(図では緑の線)は、上り線から東北新幹線の下り線を一度またいで14番線に入ります。そして、山形新幹線と連結したあとは、もともと走っていた上り線に戻るため、再び東北新幹線の下り線をまたぎます。つまり福島駅のホームでは、上り線が2回、下り線をまたぐのです。
この東北新幹線の上りが下り線をまたぐことが、実は東日本全体の新幹線の運行に大きく関わっています。列車が時刻表どおりに運行していれば問題はありませんが、たとえば、列車の到着が遅れて線路をまたぐタイミングがずれると、緻密に組まれた福島を通るほかの列車のダイヤも乱れてしまい、東北新幹線全体に影響が広がってしまいます。
これを解消しようというのが、山形新幹線のアプローチ線工事です。上りの東北新幹線が線路をまたがなくてもいいようにするため、山形新幹線の上りアプローチ線(図では濃いピンクの線)を福島駅に新たに取り付けるもの。図のように11番線に山形新幹線の上り線が新しく増えると、山形新幹線の上りと下りを完全に分けられるようになります。
前例のない難工事
今回、NHKのカメラがメディアとして初めて、その工事に入りました。
現場でまず目をうばわれたのは大型のクレーン車。アプローチ線の高架橋に橋桁を設置するためなどに使われるそうです。近くにある12階建てのビルとほぼ同じ高さで、迫力を感じます。現在は、高架橋の建設や路盤の造成が進められていて、全体の4割ほどまで工事は進んでいます。
しかし、この工事は極めて作業が難しい工事なんです。周りを見てみるとアプローチ線の高架のすぐ上には東北新幹線が通っていて、真横には新幹線の柱があり、かなり狭いスペースで工事が行われているのが分かります。
また、駅の周辺にも目をやると、新幹線の高架のほか、地上には在来線などの線路が。さらにそれを横切る形で道路の陸橋も通っています。建設中のアプローチ線は複雑に入り組んだ構造物の間をぬうように工事が進められているのです。
山形方面から来る線路が、わずかな隙間を縫って新幹線の高架をくぐり、左側にある福島駅に乗り入れるルートは、まるで小さな針の穴に糸を通しているように思えます。
「現場はうなぎの寝床」
JR東日本によると、このアプローチ線の設計は、新幹線としてはかなり珍しい急勾配と急カーブを描いたものだということです。なぜそこまでして難しい工事を進めるのでしょうか。
JR東日本・井上崇センター長
「工事現場はうなぎの寝床のようなところで、新しいアプローチ線を東北本線や新幹線に支障しないように、ある意味かいくぐるような形での施工になっていて、細やかで綿密な施工計画が求められています。新幹線が便利で快適になるように、福島・東北地域のさらなる発展に寄与できるように、このプロジェクトを安全着実に推進していきたいです」
2026年度に使用開始
ふだんよく使う福島駅の近くで行われていた工事ですが、取材して「前例のない難工事をしてでも成し遂げたい東日本の新幹線の課題解決策だった」ということが分かりました。
この新アプローチ線は2026年度から使用される予定で、2024年には山形新幹線の新しい車両がデビューすることもあり、新幹線の歴史の新たな1ページになりそうです。引き続き注目していきたいと思います。