「こころ」の研究

2023/6/23

ゲームとこころの健康

 

ストレスにはさまざまな対処法があり、その有効性が日々研究されています。今回はゲームとこころの健康の関係についての研究をご紹介します。
ゲームばかりして怒られたという経験がある方も多いかもしれません。
ところが、ゲームをすることも、こころを健康に保つのに役立つかもしれないという研究があるんです。

コントローラー

 

コロナ禍の不安がゲームで軽減?

コロナ禍の初めには、感染の拡大に伴うロックダウンで多くの人が不安や孤独を感じたことと思います。
そのころ、青少年がロックダウン中にゲームをすることがコーピング(※1)としてどのように効果的であるかという研究が進み、複数の論文が発表されました[1]。
24件の論文を精査した結果、ロックダウン中は複数人でプレイできるゲームが選ばれる傾向にあるなど、遊び方に変化が見られました。
そして、ロックダウン中にゲームをすることで、青少年のストレスが低減する、孤独感が解消されるというメリットが明らかになりました。


※1 ストレスへの対処法

 

臨床の現場での応用がすすむ

実は、臨床心理の現場で用いられる様々なトレーニングは、パズルのようだったり、映像を使ったりとゲームと親和性の高いものが少なくありません。
そうしたものを利用して、不安を低減したり、バランスのとれた考え方(※2)を獲得することを目的としたゲームに仕立てる取り組みが各国ですすんでいます。

日本でも、ニュージーランドで開発されたうつ病の認知行動療法(※3)をRPGで学べるゲームSPARXの日本語版が開発されました。
アメリカではすでに、ADHD(※4)に対して薬のように処方されるゲームEndervorRxがあります。


※2 バランスの取れた考え方とは、出来事やものごとについて偏りすぎない、広い視点で捉えられた考え方を指す。例えば1度の失敗から「もう二度と上手くいかない」と考える事もできるが、
よりバランスのとれた考え方の例としては「今回はダメだったけど、今回の失敗をいかせば次は上手くいくかもしれない」が挙げられる。

※3生活の困難につながるふるまい(=行動)や捉え方(=認知)を見直すことで、こころの負担を軽くするなど問題解決を手助けする精神療法
※4注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)。発達障害の一種。集中を持続したり、落ち着いて待っていたり、衝動性を堪えたりすることが不得手であることに特徴づけられる。

 

 

パズルゲームでPTSDが改善

 銃を構える軍人

テトリスというパズルゲームが、PTSDの症状の軽減に効果あるかもしれないという指摘もあります。

戦争に関連してPTSD(※5)を発症した患者を対象に、一般的な治療とテトリスを併用した治療で効果を比較する研究が行われました[2]。
その結果、テトリスを併用した群で、脳の海馬という記憶を司る部分の容積が増えました。
さらに、不安や抑うつの症状が、治療だけの群よりも大幅に改善されたのです。

※5 PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)。トラウマになるような体験で心に傷を負うことで、出来事のフラッシュバックなど心身にさまざまな症状が出る。

 

ゲームの未来

心理学の最新の知見を活かしたゲームがわたしたちのこころの健康を支えてくれる未来も近いかもしれません。

臨床心理学が専門の大阪大学の村中誠司先生は、
「ゲームの世界では人種も性別も年齢もすべてフラットで、目的だけが共有されている。そのことが孤独感の解消に役立っているのではないか。」といいます。
一方で、ゲームに限らずインターネットへの依存傾向が高いほど攻撃性が高まる(※7)という研究もあります[3]。
インターネット接続型のゲームが増えているので気を付けたいですね。

ほかにも、ゲームにのめりこみすぎることで、時間やお金を費やす優先順位が適切に立てられなくなり、
現実世界でのトラブルや心の問題に発展するゲーム依存にも注意する必要があるとのことです。

上手に付き合って、楽しくこころの健康を維持していきたいですね。

 

※7 ここでは、インターネット上での活動を現実逃避のひとつの居場所として、分かっていても使いすぎることを止められない衝動性を持つ傾向を指す。

 

監修:大阪大学大学院 人間科学研究科 村中誠司助教

 

 

参考文献

1.Pallavicini, F., Pepe, A., & Mantovani, F. (2022). The Effects of Playing Video Games on Stress, Anxiety, Depression, Loneliness, and Gaming Disorder During the Early Stages of the COVID-19 Pandemic: PRISMA Systematic Review. Cyberpsychology, Behavior and Social Networking, 25(6), 334–354. https://doi.org/10.1089/cyber.2021.0252

2.Oisin Butler, Kerstin Herr, Gerd Willmund, Jürgen Gallinat, Simone Kühn and Peter Zimmermann. Trauma, treatment and Tetris: video gaming increases hippocampal volume in male patients with combat-related posttraumatic stress disorder. J Psychiatry Neurosci July 01, 2020 45 (4) 279-287; DOI: https://doi.org/10.1503/jpn.190027

3.Agbaria, Q. (2021). Internet Addiction and Aggression: The Mediating Roles of Self-Control and Positive Affect. International Journal of Mental Health and Addiction, 19(4), 1227–1242.  https://doi.org/10.1007/s11469-019-00220-z