「こころ」の研究

2023/5/10

ストレスと上手に付き合う 
~自分に合ったコーピングを知ろう~

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仕事、学業、家庭の問題、友達とのいざこざ…。老若男女誰もがストレスにさらされている現代、こころと身体が押しつぶされないようにするには、どうすればよいのでしょうか。

そもそもストレスとは何なのか?その研究のはじまりからひも解き、ストレスとのよりよい付き合い方を紹介していきます。

 

 

そもそもストレスとは?

もともとストレスとは、「物体に圧力を加えることで生じる歪み」を意味する物理学の用語です。

それを心身にかかる負荷の問題として最初に扱ったのが、オーストリアの生理学者、ハンス・セリエ(1907~1982)です。

セリエは心身にかかる負荷をストレッサーと呼び、つぎの3つに分類しました。

 

  1. 物理的ストレッサー(暑い 寒い うるさい 放射線など)
  2. 化学的ストレッサー(薬物 酵素 化学物質など)
  3. 心理的ストレッサー(怒り 緊張 不安、喪失など)

 

セリエは、ストレッサーの影響で体に様々な変化が出ることを発見しました。

一部の臓器が肥大したり、自律神経のうち、緊張したときに働く交感神経が活性化したりするのです。

ストレッサーの影響によるこうした体の変化を、ストレス反応といいます。

 

 

ストレス反応は闘う準備!?

先述したとおり、ストレスがかかると交感神経が活発になります。

交感神経は、身体のエネルギーを動員するときに働きます。立ち上がったり、腕を動かしたり、歩いたり。どんな動作をするにもエネルギーは必要です。
「ストレス反応」というとネガティブに聞こえますが、実は、ストレッサーに立ち向かったり、あるいはストレッサーから逃げたりするために体が準備を整えている状態なのです。
ですから、ストレス反応が起きてすぐは、体はむしろ元気な状態になります。

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長く続くストレスには耐えられない

ただ、ストレス反応による元気な状態は長くは続きません。ストレス反応が起きてすぐは元気な状態になりますが、
それが長引くと今度はエネルギーが足りなくなってしまいます。
体が使えるエネルギーの量は本来一定で、ストレス反応の初期にはそれを無理に前借りして使っている状態だからです。
無理が続くと、さまざまな心身の不調が生じてしまいます

 

ストレスに強い人・弱い人  ~自分に合ったコーピングを~

現代社会では人間関係や学業、仕事など、長くストレッサーにさらされることが多くなっています。
しかし、すべての人が心身の不調を訴えているわけではありません。
同じようにストレッサーにさらされたとしても、ストレス反応が人によって違うことが分かっているのです。
特に心理的ストレッサーにさらされた場面において、その差がはっきりしています。なぜでしょうか。

ストレッサーに強い人は、自分に合ったコーピングを実践できています。
コーピングとは、ストレッサーへの対処のことです。
コーピングには様々な種類があります。心理的ストレッサーへの対処は、特にストレッサーの捉え方(認知的評価)が大きく関わるため、
これを変えることが有効なコーピングになります。

 

例)上司から叱責されたのは自分がだめだからだ 
             ⇒ 期待されているから上司に叱責されるんだ

  自分だけが責められている 
             ⇒ 責められているのは自分だけではない。他の人も同じように責められている。

 

もしあなたがストレスを感じやすい考え方をしてしまっている場合、上に示したような対処法をとると、少し楽になるかもしれません。

 

こういった認知的評価を変える方法以外に、テストで悪い点をとることへの恐れがストレッサーなら、勉強することもコーピングの一つです。
これは「問題焦点型コーピング」と呼ばれる対処法です。

また、勉強しすぎて気持ちが疲れたら、気分転換にピアノを弾いたり散歩をしたりするのもコーピングです。
これは「情動焦点型コーピング」と呼ばれます。この他にも、家族や友人に相談したり、社会から助けを受けるなど、
ストレッサーに対処するためのあらゆる方法がコーピングであると言えます。

 

ただ、全てのストレッサーに有効なコーピングというのはありませんし、ある人に向いているコーピングが別の人には向いていないということもあります。
ですから、対処法のストック、つまり自分だけのコーピング辞典をつくることが重要となるのです。
コーピング辞典をつくるには、落ち込んだとき、いつものコーピングがうまくいかなくなったとき、他の人がストレスにどんなふうに対処しているかを知るのも参考になります。

 

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ストレスと上手に付き合う

 「ストレスは人生のスパイスだ。」ストレスの研究をしたハンス・セリエの言葉です。

ストレス反応が起きてすぐは体が元気になることからも分かるように、適度なストレスは人生にハリをもたらします
加えて、これは見過ごされがちなのですが、昇進や結婚などの人生における嬉しい変化も実はストレッサーになるのです。
そのため、ネガティブな事柄に向き合うだけでなく、人生におけるポジティブな変化も実はストレスになっているのだということを認識して生活していくことが大切です。
また、繰り返しになりますが、慢性的にストレスにさらされると心身は疲弊してしまうので、そのときには自分にあったコーピングで上手に対処することが大切です。

シチズンラボの「こころ」の研究(Reseach01)では、みなさんがどんなコーピングをしているかをアンケートで集めています。

みんなの対処法を知ることで、自分だけのコーピング辞典をつくりましょう。

 

☆回答はこちらから☆

 

 

監修:中央大学文学部(心理学専攻)髙瀨堅吉教授