海外放送事情

中国への「配慮」強まる台湾・香港メディア(下)

~中国報道で「自己規制」する香港メディア~

中国との経済関係が緊密化する台湾と香港で、メディアの中国報道が“中国寄り”になりつつある問題を前号に続き取り上げ、本号では香港メディアに焦点を当てる。①デジタルラジオ局「DBC」の放送停止②高級英字紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」の“転向”の2例を見ていくが、いずれもメディアオーナーの中国ビジネスへの配慮が報道内容に影響している実態がうかがえた。この点は台湾と同様だが、一方香港の場合は既に中華人民共和国の統治下にあり、メディアオーナーの経済的利益だけでなく、中国政府の香港駐在事務所や香港政府を通じた圧力もかかるため、環境はさらに厳しい。

香港で報道の自由の防波堤になりうる要素として、インターネットが重要だが、放送や新聞といった既存メディアに関しては、「ジャーナリストの敢闘精神」に尽きる。しかしそれが機能するには、一般市民の強い支持が必要不可欠である。香港の公共放送RTHKでは、経営者が人気番組の放送打ち切りと、より「政府広報」的な番組を提案したのに対し、職員が強く反発して白紙撤回を勝ち取ったが、背景には、香港市民が編集権の独立に基づいて運営されるRTHKを強く支持していることがある。特に商業メディアがますます「弱体化」する中、香港市民はRTHKを「報道の自由の砦」としたい意向が強いのである。

台湾・香港共に既存メディアの「親中化」が進みつつあるが、特に「親中化」が進む新聞の発行部数が減少するなど、市民の側の市場を通じた「警告」も目立っており、ネット等のニューメディアの存在と合わせて、今後の台湾・香港メディアの報道の「親中化」に一定の歯止めをかける可能性があると思われる。

メディア研究部 山田賢一