海外放送事情

中国への「配慮」強まる台湾・香港メディア(上)

~中国への“迎合”目立つ台湾メディア~

台湾や香港のメディアでは、近年、中国を褒めたたえる報道が増える一方、中国政府にマイナスとなるニュースは扱わない、もしくは小さく扱う傾向が出ており、その背景として「中国要因」が指摘されている。特に中国と台湾・香港の間で経済が緊密化するのに伴い、こうした傾向が顕著になっている。台湾や香港では、不動産事業などを経営するビジネスマンがメディアのオーナーを務めているケースが一般的で、中国政府を怒らせることがビジネスにマイナスの影響を及ぼす恐れから、オーナーが編集部に中国への配慮を求めているとの指摘が現地では出ている。本稿ではまず、中国を褒めたたえる報道が増加しているとされる台湾メディアの実態について、中国ビジネスで多大の利益を挙げている食品事業者「旺旺グループ」のメディア事業進出と、中国に批判的なコメントで人気があった三立テレビの時事評論番組『大話新聞』の司会者降板問題を取り上げる。双方の事例などから、台湾の大手メディアで中国報道が一定の枠にはめられつつある実情が見えてくるが、一方で旺旺による買収が表面化したりんご日報(中国語表記:蘋果日報)の部数が50万部から40万部に減少するなど、一般市民が市場を通じてメディアの“親中化”への抵抗を見せる動きもある。また、ネットの普及がこうした大手メディアの報道が「中国寄り」になることへの防波堤になると期待する声も出ている。とはいえ、台湾で新聞や放送といった既存メディアは今でも圧倒的に主流の役割を果たしており、今後台湾と中国との経済関係が一層緊密化する見通しの中で、既存メディアの中国報道に関しては、その客観性や批判性について、悲観的な見方が多い。

メディア研究部 山田賢一