海外放送事情

日中アニメ産業の市場争奪

~国産アニメ振興を図る中国とどう向き合うのか~

中国でアニメ産業が急成長を遂げている。2011年に中国で制作されたテレビアニメは435作品で、総計4353時間44分にのぼり、制作時間数では既に世界一である。これは中国が2004年から本格的なアニメ産業振興に乗り出した結果だが、その過程で日本製のアニメをテレビ放送から事実上排除するなどの“保護主義”を伴っていた。日本国内で少子化が進む中、日本のアニメ業界にとって拡大する中国アニメ市場での利益確保は重要な課題だが、どうやって中国政府による“保護主義”の壁を突破するのか、課題は少なくない。本稿では、中国アニメ産業のメッカとなりつつある浙江省杭州市の現地調査の結果も踏まえ、日中のアニメ産業が、今後競合が強まることも予想される中で、共同制作も含めいかなる関係を構築していくべきなのかについて考察する。

中国では、1980年代の『鉄腕アトム』や『一休さん』に始まり、1990年代には海賊版の横行もあって、『ドラえもん』、『ちびまる子ちゃん』、『セーラームーン』、『名探偵コナン』、『クレヨンしんちゃん』など、枚挙に暇がないほど多くの日本製アニメが中国を席巻した。このことに「文化侵略」の気配を感じた中国政府は、2004年から文化面における「青少年への社会主義教育」と、経済面における「製造業以外の新産業育成」の両方を目的とする、国産アニメ振興政策を打ち出した。ゴールデンタイムにおけるテレビ放送から海外アニメを締め出すといった“保護主義”の効果もあり、量的には急成長を遂げたが、質的には課題が多いと言われる。このため中国は海外のアニメ事業者に対し、中国進出の条件として中国企業との共同制作による技術移転や、作品の海外での放送・上映を要求しているが、日本が2007年頃から取り組んだ中国との共同制作はあまり成果が上がっていないとの評価が多く、日本のアニメ制作会社は全般に中国への本格進出には及び腰である。こうした中、テレビ東京が2011年、中国の地方テレビ局系のアニメ制作会社との共同制作を発表した他、現在放送中の有名作品のネットでの即日配信にも取り組むなど、新たな動きも出始めている。しかし中国では当局による検閲があり、自由なテーマ設定がしにくいといった、自動車産業などとは異なる厄介な問題もあり、今後日中の事業者がどういう関係を作っていけるのか、当分の間、模索が続きそうである。

メディア研究部(海外メディア研究) 山田賢一