海外放送事情

シリーズ 公共放送インタビュー

【第8回・台湾】 胡元輝氏(元公共テレビ社長)に聞く

~経営の現場から見た公共テレビ~

胡元輝氏は台湾のメディア界での経験が豊富な人物で、聯合報の記者にはじまり、TVBS報道部編集長、民視テレビ報道部計画担当責任者、自立晩報社長、台湾テレビ社長、中央通信社社長などを歴任し、2004年12月から3年間、公共テレビ社長(中国語は「総経理」)として、国際報道強化などの諸改革に取り組んだ。台湾では政治的二極対立を反映してメディアも与党国民党系の「藍派」と野党民進党系の「緑派」に二分されているのだが、胡氏はその双方での仕事(聯合報とTVBSは藍派で、民視は緑派)を経験していることが特徴である。公共放送にとっては政治的中立性が重要な要件とされており、その点では胡氏はふさわしい人物といえそうだが、その胡氏が公共テレビの社長時代に、政治的中立性の維持に加え、商業局との関係など、運営上どういった点に苦心したのかを中心に聞いた。

胡氏は台湾での公共放送のシェアが低すぎると考えており、公共放送グループに加入した中華テレビや客家チャンネルなどを含めた公共放送のシェアが20%程度まで上がるよう財源の充実を図り、商業局と公共放送の均衡の取れた二元体制を作ることを提言している。
そして財源のあり方としては、広告は広告主の影響を受け、政府予算では政府から圧力を受けやすいとして、受信料制度が最善との見方を示すが、台湾では現実的に受信料制度の導入が難しいとして、次善の策として政府予算との結論を出している。政府予算の交付を受ける中での政府との関係については、一定の距離を保つため、「良い制度」「経営者・職員の政治圧力に対する闘争心」「市民の力」の3点を挙げた。また胡氏は社長時代に「国際化」「デジタル化」「商業局と調整しながらの公共放送拡大」の3つのテーマに取り組んだが、その諸改革の多くが予算の制約や議会・市民などの無理解で頓挫した経緯についても語った。たとえばデジタル化の推進に当たって公共テレビは、4つの新規チャンネルを開設すべく予算要求に動いたが、商業局は特にニュースチャンネルへの参入などに強い警戒心を示し、デジタル化予算は機器の購入など一部しか認められなかった。最後に胡氏は、最近公共テレビの理事会人事が与野党の政争の具になってきたことに憂慮を示し、公共テレビの経営者や職員に対し「政治家に気を許してはならない」と発破をかけた。公共テレビの理事会は過去1年近くにわたって人事抗争のため空転しており、前理事長の任期が切れた2010年12月現在でも新体制が発足していないが、今後政治対立の中で棚上げになっていたグループ化・デジタル化・国際化といった課題に的確に対処していけるのかが新体制における重い課題となっている。

メディア研究部(海外メディア) 山田 賢一