海外放送事情

シリーズ 公共放送インタビュー

【第3回・台湾】 翁秀琪氏(政治大学特別招聘教授)に聞く

~政治的二極対立からの自立を目指す公共テレビ~

翁秀琪(おう・しゅうき)教授は台湾の国立政治大学で修士号を取得後、ドイツのマインツ大学でコミュニケーション研究により博士号を取得、その後約20年間、政治大学で「コミュニケーション理論」や「大衆メディアと社会」といったテーマで教鞭をとってきた。1998年に開局した公共テレビで、初代から3期9年間理事を務め、商業局の中華テレビや、少数派住民向けの客家テレビ、原住民テレビ、国際放送の宏観テレビなどを包括した公共放送グループ化の推進などに取り組んだ。翁氏は、公共テレビが置かれた最大の課題は、政治的二極対立が鮮明な台湾で、政権の意向に左右されない立場を確立することにあると考えている。

翁氏は、公共放送の基本的任務について、①あらゆる分野の番組を扱う「普遍的サービス」②公正・独立のニュース報道③高齢者・青少年・少数派エスニックグループなどのための番組制作④国家アイデンティティと文化の反映⑤イノベーション=革新と、高品質のコンテンツ⑥国民の世界観を高めること、の6点を指摘している。特に④の国家アイデンティティをめぐっては、台湾では中国との統一をスローガンに持つ国民党などの「藍」派と、台湾独立を綱領に掲げる民進党などの「緑」派の間で先鋭な二極対立があり、国家アイデンティティをめぐるコンセンサスが存在しないことを挙げ、翁氏はイギリスのBBCや日本のNHKと比べ台湾公共テレビが難しい立場に置かれていると語る。また、公共放送の規模について翁氏は、かつては商業局を全部公共化したいと考えていたものの、台湾ではそれが非現実的なことと認識するようになったと述べ、当面は政府からの年間予算が約25億円にとどまっている公共テレビの予算拡大を主張している。一方ニューメディア時代への対応については、青少年の世代に公共放送を浸透させるために非常に重要と翁氏は考えており、公共テレビが現在ネット上で行っている「PEOPO」(韓国のオーマイニュースに似た市民記者制度)について、市民記者への研修を行っていることなど、その現状を高く評価している。

メディア研究部(海外メディア)山田 賢一