海外放送事情

米ABCにおける社員教育とジャーナリズム・スクールの連携

2つの事情から、ジャーナリスト教育の見直しが求められています。一つは番組やニュースの内容をめぐる出来事およびメディア関連の不祥事などでジャーナリズムのあり方が問われていることがあります。そしてもう一つは、いわゆるデジタル化によってメディアの勢力地図および収益構造に大きな変化が起こっていることがあります。

2月号・3月号で中国・復旦大学のケースを紹介しましたが、ここでは、共同研究者の藤田真文教授(法政大学社会学部)が、アメリカのABC Newsとコロンビア大学、ニュー・ヨーク大学におけるジャーナリスト再教育関連の動きについて報告しています。

アメリカのジャーナリスト教育事情は日本の場合と異なり、かなりの部分を大学その他の教育機関に依存しています。アメリカではジャーナリストとしての基礎的な技能は採用される以前に身につけていることを原則としているため、ABC Newsが入社後の研修として行っているのは、自社の最新のガイドラインについて説明を行うというだけの、簡素なものでした。近年力を入れているのは、デジタル時代に対応するための技術研修で、これには現役のジャーナリストたちも関心を寄せています。

大学におけるジャーナリスト教育は、ジャーナリズムに就職するための予備的な教育から、現役ジャーナリストの技能や知識の向上を図るもの、ジャーナリズムを批判的に見るためのものまで、極めて広い範囲に及んでいます。コロンビア大学が2008年から始めたメディア幹部のためのザルツバーガー講座では極めて実践的にメディア事業と結びついた課題を受講者が設定し、講師や他の参加者たちとの議論の助けを借りてその達成をめざすということが行われています。また、アメリカの放送業界には本来は自社で行うべき人材育成を「外部化」しつつあり、大学のジャーナリズム・スクールが放送の人材育成の多くの部分を担うという現実もあります。さらにアメリカの大学は、NPOを創設し大メディアの調査報道を補完しようとしています。メディアとの共存を図るアメリカの大学のジャーナリスト教育についても報告をしています。

法政大学社会学部 藤田真文