海外放送事情

メディア研究の課題

D.ウォルトンの視点から(後半)

フランス国立高等研究所(CNRS)の社会学者、コミュニケーション学者であるD.ウォルトン(1947~)は、メディアと社会、文化、経済をめぐる研究分野で、フランスの第一人者である。

ウォルトンによれば、コミュニケーションには、人々の相互理解という理想に基づく規範的な側面と、現代社会で人間関係や社会関係を円滑に進めるための機能的な側面がある。そして、情報やコミュニケーションの技術に託されているものは、本来人々の相互理解によって平和な社会を築くことである。

しかし、その現実は、この規範的な理想とは大きく離れている。インターネットに見られる双方向で瞬時に目の前のスクリーンに世界を見せる双方向技術は、世界レベルで不平等や差異を際立たせ、対立や構想を引き起こしている。これは、情報とコミュニケーションが基本的に異なるものである点を無視する技術と市場一辺倒のイデオロギーによるものである。

この視点から、ウォルトンは、アメリカの市場原理主義と一国覇権主義を批判し、国連を中心とした文化の共存を主張し続けてきた。

そのアメリカで、オバマ政権が誕生し、やがて1年になる。アメリカは、一国覇権主義からはっきりと方向転換し、世界は変わりつつある。

前稿に引き続き、本稿では、このような文化の共存を唱えるウォルトンのコミュニケーション理論を取り上げ、そこから得られるコミュニケーション研究の課題について考える。

メディア研究部(海外メディア)越川 洋