海外放送事情

ラジオ局の枠を超えて

~米NPR(公共ラジオ)マルチ展開の取り組み~

インターネットの普及と深刻な経済不況は、アメリカの既存ニュースメディアを大きく揺さぶっている。特に、地方の新聞や放送局は利用者や収入の大幅な減少などの影響を受け、発行や放送の停止を余議なくされるケースも出ている。そうした中で、デジタル技術を生かして“攻め”の展開をしているのが、アメリカの公共ラジオ、NPR(National Public Radio)である。もともとNPRは正確でバランスのとれた報道に定評があり、新聞・テレビなど従来のニュースメディアへの接触率が低下する中で、利用者の数を増やしていた。NPRでは今年7月、ウェブサイトを一新し、放送に加えて、豊富なテキスト原稿の提供、24時間ストリーミング、過去数年分の番組オンデマンド、ポッドキャスティングなどのサービスを充実させ、「良質なコンテンツ」を「多様なプラットフォーム」で展開することにより、淘汰の進むアメリカ・メディア界の中で生き残りを図っている。

しかし同時に、NPRの急速なデジタルサービスの拡大に対しては、全米に800余りあるNPRのメンバー局が脅威を感じている。NPRの急速なネット展開が、地方の公共ラジオ局を飛び越えてリスナーに直接コンテンツを届ける“バイパス問題”を引き起こすからである。この報告では、NPRの取り組みを通して、デジタル時代の公共放送・ラジオ放送の在り方について考える。

メディア研究部(海外メディア)柴田 厚