海外放送事情

シリーズ 世界の公共放送のインターネット展開

第5回 台湾公共放送グループ・香港RTHK

視聴者の情報発信のプラットフォーム

世界の公共放送のインターネット展開、シリーズ5回目からは、アジアの公共放送について見ていく。しかし中国本土の放送局は中国中央テレビなどいずれも国家の強い統制下にあり、「編集権の独立」という公共放送の要件を満たさない。そこで規模は小さいながら、PBI(Public  Broadcasting International、世界公共放送会議)のメンバーで、公共放送として認知されている台湾の公共テレビを中心とした公共放送グループ(公廣集団)と香港のRTHK(Radio Television Hong Kong、香港電台)を対象とし、2008年11月の現地調査をベースに、そのネット展開の実情を報告する。

台湾と香港の公共放送は、ヨーロッパや日本のように社会の全ての層をターゲットとして商業局と同等の規模で視聴率を争う「大きな公共放送」ではなく、少数派向けの番組や教育番組などを重視するアメリカ型の「小さな公共放送」である。そのためネット展開に対する商業局からの反発は大きくなく、またネット事業で利益を出すよう求められているわけでもないので、商業局よりも全体に取り組みは積極的であるといえる。規模が小さいためアクセス数も少なめになりがちな問題については、台湾公共放送グループがYouTubeとの提携で補っていた。また台湾公共放送グループ、香港RTHK共に、規模が小さいがゆえにネット上のコンテンツについて比較的自由度の高いものが載せられているといえる。特に台湾公共テレビの「原稿審査は原則的になし」とする市民記者制度「PEOPO」(People Post)は画期的な取り組みと言えるが、こうしたサイトは現在アクセス数の少なさが課題である一方、もし今後ユーザーが増加していった場合、「売名行為」に走ろうとする“市民記者”や質の低い記事の横行をどう防ぐのかが問題になる。ともあれ、台湾公共放送グループ、香港RTHKは共にネット展開を単に放送番組を流す別のルートとしてだけでなく、視聴者の情報発信のプラットフォームといった新しい機能をネットに持たせるべく、日夜工夫を重ねていることが見て取れた。

メディア研究部(海外メディア)山田 賢一