海外放送事情

韓国における「デジタル公共圏」

~放送、ネット、市民の新たな関係性~

今年5月から7月にかけて、韓国では米国産牛肉輸入自由化に反対する市民達が手にろうそくを持って抗議する大規模な「ろうそく集会」が連日のように行われた。この「ろうそく集会」に象徴される韓国の市民的な政治文化には、放送、新聞、インターネットといった各種のメディアが深く関わっており、メディアと市民との間に独自のダイナミックな関係性が生成している。

それは「デジタル公共圏」と呼ぶべき性質を備えている。「デジタル公共圏」において市民達は、パソコンや携帯電話、デジタルビデオカメラといったデジタルメディア機器を巧みに使って情報の発信・交換を行いつつ政治的意思形成を行っていく。またそのプロセスにはインターネットだけでなく放送や新聞などの従来型マス・メディアも深く関わっている。

本稿では、今年8月に韓国で行ったヒアリング調査をもとに、この「デジタル公共圏」の成り立ちやその背景、そして現状と意義などについて検討し、デジタルメディアやデジタル情報機器が広く普及した社会環境において放送と市民の関係性が持ち得る新たな可能性や課題について考察する。

具体的には、MBC放送が行っている「市民記者制度」や市民参加型の討論番組、そしてインターネット上のポータルサイト内の人気討論コミュニティである「アゴラ」、ネット上で市民達が“生放送”を行っているサイト「アフリカ」などの事例を取り上げ、検討する。

メディア研究部(海外メディア)米倉 律

関西大学社会学部准教授  山口 誠