海外放送事情

問われる公共放送の任務範囲とガバナンス

~EUの競争政策とドイツ公共放送~

ヨーロッパでは、公共放送と商業放送が併存する“二元体制”の歴史はまだ浅い。ほとんどの国では、テレビ放送はその草創期から公共放送による独占事業とされ、商業放送に門戸が開放されたのは、ようやく1980年代半ばになってからのことである 。

1990年代には、市場のグローバル化と技術革新を背景に、商業放送は激しい競争をくりひろげながら急速に成長した。そして守勢に立たされながらも依然として大きなプレゼンスをもつ公共放送の“民業圧迫”への批判が、各国であがるようになった。

これを受けて、EUの競争問題を所管する欧州委員会が、受信料など公共放送の財源が市場に悪影響を与えないための共通基準を策定するにいたる。以降、この指針に沿う形で、いくつかの国で公共放送の財源制度が改正されている。

この問題をめぐって事態が紛糾したのが、特に大きな公共放送とそれを支える独特の放送哲学をもつドイツである。約4年半続いた長い協議の末、2007年4月、欧州委員会とドイツ連邦・州政府は、公共放送の財源制度の改正点についてようやく合意をみている。

本稿では、このドイツのケースをとりあげ、いわゆる民業圧迫の問題の解決が、EU法 の枠組みの中でどのように模索されているか、その中でどのような問題が浮かび上がるかを検証してみたい。前半部では、EU法の中で重要な役割を果たしている競争ルールと公共放送の関係を整理し、後半部でドイツでの経緯を概観する。

杉内有介