海外放送事情

アメリカの放送におけるローカリズムの行方

~NAB2007における論点を中心に~

アメリカでは、放送がつねに地域コミュニティのニーズに応え、その社会的・文化的多様性を反映するべきだとする「ローカリズム」が放送制度・放送政策上の基本的理念であり続けてきた。しかしこのローカリズムがいま、形式的にも実質的にも変質し、形骸化されつつある。本稿では、今年4月に開催された NAB(全米放送事業者連盟)2007年大会で展開された議論を手掛かりに、アメリカの放送におけるローカリズムが直面している課題と展望について整理・報告する。

まずアメリカの放送史におけるローカリズムの歴史的位置づけを、特に放送政策・放送制度の側面から簡単にレビューしたうえで、デジタル化やインターネットの普及といったメディア環境の変化の中でローカルテレビ局が置かれている現状や課題を検討し、最後に今後に向けた課題と展望をまとめる。

日本でも地上ローカル民放局の経営状況の悪化が指摘され、いわゆる「マスメディア集中排除原則」の緩和がここ数年議論の対象となってきた。ローカル局とネットワーク(キー局)の力関係や広告市場の規模、有料多チャンネルサービスとの関係など、日米で事情が大きく異なる面もある一方、デジタル化やインターネット(ブロードバンド)の普及を背景にした「放送と通信の融合」の進行、地上波の地位の相対的縮小といった状況には一定の共通性もある。

そうした意味で、アメリカの放送におけるローカリズムが今後どのような変遷を辿るかは、日本の地上放送の今後のあり方を考えるうえでも重要な意味を持つ。

専任研究員 米倉 律