海外放送事情

米テレビ報道と「公共の利益」

~誰のための、何のための放送か~

アメリカのテレビ報道はいま、価値観の多様化や情報アクセスの多様化・細分化など、新たなメディア環境の出現により、大きな変革の渦中にある。これまで激しい首位争いをくりひろげてきた3大ネットワーク(ABC,CBS,NBC)のイブニングニュースは、いまや2,600万人の視聴者を奪い合う存在でしかない。「カネのなる木」ともいわれてきた全米各地のローカルニュースは、ニュースの均一化・希薄化の危機にある。

広告の媒体として、いわゆるエンターテインメントを中心に発展してきたアメリカの商業放送システムにおいて、ニュースやドキュメンタリーなどの報道番組は、教育・教養番組などと並んで「公共の利益」に奉仕するものとして位置づけられてきた。大気は公共のものであり、電波という有限の資源を使う者は「公共の利益」に奉仕しなければならないというのが、アメリカの放送を律する根本原理である。しかし、その「公共の利益」とは何か、誰がそれを判断するのか ------といった問題は、当の放送事業者はもちろん、歴代の政府やFCC(連邦通信委員会)、連邦最高裁、学界、言論界などを巻き込んだ一大論争であり続けてきた。そしていま、「公共の利益」の概念そのものが、まさに価値観の多様化や放送と通信の融合などによるメディア革命の直中で問い直されている。ドラマやコメディー、バラエティーなどのいわゆるエンターテインメントやスポーツが「公共の利益」に果たす役割もひとしく重要である 。

本稿では、この大きな変革期にあって、いまアメリカのテレビ報道はどのような状況にあるのか、「公共の利益」はどう受け止められているのかなどについて、アメリカのメディア・ジャーナリズムの動向や調査・研究団体の報告をもとにまとめ、厳しい時代を迎えたテレビ報道を展望する。

主任研究員 永島 啓一