海外放送事情

中国,HDTV放送をケーブルで開始

人口13億人,テレビ普及台数4億台にのぼる中国で,いよいよHDTV(高精細度テレビ)の放送が始まった。放送を始めたのは中国唯一の国家レベルのテレビ局である中国中央テレビ(CCTV)と,上海テレビや上海東方テレビなどでつくる上海文化広播影視集団(Shanghai Media & Entertainment Group=SMEG)で,共にケーブル有料チャンネルで番組を流している。

中国では2008年の北京オリンピックの中継を全面的にHDTVで行うとしており、国家ラジオ映画テレビ総局(SARFT)の技術担当者は,液晶テレビの普及などをあげHDTVの推進に楽観的な見通しを示すが,放送メディア研究者の間では,慎重な声も多い。ある研究者は,「HDTV放送を見るには受像機が必要だが,液晶テレビの場合,価格が通常のテレビの10倍近くする」と指摘するまた別の研究者は,「メーカーは積極的だが,コンテンツの不足が問題である。どうやって収益をあげるのかという“ビジネスモデル”も明確でない」と述べている。

また,ケーブル有料チャンネルでのHDTV放送の普及という点で最も重要な問題は,ケーブルのデジタル化自体が遅れていることだ。中国のケーブル加入世帯数は既に1億1,000万に達しており,大都市では90%以上というところも少なくない。しかしSARFTが2003年の段階で目標としていた、2005 年末までに3,000万戸のデジタル化達成は絶望的となっている。その理由としては,既にケーブル設備の基本料金だけで数十チャンネルの放送を見ていた市民にとって,デジタル放送の視聴料金(有料チャンネルはCCTVの場合,基本料金と別に既存9チャンネルのパッケージで月36元=約500円)を新たに払ってでも見たいだけの「優良コンテンツ」が不足していたことがあるが,より大きな要因と見られるのは,ほとんどの地域でSTBを有料で販売もしくは貸与していたことである。STBは日本円で安ければ5,000円程度のものからあるが,デジタル放送の良し悪しについて判断できるほど長くテレビを見ていない段階で金を払うことには抵抗があるようだ。しかし山東省の青島(チンタオ)では、STBをまず無料で配付し、そのコストをケーブルテレビ視聴料金の値上げでまかなう方式をとったところ、2005年10月までに市内60万戸のケーブルデジタル化が完成、全国のモデルとして認知された。今後は「青島方式」をベースとしたケーブルデジタル化が全国でどこまで順調に進むかが,ケーブル有料チャンネルにおけるHDTV普及の大きな鍵になりそうだ。

主任研究員 山田賢一