海外放送事情

中国、メディア自由化にブレーキ

中国では、1年くらい前からメディア報道の中で「批判」よりも「宣伝」の色彩が濃くなりつつある。共産党の一党支配が続く中国では、もともとメディアは党の宣伝の道具であるが、改革開放が始まってからは大衆の多様なニーズに応える事業者としての側面を強め、一定の枠内で政府に対する批判的な報道も行われていた。

ここへ来てそうしたメディア自由化にブレーキがかかった背景としては、メディアによる批判報道の拡大が中国共産党にとっての「建設的批判」を超え一部「言論の自由」の要求にまで至ったため、当局の危機感を呼び起こした他、記者が金銭的対価を得て提灯記事を書くといったメディア自身の規律の不足もあった。中国のメディア研究者によると、当局が管理強化の理由をメディアの“乱れ”に求めるのは言い訳であり、根本には貧富の格差拡大や農民の土地の強制収用による抗議行動の頻発など、社会の不安定化があるという。そして胡錦涛政権の基盤が必ずしも強くない現状では、こうしたメディア管理の強化は長く続くと予想する。中国のメディアにとって本当の意味での「春」が来るには、ジャーナリズムとしての自律や責任感の涵養(かんよう)と共に、中国社会の安定化も必要条件になるという考え方だ。しかし、「メディア自由化」と「中国社会の安定化」は、そもそもどちらが先に来るのかという根本的な問題については、今も意見の対立が残されており、今後の中国メディアの動向は、最近よく指摘される“反日報道”の行方も含め、大いに注目されるところだ。

主任研究員 山田賢一