海外放送事情

日中国際シンポジウムより

メディアに影響される“日中摩擦”

2004年の日中関係は、前年に続いて多難な一年でした。年始に小泉首相が再度靖国神社を訪問し中国側の激しい反発を招いた問題に始まり、東シナ海の天然ガス開発をめぐる係争、そして7月から8月にかけては中国で行われたサッカー・アジアカップをめぐる“反日”騒動が起きました。こうした軋轢が両国のメディアで報道されると、双方の国民が相手国への反感を高める結果になるというパターンが、2002年に北朝鮮の「脱北者」が日本の総領事館に駆け込んだ「瀋陽事件」以来目立っています。

日中双方の学者やジャーナリストなどで作る「日中コミュニケーション研究会(JCC)」では、2004年11月20・21日の2日間、東京で日中間の相互理解促進のためのシンポジウムを開催しました(写真1)。本稿では、このうちメディアの報道に関わる報告や討論を中心に、分析を加えて紹介しています。シンポジウムを通じて見えてきたのは、中国における「反日」の噴出について、日本側が再三主張したような中国政府の“愛国主義教育”の影響はむしろ限定的だということです。むしろ中国社会全体が開放・民主化に向かいつつある中で、政治体制・言論が根幹では依然厳しく制限された状況にあり、その不満のはけ口としての“反日”がインターネット、さらには商業色の強いメディアで噴出し、靖国問題がこれに油を注いでいるという構図があるといえそうです。ネット上に溢れる“反日”には単純な事実誤認に基づくものも多いので、両国の交流、特にメディア間の交流の重要性は高いといえますが、長期的には中国の政治体制改革の推進と、これを日本が支援していくことが必要になってくるでしょう。また、“一衣帯水”“同文同種”などとして相手が自分と同じ価値観を持つと思うと、往々にして文化の違いからあとで失望する結果を招く傾向が見られるので、両国が文化・習慣の違いを互いに尊重する意識も、特にメディア関係者の間では欠かせないと思われます。

メディア経営 主任研究員 山田賢一