海外放送事情

「民主化」台湾に今も残る“地下放送”

~非合法ラジオ局の実態~

台湾では終戦後、国民党が長期にわたって一党支配を続け、ラジオも中国ラジオ(中廣)など国民党系の放送局によって独占されてきた。一方、反国民党系の勢力は、当時の政府から新規のラジオ局開設を許可されなかったため、取締りが緩くなった1990年代に盛んに非合法のラジオ局をつくり、未使用の周波数帯を狙って“地下放送”を行うことで抵抗してきた。

2000年の総統選挙で、当時野党だった民進党の陳水扁候補が勝利したことから、こうした非合法ラジオ局の問題は程なく解消されるかと思われたが、現実には陳氏が再選を果たした4年後も事態はほとんど変わっていない。これは立法院(国会)で国民党などの野党が引き続き多数を占めてきたことが大きな要因だが、非合法ラジオ局は税金を払わず、広告もいくらでも放送できる点で合法のラジオ局よりも経済的に有利な面があることも指摘されている。台湾でメディアを管轄する行政院新聞局によると、台湾では合法ラジオ局が174局ある一方、非合法ラジオ局は93局あり、随時摘発を行っているという。しかし今年7月に調査を行った台北と高雄のいずれも陳水扁総統支持の与党系非合法局は、そもそも国民党の一党支配時代に作られた不公平な周波数帯域の配分が民主化後の現在も続いていることがおかしいと主張する。また、合法ラジオ局は放送のほとんどを北京語で行っているが、非合法のラジオ局の多くは、台湾住民の70%にあたる福建系の日常用語である (台湾語ともいう)を使うなど、地域のニーズにあった放送というメリットもあるという。こうした主張を受けて新聞局では今年8月、中国ラジオから一部の帯域の返還を求めるなどして、新たに100あまりの周波数帯域を生み出して新規参入者に分配する方針を打ち出した。これに対し中国ラジオは強く反発しており、台湾が今後“地下放送”問題をどのように解決していくのかが注目される。

メディア経営 山田賢一