ことばの研究

命令調を使った津波避難の呼びかけ

~大震災で防災無線に使われた事例と、その後の導入検討の試み~

東日本大震災では大勢の人が津波で亡くなり、警報や避難指示の内容や伝え方の重要性が指摘された。その震災では、「逃げろ」と命令調で防災無線の放送をしていた自治体があり、その後、命令調を導入しようとしている自治体もあることが新たにわかった。こうした命令調の表現の使用事例を報告し、効果や課題について考察する。

震災時に防災無線で使われた命令調については、「避難せよ」と呼びかけた茨城県大洗町の事例をすでに報告した(2011年9月号)。今回は「逃げろ」と呼びかけていた女川町と石巻市の事例を報告する。

このうち女川町では、役場庁舎が水没する寸前に職員が放送で「逃げろー!」と叫んでいた。女川町の一部では陸側から津波が襲ってくる事態が生じていたが、この放送を聞いて危険を察知し、より高い場所に避難する人がいた。これは、ふだん命令調が使われない防災無線の放送という場で、口語的な「逃げろ」という表現が使われたことが、聞く側に「気づき」をもたらしたのが一因と考える。

また、釜石市では震災時の反省に立って、命令調の導入を含めて避難の呼びかけ方を見直しており、こうした試みについても報告する。

自治体は法律上、避難を「命令」する権限はないが、報告した使用事例から、災害時における「法律上の命令」と「表現としての命令調」との区別についても考える。

メディア研究部(放送用語)井上裕之