放送史

<放送史への証言>

現場から汲み上げる放送研究をめざして

~「テレビ的リアリティー」をどう理解するか~

「放送史への証言」は放送の発展に尽力されてきた方々へのヒアリングにより、放送の歴史をオーラルヒストリーで描き出そうという試みである。今回は、これまでの「証言者」のリストになかった職種、「研究者」の証言である。藤竹暁さん(78)は、1962年にNHK入局、以降、放送文化研究所の研究員として、また1984年以降は学習院大学教授として、放送、テレビ研究の第一線で活躍されてきた。なぜ、放送やテレビ研究を専門に研究することになったのか、そこにあった問題意識とは何か、今後、この分野の研究はどうあるべきか、などについて聞いた。

藤竹さんの考えでは、他のメディアと同様にテレビもまた「現実」についての認識や感覚を作り出す作用があるが、テレビが作り出すそれ(=「テレビ的リアリティ」)には強力な力がある。「テレビ的リアリティ」のメカニズムや作用を解明することが、藤竹さんをテレビ研究に向かわせた動機だったという。1980年代までをテレビの「黄金期」だったとすると、その後のテレビは、急激なメディア環境の変化の中でその機能や役割が変わっていく。また視聴者の側も次第に捉えどころのない存在になっていく。そして、従来型のテレビ研究はもはや成立しにくくなっている。そうした中で、今後の放送研究、テレビ研究はどうあるべきか。藤竹さんは、自らの出身組織でもある、NHK放送文化研究所のあり方について、①独自の提案や問題の投げかけを、NHK内部にたいしても、また社会に対してももっと積極的にやるべきだ、②隣接分野の先進的な研究成果をもっと貪欲に取り入れるべきだ、③研究者は一人では研究はできないのであって、プロモーターや編集者など研究者の周辺にいる人達の存在も重要となる、といったサジェスチョンをされた。

メディア研究部(メディア史) 米倉律