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独,州首相会議が受信料改定答申を修正して承認

来年1月から2008年末まで適用される受信料改定案を審議していたドイツの州首相会議は,10月8日,テレビ・ラジオ併用料金では,月額0.88ユーロ(約120円)値上げして17.03ユーロ(約2,300円)とし,4月に先送りして実施することで合意した。

ドイツでは,放送は16の各州の所管事項のため,全国一律の基準が望ましい受信料は,全州が州間協定を結んで定める。受信料改定では,この州首相会議が最大の関門となる。値上げ案は,引き続き各州議会で審議され,来年3月末までに全州が可決して初めて成立するが,可決はまちがいないといわれている。

これに先立ち,公共放送の約2ユーロの値上げ申請を審査していた独立機関「放送機関の財源需要の審査および確認のための委員会」(KEF)は,今年1月,州首相会議に,月額1.09ユーロ(6.7%)値上げし,17.24ユーロ(約2,330円)とする答申を行っていた。

今回の値上げについては,不況を理由に,商業放送を始めとするマスコミや,連邦や州レベルの一部の議員から強い批判の声があがった。特に,州内に大手商業放送の本部を抱えるバイエルンなど3州の首相が,値上げ反対の急先鋒となった。一方,公共放送側も,インフレなど値上げの必要性とともに,合理化に努める意向を示して,理解を求めた。

しかし,6月17日の州首相会議では,値上げ実施を3か月遅らせ,来年の4月1日からとすること,値上げ額を「1ユーロ以下」に抑えることが合意された。そして,10月8日の州首相会議で,最終決定がなされた。KEFの答申が,実施時期を延期され,値上げ幅もさらに圧縮されたのは異例のことである。公共放送にとっては,値上げ幅が半分以下に抑えられたうえ,開始時期が3か月遅れるという二重のハンディとなった。

ただ,今回の決定では,これまでは50%だけを支払えばよかったホテルの客室のテレビの受信料が,51室以上のホテルに限って75%に引き上げられた。また,インターネットにより放送を受信できるパソコンなどに対する受信料徴収については,現行の「放送に関する州間協定第7次改正法」では,2006年末まで棚上げにされていたが,来年4月からの施行を目指す第8次改正法では,受信機と同じ扱いになった。つまり,ラジオやテレビを持たない世帯や企業の所有するパソコンに限り,1台だけが受信機とみなされ,受信料を徴収されることになった。

KEF答申を修正した州首相会議の決定について,公共放送は強く反発した。特にARDは,KEF答申への介入は問題があると非難し,加盟局の一部には連邦憲法裁判所へ提訴すべきだという意見も出たが,当面は各州議会での可決が終わるまで待つことにしている。また,答申を修正されたKEFも,州首相会議あてに,KEFの機能が損なわれたと批判する書簡を送った。一方,値上げ反対の商業放送側は,値上げ承認を強く非難している。

受信料が予想外に増えない見通しとなったことから,公共放送側は番組制作への影響も避けられない,としている。ARD加盟のバイエルン放送など,いくつかの放送協会は,保有するオーケストラの解散,文化事業の主催や参加の取りやめを表明しており,同様の動きが広がるものとみられる。

内野隆司