メディアフォーカス

世界初の衛星マルチメディア放送スタート

個人用の移動携帯端末を主なターゲットに,映像番組も提供する世界で初めての「衛星デジタル・マルチメディア放送」(サービス名;モバHO!)が2004年10月20日に始まった。このサービスは,2.6ギガヘルツ帯(Sバンド)を使用し,全国を1波でカバーできる衛星デジタル音声放送である。

総務省が2002年7月に衛星デジタル音声放送への参入事業者を募集した結果,東芝などが出資している「モバイル放送」(1998年5月設立,東京都中央区)1社のみの参入となった。同社は2003年3月に放送衛星局の免許を総務省に申請し,同年7月に予備免許が,2004年5月20日に本免許が付与された。

モバHO!は,全国放送,多チャンネル,移動体受信という特長を生かした番組編成で,音楽など音声番組30チャンネルを中心に,ニュースやスポーツ,エンターテイメントなど映像番組7チャンネル,それに約60タイトルのデータ放送1チャンネルを有料で提供する。

NHKは,モバHO!の映像チャンネル用に,ニュースやスポーツ中継などの番組を1日8時間程度提供することが,放送法第9条第2項第6号の「放送及びその受信の進歩発達に特に必要な業務」として総務省から認可された(同条第8項,期間は来年9月30日まで)。さらに,Sバンドが降雨減衰の影響を受けにくく災害報道に適していることから,非常災害時には8時間を超えて災害情報を提供することも認められた。モバイル放送は,NHKから提供された番組は自社で編集し,総合編成の映像チャンネル「モバイル. n」で放送する。

星放送に関わる制度について総務省は,放送局免許主体(ハード)と放送番組編集主体(ソフト)の分離を基本としているが,モバイル放送については,割り当てた周波数帯域幅が25MHz(2,630~2,655MHz)と狭く,効率的な運用を図る必要があることから,ハード・ソフト一致で運用している。また,周波数帯域が韓国SKテレコムとの共同使用となるが,25MHzと狭いために帯域を分割せず,偏波について日本側が左旋回,韓国側が右旋回と異なる扱いにすることで,周波数の有効活用を図っている。なお,放送で使用する衛星「MBSAT」も両社の共同所有である。

Sバンドは,衛星の送信電力に通常みられる地表面の電力束密度の制限がないことから,衛星側での強い電波(1,215W)の出力(BSの120Wの約10倍)が可能であり,送信用として直径約12mの巨大アンテナを装備している。一方,端末側では小型(無指向性)のアンテナで受信でき,また,都心部のビル陰やトンネルの中,地下など,衛星の電波が直接届かないエリアでは,ギャップフィラーと呼ばれる地上再送信装置を使ってカバーする。

モバHO!の変調方式は,第3世代携帯電話の下り回線用にも規定されているCDM(符号分割多重)で,マルチパス(遅延波)による妨害波に強く,ギャップフィラー受信や衛星からの直接受信に適している。受信機器は,音声番組,映像番組とも視聴できることを含め,地上デジタル1セグメント放送やデジタルラジオと重なる。しかし,採用された変調方式が,デジタルテレビやデジタルラジオのOFDM(直交周波数分割多重)と異なるため,携帯型受信端末の共用が困難な場合は,専用受信機の普及を図る必要がある。

東郷荘司