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「国民保護法」施行 東名阪の民放19社とNHKが指定公共機関に

「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)が9月17日に施行され,「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(武力攻撃事態対処法)に基づく指定公共機関に,放送事業者として,複数の都道府県を放送対象地域とする関東,中京,近畿のテレビとラジオの民間放送事業者19社とNHKが指定された。ちなみに,指定公共機関全体では160の事業者。
 国民保護法では,武力攻撃や大規模なテロの発生など,日本有事の際の国や地方公共団体の責任や役割,権限のほか,国民の避難や救援が義務付けられている指定公共機関および指定地方公共機関の業務内容などが規定されている。この指定公共機関は,武力攻撃事態対処法で定められることになっている。
 国民保護法は,放送事業者である指定公共機関等の業務として緊急な情報を伝達する役割を定めている。指定公共機関となった放送事業者は,有事の際を想定して国民の保護に関する業務計画を作成し,内閣総理大臣に報告(第36条)することや,対策本部長(原則,内閣総理大臣)の発令する警報(第50条),都道府県知事の通知する警報(第50条)と避難の指示(第57条),緊急通報(第101条)を放送することなどが義務付けられている。ただし,放送事業者である指定公共機関等が行う国民の保護のための措置については,国および地方公共団体は,言論・表現の自由に特に配慮しなければならない(第7条第2項)ことが明記されている。また,国会の審議を通じ,報道の自由,表現の自由が最大限尊重され,保障されることが明らかとなっている。
 放送事業者である指定公共機関については,武力攻撃事態対処法でNHKが例示(第2条第6号)され,具体的な事業者は政令で定めるとされている。同17日には,武力攻撃事態対処法施行令が改正され,NHK(第3条第21号)が正式に指定されたほか,民放事業者(第3条第40号ヌ)19社が指定された。
 民放事業者は「報道の自由が制約されかねない」として,放送分野の指定公共機関制度に反対してきた。国民保護法の当初の案で課されていた,指定公共機関が放送をはじめとする「国民保護業務計画」を策定する際の政府との「事前協議義務」が「報告」に変更されるなど,報道の自由に配慮した修正が行われたこと,衆参両院の附帯決議に表現の自由確保への特段の配慮が明記されたことなどから,民放事業者19社全社が指定を受け入れた。
 また,国民保護法では,都道府県知事が,安全を確保しなければ国民生活に著しい支障を及ぼすおそれのある生活関連等施設(第102条第1項第1号)の安全確保措置を施設管理者に要請できる,とされている。この生活関連等施設に,放送局の無線設備が国民保護法施行令(第27条第6号)で定められた。
 なお,指定地方公共機関は,各都道府県を活動の対象エリアとする公益性の高い事業を営む法人の中から都道府県知事が指定する(国民保護法第2条第2項)ことになっている。指定地方公共機関には,各都道府県を放送対象地域とする民放事業者が対象となることが国会審議で明らかにされており,指定された民放事業者は,指定公共機関と同様に,放送の責務などを負うことになる。

東郷荘司