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英Ofcom,第2回PSBレビューを発表
~デジタル完全移行後のPSBを新提案~

イギリスの放送と通信を規制監督するOfcom(Office of Communications)は9月30日,公共サービス放送レビュー(以下PSBレビューと呼ぶ)の第2回報告書を発表した。イギリスでは,地上テレビ放送事業者は,電波の希少性に基づき,地上波の優先的な割り当てやマストキャリー規則などの特権を得る見返りに,さまざまな公共サービス放送の義務を課せられてきた。Ofcomは,アナログ時代に作られたこのPSBモデルが,デジタル放送への完全移行後には崩壊するという可能性を示し,デジタル時代における新しいモデルを模索する中で,受信許可料を財源とするBBCの維持と規制強化,地上商業テレビ放送事業者に課せられた公共サービス放送義務の緩和,公共サービス放送の多元性を維持するため,放送と通信の融合時代に対応した公共サービス提供者の新設などを提案した。

これまでの経緯
PSBレビューは,2003年放送通信法第264条に基づき,OfcomがBBCを含めたイギリスの公共サービス放送の維持と強化を目的とした見直しで,5年ごとに行うことが法律で規定されている。Ofcomは,このレビューを実施するにあたり,作業を3つの段階に区切り,各段階でその結果と提案を報告書にまとめ,国民の意見を求めた上で,最終報告書を政府に提出することとしている。
 Ofcomは2003年11月に検討を開始し,第1回報告書を,2004年4月に発表した。この報告書では,BBCを含めた公共サービス放送事業者の現状の業績を評価し,BBCに対し視聴者獲得競争をやめ,公共サービス放送の最高水準を示す立場を再確認することを求め,真面目なテーマの番組を革新的で独創的な形式で表現し,視聴者をひきつける努力をすべきであるという考えを示した。さらに,Ofcomは,受信許可料がBBCに独占的に割り当てられている現状に疑問を呈し,公共サービス番組を制作することを望む放送事業者や番組制作者のための公的資金の設定などを提案した。この1回目のPSBレビューに対する国民の意見をまとめ,今回の報告書が作成された。

Ofcomの提案の概要
 Ofcomは,報告書でBBCや地上商業テレビ放送のあり方など7つの提案を行っているが,ここでは,BBCならびに新たに構想した「公共サービス提供者」に関する提案を紹介する。
(1)BBC ・ BBCは,公共サービステレビ放送の要であり続けなければならない。効果的で,強力で,独立性を保つBBCは,イギリスの公共サービス放送の健全さにとって不可欠である。BBCの運営は,引き続きテレビ受信許可料によって適切に賄われなければならない。
・ 次期特許状の有効期間は,2016年12月末までの10年間とすべきである。この期間に,デジタル放送へ完全に移行されるが,特許状の有効期間の半ばにあたる2011年に,公共サービス放送の目的と性格にかんがみ,BBCの役割や財源を詳細に検討すべきである。
・ 長期的な視野で,BBCの財源モデルを検討することは重要である。政府は,BBCが将来,サービスを拡大するような場合には,その財源として限定的な有料サービスによる補完財源を確保することを検討すべきである。BBCは,2011年の中間見直しで,限定的な有料サービスの導入について検討した報告書を提出しなければならない。

(2)公共サービス提供者の新設 ・ デジタル時代には,地上商業テレビ放送事業者が競争に直面し,公共サービス放送を維持することに多くの困難を抱えている。BBCには,危機にさらされる公共サービス番組の提供を一層行う責任が生じるが,イギリスの放送全体で公共サービス放送の多元性を確保するために,公的資金による新サービスとそれを提供する事業体,公共サービス提供者(PSP:Public Service Publisher)の存在が必要である。
・ PSPは,公共性を持ったコンテンツの制作を発注し,配信する新サービスを立ち上げ,従来の地上,衛星,ケーブルといった伝送路と同様にブロードバンドや携帯電話など新しいデジタル伝送路で,そのサービスを提供することが期待される。
・ 番組制作には公的資金を充て,革新的なコンテンツの創造を促進する。PSPの拠点は,ロンドン以外に置き,制作委託先は,全国の地方都市にある民間の独立番組プロダクションとすべきである。
・ PSPは,サービス内容の質と事業計画を基に,競争入札制で選ばれる。ITVやチャンネル4など既存の地上商業テレビ放送事業者や衛星放送のBSkyBはこの入札から締め出されないが,BBCは参加できない。
・ 新たな公的資金の財源は,一般的な税金,受信許可料の一部(この場合,受信許可料額はBBCの活動を賄う以上に設定すること),イギリスの放送事業者の収入に対して課される税金の3つが考えられる。
Ofcomは,これらの提案に対し,11月24日まで広く一般の意見を受け付け,年内に最終報告書を政府に提出する。

第2回PSBレビューへの反応
政府は,来年初頭に,BBCの将来に関するグリーン・ペーパー(たたき台)を提出する予定であるが,このOfcomによるPSBレビューは,政府の考えに大きな影響を与えるものである。BBCは,Ofcomが今回,次期特許状の期間,BBCが受信許可料を財源として,イギリスの公共サービス放送の要であり続けるべきだと,明確に提案したことを歓迎したが,「長期的な視野で検討する公共サービス放送の多元性の確保については,今後協議すべき複雑な問題を提起している」とコメントするに留めた。
 一方,新聞各紙は,「BBCと競う新しい公共サービスチャンネルに3億ポンド必要」(The Independent 04.10.1)や「Ofcom,BBCと競う新しい公共サービステレビチャンネルを提案」(MediaGuardian.co.uk 04.9.30)と,PSPに注目した見出しで報じた。80年代後半以後,BBCを含めた放送の将来を検討する中で,公共サービス放送の提供手段として,公共サービス番組の制作に割り当てられる公共サービス放送基金の設置などが議論されてきたが,今回Ofcomが,放送と通信が融合する中で,PSPという概念で,新しい公共サービス事業体構想を提示したことは,積極的な議論を巻き起こすと思われる。

中村美子