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米FCC,「ネット中立性」の新ルールを採択インターネットの運用に強く関与へ

FCC(連邦通信委員会)は2月26日, インターネットをこれまでの規制の緩やかな情報サービス(information service)から, 電話などと同様に,1934年通信法の「タイトルⅡ」と呼ばれる規制の厳しい電気通信サービス(telecommunication service)に再分類する「ネット中立性」ルールの改定案を,5人の委員のうち民主党委員3人の賛成多数で採択した。インターネットの運用に,政府の規制機関が初めて強く関わることになり,賛否両論の声が上がっている。

「ネット中立性」は,インターネット上では特定の事業者やコンテンツに優劣をつけず,全てを平等に扱うべきだとするもの。この考えをめぐっては,VerizonやComcastなど伝送路を提供するISP(Internet Service Provider)と呼ばれる事業者が,自社のブロードバンド網で流すコンテンツの選択権を持つと主張する一方で,GoogleやNetflixなどの大手や中小のネットコンテンツ事業者,消費者団体などが,ISPの“恣意的な選別”に反対していた。

過去にVerizonとFCCの間で争われた裁判では,2014年1月に連邦控訴裁が,FCCは権限を越えてVerizonの事業内容を規制できないとして,FCCが敗訴した。その後FCCは,ISPが特定のコンテンツの配信を拒否したり,スピードを遅くすることは禁じるものの,追加料金を払う事業者には,動画などの大容量コンテンツを優先して配信することを認める改定案を出した。この案についてパブリックコメントを募集したところ370万という大量の意見が集まり,そのほとんどが特定事業者の優遇措置に反対するものだった。さらに2014年11月には,オバマ大統領が「インターネットを電力や電話などと同じく公益事業(public utility)と位置付け,FCCは強い権限で規制すべきだ」と異例の声明を出した。

アメリカにおけるインターネットの将来を左右するものとして注目されたネット中立性の新ルールは,最終的にISPは全ての事業者やコンテンツを平等に扱い,特定の事業者を優遇するいわゆる“高速車線(fast lane)”を作ることなどを禁じる内容となった。この判断についてFCCのT.ウィーラー委員長は「インターネットはISP事業者だけの裁量にゆだねるには,大きすぎる存在となった」と述べた。New York Timesなどによると,FCCは個別の企業の料金体系や技術仕様などには介入しないとしている。

新ルールについて,反対票を投じたFCCのパイ委員(共和党)は「インターネットは自由な競争が活力の源であり,政府の“おせっかい”は投資や技術革新のさまたげになる」と批判した。一方,大小のインターネット事業者で作る団体や市民グループなどは,“高速車線”は資金力のある大企業を優遇するもので,小規模な事業者でもアイデア次第で巨大企業と互角に競えるインターネット最大の特徴を守ることはFCCの役目だとして,今回の決定を歓迎している。

ネット中立性の新しいルールが実際に施行されるのは数か月先になるとみられるが,Veri zonやCo mcastなど大手のISPは,「タイトルⅡ」を定めた法律は80年前のもので現代のインターネットに適用するのはなじまず,新ルールの実効性を問いたいとして,今後,裁判に訴えることが予想される。 

柴田 厚