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香港ATV,給料未払いで存続の危機に

香港の地上テレビATV(Asia Television, 亜洲電視)の経営難が深刻化し,11月の給料の支払いが1か月以上も滞るなど,存続の危機を迎えている。

ATVは1973年に開局した,TVBと並ぶ2大地上商業テレビ局で,現在はアナログで広東語と英語の2チャンネル,デジタルでHDを含む6チャンネルの無料放送を実施している。

しかし,近年はTVBに視聴率で大きく水をあけられて経営難に陥り,その救済を図った中国本土系の財界人や企業が株式を所有することで,番組内容の親中色が強まり,香港人の一層の離反を招く悪循環となった。その後,2010年には中国本土の実業家の王おうせい征氏が経営権を取得したが,2011年7月にATVが江沢民元国家主席の死去を伝える誤報を流した際に,王氏が報道現場に誤った情報を伝えて報道するよう圧力をかけたとの見方が流れるなど,香港人の間でATVに対する信用は一段と落ち込んだ。

そして2014年には運転資金にも事欠くようになり,700人以上の従業員に対して9月分の給料が20日間以上遅配となった上,11月分の給料合わせて約1,500万香港ドル(約2億3,000万円)は12月末になっても払われず,既に数十人の従業員が退職している。

また,2015年末で切れるATVの地上テレビ免許についても規制機関のCA(放送通信業務管理庁)はこれまでのATVの運営上の諸問題に鑑みて,香港政府に対し更新を認めないよう提言する方針とされている。こうした中,ATVの経営陣は,株式の新たな引受先を探すのにやっきとなっているが,1月5日現在,経営権移譲のめどは立っていない。

山田賢一