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米「ネット中立性」議論で,オバマ大統領が“強い規制”をFCCに要望

インターネット上で提供されるコンテンツを平等に扱うべきとする「ネット中立性」のあり方についてFCC(連邦通信委員会)が新たなルール作りを目指す中,オバマ大統領は11月10日,「インターネットを電力や電話などと同じく公益事業(public utility)と位置付け,FCCは強い権限で規制すべきだ」とする談話を出した。Netflixなどのコンテンツ事業者や市民団体が歓迎する一方で,VerizonやComcastなど伝送路を提供するネット事業者は強く反発しており,FCCが最終的にどのようなルールを示すか注目される。

ネット中立性をめぐっては,Verizonなどが自社のブロードバンドで流すコンテンツの選択権を持つと主張する一方,FCCはネット上では全てのコンテンツは平等に扱われるべきだとして裁判で争っていた。2014年1月のワシントン控訴裁判所の判決では,FCCはインターネットを強く規制する立場にはなく権限を逸脱しているとして,FCCが敗訴した。その後,FCCは5月に新たなルール案を出し,その中でネット事業者が特定のコンテンツの配信を拒否したり,スピードを遅くしたりすることは禁じるものの,追加料金を払うコンテンツ事業者には動画などの大容量コンテンツを安定して配信する優遇措置を与えることを認めた。これに対してパブリックコメントを募集したところ,全米から370万という大量の意見が集まり,多くは特定の企業を優遇するFCCの新ルール案に批判的だった。

FCCにより強い「ネット中立性」ルールを求めているのは,NetflixやAmazonをはじめとする大小のインターネット・コンテンツ事業者や民主党議員,さらにメディアを監視する市民団体などで,彼らは有料の優先配信が認められると,資金力のある企業が優遇され,小規模な事業者でもアイデア次第で大企業と互角に競えるインターネット最大の長所が損なわれてしまうとしている。一方,FCCの強いルール作りに反対しているのは,VerizonやAT&T,Comcastなどの通信やケーブルのネット事業者や共和党議員などで,彼らはインターネットはこれまで政府の介入がなく“市場原理”で運営されてきたことが最大の魅力であると主張し,80年前にできた「1934年通信法」を現代のインターネットに適用することは時代錯誤だと批判している。

オバマ大統領はコメントの中で,インターネット(有線,無線ともに)はすでに重要な社会インフラとなっているため,通信事業などと同じように,1934年通信法の“タイトルⅡ”に指定し,平等に運用されて利用者の間に格差が生じないようFCCの規制下におくべきだとしている。同時にオバマ氏は,新しいルール内容は独立した規制機関であるFCCが決定するものであるとも述べたが,FCCの現委員長のウィーラー氏はオバマ大統領が指名した人物であり,大統領の発言は大きな影響力を持つとみられている。

ウィーラー委員長は当初,2014年中に新ルールを決定するとしていたが,オバマ発言で修正を余儀なくされたことから,発表は年を越すとみられる。新ルールが発表されれば,いずれにしても裁判に持ち込まれる可能性が極めて高いと委員長自身が認めており,FCCの新しい「ネット中立性」ルールがどのような内容になるのかが注目される。

柴田 厚