メディアフォーカス

大災害時のソーシャルメディア・IT活用を議論

~「クライシス・マッパーズ」世界会議開催~

東日本大震災では,ツイッターなどソーシャルメディアが果たした役割が注目されたが,大災害時に,ソーシャルメディアやITを活用し,被災地の状況をデジタル地図に表示する活動を行っている世界各地のボランティアが一堂に集まる会議が,11月20日から3日間,アフリカのケニアで開かれた。会議では,ソーシャルメディア情報の信頼性やビッグデータ利用の課題などが話し合われた。

会議は,災害による避難民支援などを行うUN-HABITAT(国連人間居住計画)などが開いたもので,会場の国連ナイロビ事務所には,ボランティアグループ「クライシス・マッパーズ」のメンバーを中心に,IT 技術者や研究者,人道支援の専門家,国連の防災対応機関の職員など,世界各地から約200人が集まった。

クライシス・マッパーズは,災害が起きた際に,被災地からのツイッターによる投稿や携帯電話による写真などを位置情報とともにデジタル地図に整理して表示する活動を行っている世界各地のボランティアのネットワークで,2013年12月現在6,800人余りが登録されている。

会議の冒頭,クライシス・マッパーズ設立者の1人パトリック・メイヤー氏は「5年前に米国で10人程度の規模で集まろうというフェイスブックメッセージからスタートしたグループがまたたくまに発展した」と,仲間内で始まったグループが世界的なネットワークへと急速に拡大している現状に驚きの気持ちを述べた。

会議の基調講演を行う予定だったUNOCHA(国連人道問題調整事務所)のアンドレ・ベリティ氏は,台風30号による災害対応のため急きょフィリピンに派遣され,テレビ電話での参加になった。この中で,ベリティ氏は,ツイッターのメッセージや被害状況の写真などが時系列で地図上にわかりやすく表示されるので,被災者の救助・救援活動のために積極的に活用していると述べ,クライシス・マッパーズの協力を得たことで,情報収集の方法や情報共有のあり方が大きく変わったことを紹介した。

また,会議では,ソーシャルメディアやITを活用した様々な事例紹介が行われた。この中では,ケニアで2013年9月に起きたショッピングセンターでのテロ事件の際の情報収集にソーシャルメディアが役立てられたことが報告された他,国際NGOの「Internews」からの参加者が,災害直後の停電やインターネットの繋がらない環境下で,紙とペンで集めた情報をデジタルデータ化する新たな装置を開発中であり,技術協力を求めたいと呼びかけた。

●ソーシャルメディア情報の信頼性

会議では,ソーシャルメディアの信頼性について多くの議論が交わされた。このうち,ケニア赤十字やIBMケニア,NGOのメンバーらによるパネルディスカッションでは,「複数のツイートが同じ地域から発信されていることや,『百聞は一見にしかず』で写真がアップロードされていることが情報の真偽を判断するための材料となる」,「ソーシャルメディアの信頼性のみがクローズアップされているが,ニューヨーク市の911番通報(日本の110番)でも年間1,000万件余りの緊急通報のうち,38%が誤情報であり,確認作業に多くの時間を費やしている。ソーシャルメディアも確認を行えば信頼性は担保できる」などの意見が聞かれた。また,台湾の市民グループ「GEOTHINGS」の代表が,台湾の政府や軍隊など公的機関からの情報,NGOからの情報は信用できるとして地図上に表示するが,そのほかの情報は,NGOが全国に持っているボランティアに確認作業を依頼し,確認が取れたものからマッピングする仕組みづくりを進めていると報告した。

さらに,いわゆるビッグデータについて,スイスに本部を置く市民団体「ICT4PeaceFoundation」のメンバーやカリフォルニア大学バークレー校の研究者などがパネルディスカッションを行い,ほんの数年前まではいかに多くのデータを集めるのかに焦点が当てられていたが,実際は「ビッグ」を目指すのではなく,多くのデータの中から本当に有用な情報を取捨選択し,その「スモール」データを分析することが重要だとの認識が示された。

●草の根からグローバルな連携へ

災害時におけるソーシャルメディアの活用については,公的機関より先に草の根の取り組みとして始まった。ケニア発の情報集約サイト「ウシャヒディ(Ushahidi:スワヒリ語で『証言』『目撃者』の意味)」はその先駆者として知られている。ウシャヒディは,2007年のケニア大統領選挙の不正疑惑の後,報道規制が敷かれた中,2人のIT 技術者が,市民からのeメールや,ツイッターメッセージなどを集約して,地図上にビジュアルに表示するソフトを開発し,暴動の様子などを明らかにしたことで注目された。このソフトが,2010年のハイチ地震や,2011年のニュージーランド・クライストチャーチの地震など,世界各地の災害などで人命救助にあたる政府や国際機関に使われるようになった。

ウシャヒディのソフトは,東日本大震災でも「sinsai.info」というサイトで活用され,被災地の様子や被災者の安否情報などを掲示し,世界130カ国からアクセスがあった。

このウシャヒディで地図データの収集・整理を担当してきたパトリック・メイヤー氏が2009年に立ち上げたのが,「クライシス・マッパーズ」である。

パトリック・メイヤー氏は,クライシス・マッパーズの活動について「かつては外国の災害をテレビで見て何かしたいと思っていてもできることは限られていた。今はデジタル技術を生かし,被災地に直接役に立つ『情報提供』という国際協力を行うことができる。アフリカには“It takes a village”(村全体で取り組もう)という言葉があるが,大災害が起きた時には地球村全体で助け合うことが必要だ」と,被災者支援には,市民グループと各国政府や国連など公的機関によるグローバルな連携が重要だと述べた。

国連事務所での会議には,米国務省,グーグル社などが協力者として名を連ね,クライシス・マッパーズの活動が国際的に注目され,公的機関や大企業も連携を模索していることを象徴的に表していた。2014年の会議は,グーグル社のニューヨーク本社で開かれる。

 

田中孝宜