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米エアリオ社のコンテンツ配信サービス勝訴で強まるテレビ局の反発

ニューヨークの連邦控訴裁判所は4月1日,地上テレビ放送をインターネットで配信するエアリオ(Aereo)社のサービスは著作権法違反にはあたらないとして,配信中止を求めるテレビ局側の請求を却下した。2012年7月のニューヨーク連邦地裁に続くエアリオ側の勝訴に,FOXなどのネットワークは地上放送をやめて有料のケーブルサービスに転換することも辞さないとして,反発を強めている。

エアリオは2012年2月に事業を開始。月額8ドルで契約者に小型のアンテナを配布し,インターネット経由で4大ネットワークやスペイン語放送など30チャンネルをパソコンやモバイル端末で視聴できるもので,録画も可能。現在はニューヨーク市のみでサービスを行っているが,ケーブルテレビの高額な利用料金や見ないチャンネルもセットで加入しなくてはならない契約形態を嫌う利用者の支持を集め,今後の事業エリア拡大を目指している。これに対して,テレビのFOXやPBS,映画の20世紀FOXなど7社は,エアリオのサービスは「我々のコンテンツを対価を支払うことなく盗んでいるもので,見過ごすことはできない」として裁判所に配信の差し止めを求めた。しかし,控訴審は「同社のサービスは,料金を支払わなければならない“public performance(興業,公演)”にはあたらず,著
作権法には違反していない」として,3人の判事が2対1で前年の地裁の判断を支持した。

判決を受けてFOXの親会社ニューズ・コープのチェイス・キャリー最高執行責任者(COO)は,「コンテンツ制作にはお金がかかる。エアリオに対抗するため,地上放送をやめて,ケーブルのみに配信する可能性もある」と述べ,米国最大のスペイン語放送ネットワークUnivisionやCBSもそれに追随する考えを示した。

背景には,地上放送の番組をケーブル事業者や衛星事業者に配信する際に受け取る多額の「再送信料」がある。年間数十億ドルに上る再送信料は,広告収入とともにテレビ局の収入の重要な柱となっている。エアリオやそれに似た視聴が普及すると,チャンネル数は限られても安価なサービスを求める人がケーブルテレビや衛星放送の契約を解除し,地上テレビ側が受け取る再送信料に影響して,ビジネスモデルそのものが成り立たなくなるという懸念がある。最近ではインターネットの普及で多様な動画配信サービスが人気を集め,Netflixの契約者数は2,800万に達し,Huluはこの1年間で倍の400万に増加した。

テレビ局の反応に対してエアリオは,「我々は視聴者が無料の地上放送にアクセスできる最も簡単で便利な方法を提供している。視聴者が無料放送を受けるためにアンテナを使うべきでないというFOXの発言には失望した。今でも5,000万のアメリカ人がアンテナ経由でテレビを見ている」と述べた。

FOX 幹部のケーブルへの移行発言は現実的ではなく,世論や裁判への影響を考えたものとみられている。エアリオは2013年中に,全米22の都市に事業を拡大する計画で,まず5月にボストンでサービスを開始する。CBSなどテレビ局側は新たな訴訟を準備しており,関係者は争いは最高裁まで続くと見ている。この問題は,テレビ放送のあり方そのものや,将来のビジネスモデルにも影響を与えかねないだけに今後の展開が注目される。 

柴田 厚