メディアフォーカス

台湾,旺旺がりんご日報などの買収を断念

台湾でメディア事業拡大を進める旺旺グループが,新聞最大手の1つである台湾りんご日報などの買収に乗り出していた問題で,旺旺は3月27日,買収断念を表明した。この中で旺旺は,国民党の馬英九政権を批判すると共に,買収の審査に当たっている公平交易委員会が旺旺を侮辱する付帯条件を付ける可能性があるなどとしている。

もともと食品事業者である旺旺は,1992年から中国市場に進出して多額の利益を上げていたが,2008年に台湾のメディア事業に進出,中国テレビ・中天テレビを傘下に持つ中国時報グループを買収してクロスメディア所有の一大メディアグループとなった。買収後,傘下のメディアで中国を褒めたたえる記事が急増したとして,メディアNGOなどから懸念の声が上がっていたが,旺旺はその後も2010年にケーブルテレビ大手の中嘉網路買収で合意するなど,拡大路線を走った。そして2012年11月,こうした旺旺による「メディア集中」を厳しく批判していたライバル紙のりんご日報グループのうち,活字部門(りんご日報・爽報・壹週刊)を160億元(約510億円)の巨額で買収することで合意した。

これに対しメディアNGOの間では「反メディア独占」を求める声が高まり,政府に対して「旺旺によるりんご日報グループ買収の不許可」と「メディア集中規制法の制定」を要求,野党民進党が1月に「反メディア独占」を3 大スローガンの1つとして実施したデモには10万人の市民が参加した。

こうした動きに対して政府は,公正交易委員会が消費者利益の観点から買収事案の審査に乗り出す一方,独立規制機関の国家通信放送委員会(NCC)が2013年2月に「メディア独占禁止法」の草案を公表した。この法案では,閲読率が10%以上の新聞や雑誌メディアは放送局を買収できないなど,詳細な数値規制が盛り込まれた他,現在,こうした基準を超過する事業者については2年以内に株式を処分するよう求め,満たせない場合は罰金も科すとしており,そのまま通過すれば旺旺のメディア事業拡大にも影響が出ることは必至だった。

こうした中,旺旺がりんご日報グループ買収を断念したのは,この問題に関する世論の厳しい声が,旺旺グループ全体の運営に影響することを懸念したとの見方が出ている。

一方,売り手側で香港りんご日報の黎智英オーナーは3月26日,社内の会合で,台湾りんご日報グループの売却問題について,大赤字の状態にある壹テレビを売却する方針は変えないものの,活字部門のりんご日報などについては売却を撤回する方針を示した。りんご日報は旺旺への売却合意が伝えられた後,「タブーなき報道」というそれまでの紙面が微妙に変化したとされ,1日の発行部数も50万部から40万部へと大幅に落ち込んでいた。

旺旺がりんご日報グループ買収を断念したことについて,ジャーナリスト団体である台湾新聞記者協会の陳暁宜会長は,「台湾の市民社会の間にはメディア独占反対というコンセンサスがあるので,旺旺には中嘉網路の買収も即時撤回するよう求める」と述べた。

台湾では中国との経済関係が深まる中で,旺旺以外の既存メディアでも「中国を褒めたたえる報道」が増えているとされるが,今回の買収失敗が台湾のメディア環境にどういった影響を与えるか注目される。

山田賢一