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津波警報・NHKが強い口調で避難呼びかけ

2012年12月7日午後5 時過ぎ,宮城県三陸沖を震源とするマグニチュード7.3の地震があり,東北から関東にかけて,震度5弱の強い揺れを観測した。この地震で,気象庁は津波警報を宮城県に,津波注意報を青森県太平洋沿岸,岩手県,福島県,茨城県に出した。

NHKは,緊急地震速報の後,テレビ・ラジオの番組を順次中断し,災害報道に切り替えた。津波警報が発表されると,アナウンサーは,「東日本大震災を思い出して下さい。命を守るために一刻も早く逃げて下さい」,「決して立ち止まったり,引き返したりしないで下さい」などと,切迫感のある,強い口調で繰り返し避難を呼びかけた。また,津波の予想高さを伝える際に,これまでは「津波は急に高くなることがあります」と表現していたが,「急に高くなります」といった断定調の表現も使った。

NHKは,津波警報や大津波警報発表時には,視聴者に冷静な行動をしてもらうため,従来は落ち着いたトーンで,避難の呼びかけをしていた。

しかし,東日本大震災を契機に,津波災害の危機感を視聴者により強く伝え,一人でも多くの人に逃げてもらうよう,避難を呼びかける表現を切迫感のある強い口調や命令調,断定調に改めた(2011年11月)。今回の津波警報で初めて,そうした表現を使った。

テレビ画面の視覚情報も変わった。従来は,図や字幕で,警報が出ている予報区や予報区ごとの到達予想時刻など事実関係のデータをもっぱら表示していたのだが,今回は直接,避難を呼びかける「津波!避難!」という赤地に白い文字の大きなテロップを出し続けた。ワンセグでも見やすいように目立つサイズとした。

切迫感のある強い口調や字幕は,避難を強く促すとともに,放送を視聴した人達に地域の率先避難者になってもらうことを目指している。このため,放送では「情報はラジオやワンセグでも入手できます」,「まわりの人にも避難を呼びかけながら,どうぞ逃げて下さい」と何度もアナウンスした。

NHKによると,視聴者の反応は,概ね肯定的な意見が多いが,「東日本大震災を思い出して下さい」という表現には,「不快」,「怖い」といった声もあった。NHKの石田研一放送総局長は定例会見(2012年12月19日)で,「基本的に津波警報発表時には,人命を最優先に強い調子で呼びかけるという考え方は変わらない」とした上で,「具体的な表現の仕方については,今後,変える必要があるかどうか検討する」と述べた。

在京の民放キー局では,TBSが「東日本大震災を思い出して下さい」と繰り返しアナウンスし,「沿岸部や海岸にいる人はただちに高台または避難ビルに指定された建物など安全な場所に避難して下さい」などと呼びかけ続けた。テレビ画面の視覚情報では,「ただちに高台に避難を!」などの字幕を表示した。テレビ朝日も,同様の文言の字幕を使って,避難を呼びかけた。

東日本大震災以降,大津波警報や津波警報発表時には,防災行政無線で「避難せよ」と命令調の呼びかけをするようマニュアルを改めた自治体もある。強い口調や命令調,断定調による呼びかけが,危急時のコミュニケーションとして存在感を増しつつあるようだ。

福長秀彦