メディアフォーカス

英レベソン調査報告書発表,法的支援による新たな報道自主規制機関の設立を提言

イギリスのレベソン判事は,1年余に及ぶ報道倫理をめぐる調査を終え,昨年(2012年)11月29日に報告書「新聞界の文化,慣行,倫理に関する調査」を公表した。この調査は,ルパート・マードック氏が所有するNews International傘下のthe News of the World紙(すでに廃刊)が,2002年に誘拐・殺害された少女の携帯電話を盗聴していたことが暴露され,この違法行為に対する国民の激しい憤りと嫌悪が口火となった。キャメロン首相は,2011年7月に調査に乗り出すことを明らかにし,レベソン判事とその調査チームに対し電話盗聴事件における新聞と警察の関係を徹底調査し,メディア全体という視野ではなく,新聞・出版における業界文化や倫理を主要テーマに,再発防止のための規制の在り方を検討し提言することを付託した。

調査開始当初から,電話盗聴の告発が厳格に調査されなかった背景にある新聞界と警察の癒着や,News Internationalによる衛星放送事業者のBSkyBの完全買収を許可する権限を持つメディア担当相や首相とNews Internationalの親密な関係が次々と明らかにされた。新聞界への批判が強まるなか,レベソン判事が,これまで通り新聞界の自主規制を維持するのか,それとも新聞にも放送と同様に法律で独立規制機関を設けることを提言するのか,その結論が注目されていた。

レベソン判事の選択は,両者を組み合わせたものといえる。判事は,既存の自主規制機関であるPCC(Press Complaints Commission)を廃止し,業界による実効性のある自主規制機関を新たに設けること,そしてその機関の任務遂行を監督する法定機関を設置することを求めた。そして,この法定機関の独立性,透明性,公開性を保障するため,運営資金は業界から拠出され,委員の選出は政治家および業界からの影響を排する独立した仕組みを導入すること,また,報道被害者を救済するための制度を導入し,報道倫理違反に対し一定の罰金(最大100万ポンド)を科す権限を有することを提言した。さらに,この法律には,政府が報道の自由を保障する義務を負うことを歴史上初めて明文化することも提言している。

この提言に対し,新聞編集者や経営者の代表らは断固反対の意見を主張する一方,大学教授を中心に発足した報道被害者を代表するHacked Offグループは,レベソン提言に沿って,新聞改革を行うべきであるとキャンペーンを展開し,独自の草案を作成し意見募集を行うとみられる。また,野党労働党と連合政府内の自由民主党は法定機関の設置を支持し,労働党は12月上旬に「Press Freedom and Trust Bill」(草案)を公表している。キャメロン首相は報告書の発表当日,自主規制機関を支援する法定機関の設置には消極的な姿勢を示し,既存のPCCにレベソンの主張を反映した自主規制機関への転換を強く促していた。しかし,首相官邸では,公共放送のBBCのように有効期限のある特許状によって規制機関を設立することが検討されていると報道され,与野党による協議が行われる模様である。一方,機能不全と批判にさらされたPCC自身は,現在のPCCの廃止を決め,前労働党政府で初代のメディア相を務めたクリス・スミス氏など3人を特別顧問に委嘱し,新たな自主規制機関の設立に向けた準備を進めている。

中村美子