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英BBCエントウィッスル会長,誤報で引責辞任

BBC2の報道番組『ニューズナイト』で,保守党の元有力議員がかつて児童福祉施設の子どもに性的暴行を行ったと報じられたが,その内容が誤報だとわかり,BBCのエントウィッスル会長が11月10日,責任をとり辞任した。BBCに対しては,元人気司会者,故ジミー・サビル氏の児童性的虐待疑惑を扱った『ニューズナイト』の放送を中止した問題で調査が行われている最中で,相次ぐ不祥事を受け,エントウィッスル会長は,9月の就任からわずか54日でBBCを去ることになった。

辞任の引き金となったのは11月2日放送の『ニューズナイト』で,1980年代に児童福祉施設でサッチャー元首相の側近の元有力議員から性的暴行を受けたという男性の証言を放送した。BBCは元議員の実名を伏せて報道したが,放送後にネット上で名前が特定された元議員は事実無根だと完全否認し,その後,被害者とされる男性も人違いを認め,BBCが番組の中で謝罪した。

BBCが11月12日に公表した内部調査の結果によると,当時,ニューズナイトの制作現場では,サビル疑惑を巡る調査に対応するため,編集責任者が現場から外され指揮命令系統があいまいで,責任の所在がわからないまま放送許可が出されていた。さらに,番組は外部委託で制作されたもので,外部プロダクションの取材スタッフは,放送前に元議員への反論の機会を与えることもせず,極めて稚拙な取材であったことも問題視されている。誤報の賠償金としてBBCは元議員に18万5,000ポンド(2,400万円)を支払うことで合意した。エントウィッスル会長が辞任する直接の原因は今回の誤報だが,その前からサビル疑惑を巡り,BBCの隠ぺい工作の有無やBBCの内部慣行の問題点について,第三者検証委員会が調査を進めており,BBC最大の危機であると指摘されていた。

辞任当日の朝,BBCラジオに出演したエントウィッスル会長は,11月2日の番組について,放送前からネット上で話題になっていたにもかかわらず「外出中で見なかった」と述べ,また人違いの可能性を報じた新聞も読んでいなかったと明かした。さらに,BBCの会長は編集最高責任者(editor in chief)であるにもかかわらず情報を知らなさすぎると追及されたエントウィッスル会長は,全体を把握するにはBBCは大きすぎると発言し,会長としての資質を疑問視する声が一気に高まった。

エントウィッスル会長の辞任を受けて,監督機関BBCトラストは11月22日,元BBC報道局長で現在はロイヤルオペラハウスのCEOを務めるトニー・ホール氏(61)を次期会長に任命した。ホール氏は報道局長時代にデジタル化を推進し,『BBCニュース・オンライン』や『BBCニュース24』などを立ち上げ,かつて会長候補として名前が挙がったこともある。BBCトラスト会長のパッテン氏は,ホール氏が「BBCの文化や内部慣行を理解している」ことが,組織改革を進め,BBCの報道に対する視聴者の信頼回復にあたる上で重要であるとの認識を示した。また,ホール氏は会見で「BBCはイギリスにとって極めて重要な組織である。BBCが世界最高の報道機関であることを保障するために,ベストのチームを結集したい」と決意を語った。ホール氏の就任は2013年3月の予定で,それまでは執行役員の一人ティム・デイビー氏が会長代行を務める。

田中孝宜