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独,公共放送ARDのスマホアプリに違法判決

ドイツのケルン地方裁判所は9月27日,公共放送ARDが提供しているニュース閲覧用のスマートフォン向けアプリケーション“ターゲスシャウ・アプリ”について,公共放送による民業圧迫を防止するための放送法の規定に違反するとの判決を下した。ただし判決は,2011年6月15日に同アプリで提供されたコンテンツに限定したもので,アプリの提供の全面禁止を求めて訴えを起こしていた新聞社にとっては,一部勝利といえる結果となった。

“ターゲスシャウ・アプリ”は,ARDがインターネット上で提供しているニュースポータルサイト“tagesschau.de”のコンテンツをスマートフォンやタブレット型端末で閲覧しやすくするためのもので,ARDはこれを2010年12月から無料で提供し,現在まで約400万回のダウンロードがある。これに対し,アクセル・シュプリンガー社,フランクフルター・アルゲマイネ新聞社,南ドイツ新聞社,WAZメディアグループなど大手新聞・雑誌8社は,2011年6月,受信料を財源として無料で提供されるARDの“ターゲスシャウ・アプリ”は,新聞社の収益機会を奪う不当な民業圧迫であるとして,ケルン地方裁判所に共同で提訴した。新聞社側は,同アプリが,動画や音声よりも文章主体のサービスとなっており,新聞社のサービスと類似しているため放送法に違反すると主張し,アプリの提供を禁止するよう求めた。

ドイツの放送法には,公共放送はインターネットで“番組に関係のない新聞・雑誌類似サービス”を提供してはならない,とする条項がある。ドイツでは2008年12月に,通信と放送の融合が進むメディア環境における公共放送の任務範囲を明確化し,不当な民業圧迫を防止するための放送法改正が行われたが,その際に追加された条項である。ところが,放送法には,“番組に関係がある”とか“新聞・雑誌類似サービス”であるといえるのはどういう場合かについて明確な基準は示されていない。新聞社側は,“ターゲスシャウ・アプリ”が“番組に関係のない新聞・雑誌類似サービス”にあたることは一目瞭然であると主張。一方ARDは,アプリで読めるコンテンツは,ニュース動画や音声にリンクされていたり,放送した内容を文章に書き起こしたものであるから,それには当たらないと主張していた。

ケルン地裁は2011年10月,新聞社側の訴えを不明確だとしていったん棄却し,解決に向けた話し合いをするよう双方に促した。新聞社側とARDはその後交渉を続けてきたが,決裂。新聞社側は2012年4月,再度同地裁に提訴を行ったが,今度は2011年6月15日のアプリのコンテンツを例に取り上げ,具体的に違法性を証明しようとするものだった。

地裁は9月27日の判決で,2011年6月15日のARDのアプリの内容は,番組との関連性が不明確で,番組を内容的に掘り下げたものと直ちには認識できず,また,文章主体の詳細な記事は,情報量からみて利用者が新聞や雑誌の代わりにできるものであり,全体として新聞・雑誌類似サービスとみなせる,と判断し,新聞社側の訴えを認めた。ただし判決は,アプリの提供自体を禁止するものではない。

ARDは10月25日,ケルン上級地方裁判所に控訴を行ったが,同時に,今後のアプリの形式について,新聞社側と話し合う意向を表明している。

杉内有介