メディアフォーカス

不適切テロップ問題から1年東海テレビの再発防止の取り組み

東海テレビ(本社・名古屋市)が,不適切テロップ問題から1年,2012年8月3日に再発防止に向けたさまざまな取り組みをまとめた冊子を公表した。

不適切テロップ問題は2011年8月4日に,情報番組『ぴーかんテレビ』で,岩手県産米のプレゼント当選者欄に「怪しいお米」「汚染されたお米」「セシウムさん」と書かれたテロップが放送されたもので,東日本大震災5か月後のことで厳しい批判を受け,浅野碩也社長が岩手県に謝罪し,番組は打ち切りとなった。

東海テレビによれば,まず原因究明のために,外部有識者を含めた「検証委員会」を設置して調査した結果,「社会常識に欠けたテロップ制作者が『ふざけた気持ち』で作成した不謹慎なテロップが,途中のチェックが不十分で放送段階まで残り,未熟な新人タイムキーパーの操作ミスで放送された」ことが直接の原因と判明した。「検証委員会」は事故の背景として,「2008年の世界同時不況以降,売り上げが減少傾向になる中,番組制作費および従業員数を年々削減」する一方,自社番組の放送時間が増えるという実態があり,「これら相反するミッションを同時に推進することを盛り込んだ経営計画そのものが現場を疲弊させ,問題を誘発する要因になっていた」と指摘した。「検証委員会」は再発防止の具体策を検討する「再生委員会」の設置を提言し,「再生委員会」は11年11月に答申書を東海テレビに提出した。

答申の概要は,

  • 放送倫理を徹底し,放送人教育制度を改善する。
  • 従業員や派遣スタッフと定期的に面談するなど職場コミュニケーションを活性化させる。
  • 制作会社との契約にあたってガイドラインを提示するなど契約環境を改善する。
  • コンプライアンス部局を充実させる。
  • 第三者の視点から,番組やイベントが適切に行われているかを点検し,注意喚起や提言を行う「オンブズ東海」を設置する。
  • 経営計画を停止し,新たな計画をつくる。

という内容であった。

東海テレビの再生に向けた取り組みは,概ねこの答申内容にそって行われた。

コンプライアンス部局の充実に関しては,12年1月に独立性の強い「コンプライアンス推進局」が新設された。また,法令違反になるような業務の強要防止や,不正行為があった場合の早期発見のために「内部通報制度」が拡充され,通報しやすい体制が整えられた。

問題を風化させないように8月4日は「放送倫理を考える日」と定められた。

「オンブズ東海」は12年1月に3名の外部有識者による第三者機関として発足し,人権侵害の有無,放送やイベントなどに対する論評や点検,制作者が自らの良心に従って制作することを担保するなどの活動をしている。

利益偏重で安全・安心を軽視した従来の経営計画が中止され,「放送の公共性と放送倫理」に重点を置いた新たな経営計画が策定された。

再発防止に向けた各職場の取り組みとしては,ゆとりある制作体制の確保とチェックの強化,番組作りの総点検,制作ハンドブックの作成,倫理違反や人権侵害を起こさないための対策や教育の実施,契約内容のチェックとイベントの安全性の確保,ライフライン確保のための設備の整備,視聴者の声の社内への効果的なフィードバック,などが行われている。また,東日本大震災の被災地に題材を求める支援番組を積極的に制作し,4本の特別番組を東海地方で放送するなど,東北地方の話題をより多く放送している。

こうした取り組みについて,東海テレビは上智大学教授の音好宏氏に評価を求めている。音氏は,原因を究明する「検証委員会」の外部委員をつとめ,再発防止策を提言した「再生委員会」の委員長をつとめた。音氏は公表された冊子のなかの「第三者意見」で,次のように指摘している。

「取り組みを見る限りでは,再生に向けた制度整備を着実に行っていると言えよう。ただし,それらの制度整備を推進するのとともになされなくてはならない重要なことは,それらの制度整備の意義が,東海テレビの諸活動に関わる全てのスタッフ一人ひとりの心に浸透し,実効性を持った意識改革がなされることである。
検証委員会がその報告書で,また,再生委員会が答申で指摘したように,『ぴーかんテレビ』不適切テロップ問題の背景にあったのは,職場におけるコミュニケーション不全であった。その意味において,スタッフ一人ひとりの内側からの職場改革が肝要にもかかわらず,その進捗はまだ緒についたばかりと言わざるを得ない。
東海テレビの再生は,まだ道半ばであり,再生に向けた一層の努力が求められる」

奥田良胤