メディアフォーカス

2012ロンドン五輪,インターネットなど多様な視聴形態で世界的に視聴者が増加

7月27日から8月12日まで行われたロンドン五輪は,これまでのテレビ・ラジオに加え本格的なインターネット配信が行われた初の大会となり,世界各国で多くの視聴者が多様なメディアで五輪にアクセスした。

開催国イギリスでは,公共放送BBCが五輪放送を担当し,人口の90%にあたる5,190万人が,少なくとも15分以上視聴した。これは,2002年のサッカー・ワールドカップの81%を超えるもので,BBC1の責任者ダニー・コーエン氏は,「イギリス選手団の活躍が人々の大きな関心を呼び,勢いをもたらした。アナログ時代を入れてもテレビ史上,最多の視聴者数だった」と述べた。

BBCでは, 五輪放送を,BBC1,BBC3,BBC HD,BBC1 HD及びラジオで行った。BBC1は,朝6時から深夜1時まで,ニュースの時間帯以外はオリンピック関連一色の編成となった。また,双方向デジタルサービスを使って,視聴者が好きな競技種目を選んで視聴できるよう,24本のライブストリーミング配信を行った。このサービスは,人口の42%にあたる2,420万人が利用したという。

BBCのホームページにも多くのアクセスがあった。BBCスポーツのウェブサイトには,五輪期間中,世界から5,500万のアクセスがあり,動画の視聴回数は1億600万回に上った。また,スマートフォンでBBCの五輪情報をチェックするため,200万人近くの人がBBC の五輪アプリをダウンロードした。BBC1のコーエン氏は,「デジタル環境でのBBCと視聴者との関係を築く上で,真の突破口となった」と,ロンドン五輪が,BBCにとってデジタル時代を切り開く絶好の機会になったと総括した。

アメリカでは,独占放送権を持つNBCが「総人口の3分の2にあたる2億1,940万人が五輪放送を視聴し,アメリカのテレビ史上最も視聴されたイベントだった」と明らかにした。プライムタイムの平均視聴者数は3,110万で,米国以外で行われた五輪としては過去36年で最多となった。

今回の特徴として,オンライン配信の大幅な拡充と,多様な手段によるアクセスの増加がある。NBCは,自社の有料放送サービス加入者向けという条件付きながら,26全ての競技をインターネットでライブストリーミング配信し,総時間は3,500時間に上った。ダウンロード数は計1億5,400万回に及び,このうち6,300万回はライブで視聴された。

一方,開会式やボルト選手の陸上競技などの人気種目は,アメリカの夜のプライムタイムに合わせて地上波で録画放送され,ツイッターなどのSNS利用者から批判を受けた。SNSで競技結果がいち早く拡散されるにもかかわらず,生中継で伝えないNBCの方針が批判された形だが,一方でツイッターなどの速報が新たな視聴者を呼び込み,プライムタイムでの高視聴率に結びついた面もある。ツイッター社によると,オリンピック関係の「つぶやき」は5,000万を超えており,放送とSNSの相乗効果がうかがえるとしている。ピューリサーチセンターの調査では,76%の国民がNBCの放送に満足したという結果が出ている。

フランスは,開催地争いではパリがロンドンに敗れたが,時差がほとんどないことやフランス人選手の活躍もあって五輪観戦は盛り上がり,テレビ中継の視聴シェアは高かった。

開会式と閉会式は商業放送のTF1が中継したが,競技は公共放送フランステレビジョンが放送した。France2とFrance3の主に2つのチャンネルを使って連日午前10時から深夜2時まで放送され,放送時間は延べ300時間を超えた。4,000万人のフランス人が少なくとも1日1時間,五輪放送を見た。視聴シェアが高かったのは,ボルト選手が優勝した陸上100m決勝の56.7%,フランスが金メダルを獲得したハンドボール決勝の54.7%などで,平均では33.2%だった。フランステレビジョンは,インターネットのポータルサイトにも競技の映像を流し,2週間の開催期間中延べ2,000万件のアクセスがあった。

ドイツでは,五輪のテレビ中継は公共放送のARDとZDFが協力し,1日交代で行うのが慣例で,今回もそのように行われた。1日の平均視聴者数は,ARDの放送日で335万人,ZDFでは352万人で,8月7日の男子円盤投げ決勝は1,030万人が視聴し,大会期間中で最多となった。またARDとZDFは,前大会まで行っていた専門チャンネルによる補完的な中継は行わず,代わりにインターネットによる中継に力を入れた。両局が協力して制作する6チャンネルのライブストリーミング配信が,延べ900時間行われ,ARDのポータルサイトでは大会を通して3,240万回,ZDFでは1日200万回以上視聴された。

中国では,独占放送権を持つ中国中央テレビ(CCTV)が期間中,総合・スポーツ・HD・3D試験放送など8つのチャンネルで1,900時間を超す五輪関係の番組を放送した。五輪種目の多くが中国時間では深夜の予定だったことから,CCTVでは組織委員会と交渉し,中国人の関心が高い卓球,バドミントン,飛び込み,バレーボールなど10数種目の競技について実施時間を変更させた。その結果,8月9日段階で,五輪番組の視聴シェアは31.27%を記録した。一方,ネットや携帯向けについてはCCTV系列の中国ネットテレビ(CNTV)が担当し,「スポーツの星」「オリンピック日記」「オリンピック記者団」など独自制作のコンテンツを含めると総計は5,600時間に達した。

スマートフォンやタブレット端末などが普及している韓国では,地上放送よりもむしろ,インターネットを経由しての視聴に人気があった。インターネットの五輪番組は,生中継や見どころをまとめた特集を提供するポータルサイトや,Nスクリーン(異なる複数の機器で同じコンテンツを利用できるサービス)のVODなどに人気が集まり,ポータルサイト最大手のネイバーは五輪が始まってから訪問者が3 倍に増えた。地上放送については,五輪を中継した地上放送3社のうち,視聴率競争は,KBSとSBSに軍配が上がった。韓国の視聴率調査会社TNmSによると,KBS2が7.5%で視聴率が最も高く,SBS(6.5%),KBS1(5.7%),MBC(5.2%)と続いた。KBSの視聴率が高かった理由としては,アーチェリー,体操など,好成績を上げた種目が多かったことが挙げられる。期間中,KBSは計2万240分(337時間20分)の中継を実施した。

一方,北朝鮮でも五輪番組は人々の関心を引いた。開幕当初,北朝鮮のテレビ局は1日15分程度しか放送しなかったが,北朝鮮の選手が女子柔道や重量挙げで金メダルを獲得すると時間を大幅に増やし,連日5時間の放送を行った。

田中孝宜,柴田厚,新田哲郎,杉内有介,山田賢一,田中則広