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情報公開法制定をめぐって揺れるブラジル議会

ブラジルでは,政府や公的機関に情報の公開を義務付け,国民による情報の入手を保障するための情報公開法(Lei Geral de Acesso à Informação)の制定に向けて国会で審議が行われているが,一部の情報の非公開期間をめぐって議論が紛糾し,法成立の目途が立たない状態となっている。

ブラジルでは,民政移管後の1988年に制定された憲法で「すべての国民が公的機関の情報を法で定められた期間内に入手する権利を持つ」と規定されているが,実際には政府機関の情報を入手しようとしても煩雑な手続きなどにより入手が難しい状態となっている。

こうした状況下,ブラジル初の左派政権を率いたルーラ前大統領は2009年,政府機関の情報公開を実現させるべく情報公開法案を下院に提出した。法案は情報を「極秘」「秘密」「取扱注意」「制限なし」に分類し,市民らによる情報入手を保障するために公的機関が順守すべき手順や,情報を入手するための手続きなどを規定している。

この法案で論議を呼んでいるのは情報の公開に制限を設けるか否かで,政府案では「極秘」に相当する文書については非公開期間を25年とし,場合によって無期限に延長することができるとされた。これに対し下院は2010年,非公開期間の無期限延長をなくすこととし,延長を1回に限って認めるとする改正案を可決した。これにより文書の非公開期間は最大で50年までに改められた。

その後,法案は上院に回され,当初は今年の5月初旬に可決・成立することが見込まれていた。

ところが,上院では今年の4月以降,かつて大統領職にあった中道系の有力上院議員2人が相次いで極秘文書の公開に反対を表明したことから議論が紛糾し始めた。元大統領らは,一部の極秘文書を公開すると近隣諸国との外交問題に発展しかねず,国家の安全保障をおびやかすことになりかねないと主張し,19世紀のいわゆるパラグアイ戦争などでブラジルに帰属することが決まった領土などをめぐって外交問題が生じかねないなどとしている。

元大統領らの反対については,かつての自らの政権下の問題を明らかにされたくないのではないかという声も上がったが,元大統領らは自らの政権時の情報の公開には反対しないとの立場を表明している。こうした動きを受け,それまで情報公開に積極的だったルセフ現大統領が立場を二転三転させたことから混乱がいっそう深まることになった。

情報公開法によってあまねく情報の公開が実現すれば,かつての軍事独裁政権下での人権抑圧や不正に関する記録が公開されるのではないかとも期待されており,左派の与党・労働者党やブラジル新聞協会などのマスコミ団体は,一部の情報を無期限に非公開にすることは民主主義に反するとの立場をとっている。

1980年代にいたるまで多くの国々で軍事政権が続いた中南米諸国では,この十年ほどで情報公開法制定の動きが広がり始め,これまで10か国以上で同様の法律が制定された。一方で,ブラジルのほか,アルゼンチン,ベネズエラ,ボリビア,パラグアイなどではいまだ制定に至っていない。その背景には,政府や国民,さらにマスコミの間にも,情報公開の重要性がいまだ広く認識されていないという実態があると指摘されている。

斉藤正幸